次なる冒険へ
この日はアンリとリリアが泊まっている宿屋の前で夜を明かすことにして、僕は一度町を出て食事をすることにした。
というのも、町の中で食事をしたら街路樹を二、三本丸裸にしてしまいかねないからだ。
食事は外で済ませたい。
町の外に広がる平原で、日が暮れるまで草を食み続けた僕は、予定どおり夜になってから町へ戻る。
そして宿屋の前まで来たところで、二階の窓が開いてリリアが顔を出した。
「おかえり〜、タイゾーさん!」
「ただいま、って言っていいのかな」
「お腹はいっぱいになった?」
「それはなんとかなったぞう」
「よかった! 夜はここでゆっくりしてってね」
リリアの言葉に甘えて、僕は宿屋の前で身体を横たえる。
こうしてのんびり寝転がれるのも町の中だからこそ。
外は魔物が出るし、安心して眠れないのだ。
そして翌朝、僕はアンリとリリアと一緒にギルドへ向かうことになった。
「付き添ってくれてありがとね、タイゾーさん」
「お安いご用だぞう。僕もギルドの一員として、今日はちょっと依頼を受けてみたいと思ってたし」
「公爵様の護衛で懐は潤ってるんじゃないのか?」
アンリの冗談まじりの疑問に、僕は少し真剣に答えた。
「それもあるけど……なんとなく、僕の力がまた必要になる気がしてるんだ。シェリーさんも報告しに来てたし」
「なるほどな。何にせよ、力を貸してくれるのはありがたいよ」
「もちろん、力になるよ」
僕が長い鼻で力こぶを作るように曲げると、アンリとリリアが声をあげて笑った。
働きたくないからゾウに転生したのに、今ではこうして仲間の役に立とうとしている。
我ながらずいぶん変わったものだぞう。
そうやって話しながらギルドに着くと、まずアンリとリリアが中に入る。
少しして建物から出てきた二人と一緒に、聖女のシェリーさんも姿を現した。
「あれ、シェリーさん。どうしてギルドに?」
「実はね、蠱毒の森の異変の件で、騎士団だけじゃなく冒険者の力も借りることになったの」
「そして俺たちも、その調査に同行することになったんだ」
「……あたしは正直イヤだけど。虫とか蛇とか、ほんとムリ~」
リリアが顔をしかめてぶるぶる震える。
前に聞いたとおり、彼女は毒虫系が大の苦手らしい。
すると、シェリーさんが真剣な眼差しで僕に頭を下げた。
「タイゾウさん。お願い、あなたの力も貸してくれない? この依頼、受けてくれますか?」
やっぱり――この予感は当たっていたんだ。
「もちろんです。僕でよければ、力をお貸しします」
「ありがとう! もう百人力だよ~!」
こうして僕も蠱毒の森の調査に同行することになり、まずは装備と物資の準備へと取りかかることに。
やって来たのは、町の薬屋。
「ここで傷薬と毒消しを買うのよ」
リリアが説明しながら扉を叩くと、中から小柄な老婆が現れた。
「あらいらっしゃい。……おや、見ない顔が多いねぇ」
「お婆さん、傷薬と毒消しをこれくらいお願いできますか?」
「はいはい、ちょっと待ってな」
しばらくして、老婆がかご一杯に詰めた青と紫の小瓶を持ってきた。
「はい、これで全部だよ」
「ありがとう。ちょうどいいわ」
リリアが銀貨を数枚取り出して手渡す。ちなみにお金は僕たち全員で出し合った割り勘である。
「毎度あり~」
薬屋を後にした僕たちは、必要な食料や装備も市場で揃えた。
「これで準備は万端ね」
「ああ、万が一に備えておくに越したことはない」
そのとき、シェリーさんが少し控えめな声で呟いた。
「あの……実は、傷の手当ても解毒も、私の魔法で対応できるんだけど……」
「それは分かってるよ。でも冒険者として最低限の備えは必要だろ?」
「そうそうっ。だけど、薬じゃどうにもならない時はよろしくね、聖女様!」
「うん! それこそが聖女の使命だからね!」
リリアのウインクに、シェリーさんは自信たっぷりに豊かな胸の前で手を組んで応じた。
そして翌朝――
僕たちはギルドの前で、騎士団との合流を待っていた。
「いよいよね……。はぁぁぁ……背筋がゾクゾクするぅ~!」
「大丈夫だよリリア、俺がしっかり守るからな」
アンリがリリアの肩に手を置き、やさしく声をかける。
うーん、アンリも頼れるお兄ちゃんだぞう!
「それじゃあみんな、よろしくね~」
「「もちろんです、聖女様っ!」」
シェリーさんがのほほんと手を振ると、アンリとリリアが片膝をついて信仰のポーズをとる。
僕も真似してぺこりと頭を下げた。
すると、ちょうどそのときギルド前に二人の騎士が姿を現す。
「皆の者、集まってくれて感謝する。俺はレオン。騎士団の代表として、この調査にあたる」
「私はアイク。どうぞよろしくお願いします」
金髪の男がレオンさん、黒髪がアイクさんらしい。
「今回は聖女様、そして冒険者の諸君にも力を借りる。お互い、力を合わせて頑張ろう!」
『おーっ!!』
レオンさんの掛け声に応じて、僕たちは一斉に声を上げた。
こうして、僕たちは蠱毒の森へと歩みを進めることになったのだった。




