再生と宴
「……ううっ!」
勝利の実感と同時に、腹を走る激痛で僕はふらついてしまう。
さっき巨大ムカデに噛みつかれた傷が、今ごろ毒を回してきたんだ……!
「タイゾウさん!? ……いけないっ、今すぐ解毒を! リカバリー!」
駆け寄ったシェリーさんが手から緑色の光を放つと、その癒しの力が体中に満ちていき、痛みも徐々に和らいでいった。
「ふぅ……助かりました、シェリーさん。おかげで楽になりました」
「よかった~!」
僕の言葉に、シェリーさんは安心したように胸元で手を重ねてほっと息をついた。
そのころ、レオンさんがきびきびと次の指示を出していた。
「魔物は排除された! いよいよ蠱毒の森の浄化に入るぞ! 聖女様、よろしくお願いします!」
「はいっ!」
異変の中心、大木の根元へ歩み寄ったシェリーさんは、静かに膝をついて祈りを捧げ始めた。
同時に、彼女の身体から柔らかな光が溢れ出し、辺りを神聖な空気で包み込む。
「あれが……聖女様の本当の祈祷……」
「綺麗……!」
アンリとリリアも神妙な面持ちで見守っていたが、すぐにその空気が一変する。
大木から放たれる魔力が逆に活性化し、紫黒い瘴気が渦巻いて暴れ出したのだ。
「う、うっ……きゃあっ!」
「シェリーさん!」
魔力の衝撃で吹き飛ばされたシェリーさんに、みんなが声を上げる。
このままじゃ森の浄化どころか、シェリーさんに危険が及んでしまう!
「アイクさん! あの大木、切り倒すことはできないんですか!?」
「理屈では可能だが、あれをどうやって……」
「それなら僕に任せてください!」
僕は大木に鼻を絡め、巨体をぶつけるように渾身の力で体当たりをする!
ギギギギギ……!
鈍い音とともに大木が軋みを上げる。
魔力の反撃で皮膚が焼けつくように痛むけれど、僕は耐える!
「うおおおおおお!!」
「ディスペル!」
シェリーさんの援護で魔力が弱まり、僕は鼻と額を使って最後の一押しを加える。
ドォン――ッ!
巨木が倒れ、その勢いで瘴気に染まっていた周囲の木々も巻き込んでなぎ倒された。
すると、紫黒く淀んでいた森に、柔らかな陽光が差し込み始める。
「……やったのか?」
「ああ、これで……終わったんだ」
レオンさんとアイクさんが頷き合い、仲間たちは歓声を上げる。
「やった~~~っ! 勝利だわ!」
「ひゃっほーう!」
リリアとアンリも手を取り合って飛び跳ねる姿を見て、僕もようやく安堵の息を吐いた。
これで森も元の静けさを取り戻せるはずだ。そう願わずにはいられなかった。
ビオレに戻った僕たちは、騎士団と冒険者組に分かれて町へと向かう。
ギルドへ向かうと、建物の外には受付嬢のマユラさんが待っていてくれた。
「アンリ様からお話はうかがっています。今回の依頼、タイゾウ様のご活躍により成功とのことで――」
「いえ、僕一人の手柄じゃありません。みんながいてくれたからこそです」
「ふふふ、やっぱりお優しいんですね」
そう微笑むマユラさんにまで言われて、なんだか照れてしまう。
そんなとき――
「タイゾ~~~~!」
全速力で駆けてきたパピヨンお嬢様が、勢いよく僕の顔に飛びついてきた!
「無事でよかったのじゃ~~~! 蠱毒の森にまた行ったと聞いて、気が気でなかったのじゃ!」
顔に涙をこすりつけて泣くお嬢様を、僕は長い鼻でそっと包み込むように抱きしめる。
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫です、お嬢様」
「うむっ、それでよい! なのじゃ!」
そう言って涙を拭ったお嬢様は、八重歯を見せて朗らかに笑った。
そこへ追いついたノエムさんが、あきれ顔で声をかける。
「やっぱりここにいらしたのですね」
「むぅ~、ノエムの目はごまかせんのう……」
あはは、相変わらずな二人だ。
そこで僕は、みんなに向けてこう提案した。
「そうだ、お祝いに今夜は僕の奢りでパーティーを開きませんか? みんなで労い合いたいんです」
「おお! それは名案なのじゃ! ぜひ参加させてもらおう!」
「じゃあ私たちも準備するね!」
僕はたんまりもらった報酬で、町の喫茶店のテラス席を貸し切り、果物や飲み物をたくさん用意した。
夕日が街を赤く染める頃、参加者たちが次々に集まってくる。
騎士団のレオンさんやアイクさん、冒険者仲間のアンリとリリア、シェリーさんも綺麗なドレス姿で登場し、パピヨンお嬢様もご機嫌に現れた。
「それじゃあ、改めて――」
「「「乾杯~~~っ!!」」」
夜空の下、ジョッキを掲げた僕たちは笑顔でぶつけ合い、愉快な祝杯の音がビオレの町に響き渡ったのだった――。




