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猛毒の鱗粉

「おわっ!?」


 突然、空を埋め尽くすほどの数の蛾が舞い降りてきた。僕は思わず後ずさりしてしまう。


「ポイズンモスだ!」

「鱗粉には猛毒があります、気をつけてください!」


 アイクさんの声に、僕は目を白黒させる。

 そのとき、前へ出たのはシェリーさんだった。


「ここはわたしに任せてっ! ――《クリーン・ゾーン》!」


 彼女の魔法が放たれると、舞い散る毒の鱗粉は一瞬にして消え去った。


「よし、これで中毒の心配はない! 皆、迎撃に移れ!」

『おーっ!!』


 レオンさんの号令と共に、僕たちは戦闘態勢に入った。

 僕も長い鼻を振り回し、空中を舞うポイズンモスを次々叩き落とす。


 しかし――


「うっ……!」


 頭がズキズキと痛み始めた。魔法の浄化が間に合わないのか、鱗粉が蓄積している感覚があった。


 周囲を見渡すと、他のみんなも苦しそうに顔をしかめている。


「これだけの数……さすがに清浄魔法でも追いつかないか……!」

「ごめんなさい……私が未熟だから……!」


 シェリーさんがうなだれるが、その肩にアイクさんが手を置いた。


「気にすることはありません、聖女様! 毒にやられる前に片をつけましょう!」


 その言葉に皆が鼓舞され、全力でポイズンモスの群れに立ち向かった。


 結果――


「ふぅ……これで、すべて倒したか」


 肩で息をするレオンさんが見渡す先には、無数の虫の死骸が広がっていた。


「すごい数ですね……ざっと見ても五百は超えてますよ」

「はい、タイゾウさんも。毒消し飲んで」 「ありがとう、リリア」


 彼女が渡してくれた紫の小瓶を口にすると、体内を重く覆っていた不快感がすっと引いていく。


 一方で、シェリーさんは地面に積み重なった蛾の死骸をじっと見つめていた。

 何やら考え込んでいる様子だ。


「さすがに……多すぎる気がする」

「シェリーさん、何か気になることでも?」


 僕の問いかけに、彼女は立ち上がって答えた。


「本来ポイズンモスって、十匹程度で行動するはずなの。でも今回は……明らかに異常。あと……ううん、なんでもないよ」


 何か言いかけたシェリーさん。

 けれどその続きを語ろうとはしなかったので、僕も無理に聞くのはやめた。


 ふと横を見ると、リリアが不機嫌そうに手を振っていた。


「うえ~……虫触っちゃった……!」

「じゃあ、清めてあげるね。――《クリーン・ウォッシュ》」


 シェリーさんの魔法で手を浄められたリリアは、ぱっと笑顔になる。


「ありがと、シェリーさん!」

「これだけサンプルが揃えば、いったん外に出よう。戻って再調査だ」


 レオンさんの提案に皆が頷き、一行は蠱毒の森を離れることとなった。


 


 森を出た途端、リリアが地面に手をついてえずいた。


「うえぇ~、気持ち悪かった……!」

「よく頑張ったな」

「お兄ちゃ~ん!」


 アンリに抱きつくリリア。ほんと、この兄妹は仲良しだぞう。


 一方、シェリーさんとアイクさんは、森で得たサンプルの分析に取りかかっていた。


「どうですか、シェリーさん」 「うーん……やっぱり毒の瘴気が尋常じゃないね。これは……もしかすると……」

「最悪のケースも、想定して動いた方が良さそうですね」


 シェリーさんは静かに頷いた。

 その表情は、どこか張り詰めている。


「町に戻って、詳しく調べ直すのがいいでしょう」


 そうして一行は再びビオレを目指すことに。


 道中、再びグラスウルフの群れが襲ってきたが、手慣れた手付きで返り討ちにする。


「……やっぱり、こいつらもおかしいね」


 そう口にしたのはシェリーさんだった。


「グラスウルフって、獰猛でもここまで理性を失ったようには襲ってこないはずだ」

「確かに……よく知ってるねアンリくん」

「ま、まあな……」


 不意に褒められて、照れた様子で頭をかくアンリ。


「この毛皮、研究材料になるかもね」

「よく気がつくね~、さすがアンリくん!」

「い、いや……大したことじゃ……!」


 アンリの照れ顔に、僕とリリアは自然と微笑んでしまった。


「お兄ちゃんって、ああ見えてウブなの」

「うん、意外と可愛いよね」

「ちょっと!? その目やめてくれー!」


 ムキになるアンリに、みんなが吹き出す。

 そんな笑いの中、僕たちはビオレの町へと帰還した。


 


 町に入るやいなや、僕の鼻に飛びついてきた声があった。


「タイゾウ~っ!」


 飛び込んできたのは、パピヨンお嬢様だった。


「蠱毒の森に行ったって聞いたぞ!? 怪我はないか!?」

「ええ、大丈夫です。シェリーさんが助けてくれました」

「それは……良かったのじゃ~」


 安堵したパピヨンお嬢様は、ほっとしたのも束の間、僕の鼻にしがみついたままシェリーさんを鋭くにらむ。


「お主が……聖女かや」

「パピヨンお嬢様ですね~。はじめまして」


 シェリーさんはにこやかに挨拶をするが、パピヨンお嬢様の視線は一点に集中していた。


「ふんっ、わらわとてこれから成長期なのじゃ。お主には負けぬからな!?」

「ん?」


 ……ああ、どうやらシェリーさんのスタイルに張り合っているらしい。


 僕はお嬢様の耳元で、そっとささやいた。


「成長も楽しみですけど、今のパピヨンお嬢様も素敵ですよ」

「ほほう、よく言うたぞタイゾウ! やっぱりお主は分かっておる!」


 ご機嫌になって僕の鼻に頬をこすりつけるお嬢様。

 でも、シェリーさんへの牽制の視線は相変わらず鋭かった。


「お主にタイゾウは渡さぬからな、シェリーよ!」

「え、えっと……はい……?」


 そこへ颯爽と現れたのは、おなじみノエムさんだった。


「お嬢様、また抜け出されましたね。探しましたよ」

「うぐっ、ノエム……!」

「戻りますよ。まだお勉強が残っています」

「むぅ~……。仕方ないのじゃ。ではタイゾウ、また遊んでくれよなっ!」


 ノエムさんに連れられて、パピヨンお嬢様は渋々その場を後にした。

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