表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/32

王都観光

 翌日、僕が馬小屋でのんびりしていると、パピヨンお嬢様が足取り軽くやってきた。


「タイゾウ、ごきげんようなのじゃ!」

「おはようございます、お嬢様」


 元気な挨拶に、僕もきちんと頭を下げて応じる。


 少し遅れて、メイドのノエムさんも姿を現した。


「ごきげんよう、タイゾウ様。もしよろしければ、お嬢様のお散歩にお付き合いいただけますか?」

「もちろん構いませんよ。でも、僕が王都を歩き回っても大丈夫なんですか?」 「問題ありません。タイゾウ様はバタフライ公爵の賓客ですから、ある程度の自由は保証されております」


 なるほど、ありがたい待遇だ。


「分かりました。ちょうど退屈してたところですし、いい気分転換になります」

「それでは、頼むぞタイゾウ!」


 そう言って僕を馬小屋から出したお嬢様は、自ら背中に乗るよう僕に促した。


「やはり高いのう! よい眺めじゃ!」

「ご満足いただけて光栄です」


 背中にお嬢様を乗せ、ノエムさんと一緒に王都の街並みをのっしのっしと散歩し始めた。


「さて、まずはどこへ行きましょうか?」

「うむ、そうじゃのう……ならば、ファルファーレ塔を間近で見てみたいのじゃ!」

「ファルファーレ塔って、あの高い鉄塔のことですか?」


 僕の疑問に、ノエムさんがうなずいて説明を加える。


「はい。ファルファーレ塔はこの王都のシンボルでもあり、観光名所のひとつです」


 なるほど、異世界版エッフェル塔というわけか。


「それでは、ファルファーレ塔へ行きましょう」

「おーっ!」


 パピヨンお嬢様の元気な掛け声に応じて、僕は大通りを進み始める。


「やはりお主の背中はよく揺れるのう」

「すみません、お嬢様。馬車の方が楽でしたか?」

「否、これはこれで面白いのじゃ」


 お嬢様の楽しげな声に、僕も自然と嬉しくなってくる。

 ノエムさんもそんな様子を見て微笑んでいた。


「お二方、本当に仲がよろしいですね。少し羨ましいです」

「何を言うておる、ノエムよ。お主はわらわの腹心であろうが!」

「ありがたきお言葉です、お嬢様。ボクもより一層、身を引き締めて参ります」


 パピヨンお嬢様の言葉に、ノエムさんは恭しくスカートの裾をつまんで一礼した。

 その仕草はやはりどこか気品にあふれていて、僕はふと目を奪われてしまう。


「……どうかなさいましたか? ボクの顔に何か……?」

「いえ、ただノエムさんって、上品できれいだな~って思っただけです」

「なっ……!」


 途端にノエムさんの顔が真っ赤になる。


「……あなたも、罪な殿方ですね」

「え? どういう意味?」

「あははっ、ノエムもタイゾウも愉快じゃのう!」


 背中の上でお嬢様が楽しげに笑う。

 こそばゆいような、でもちょっと誇らしい気持ちだ。


 そんなやり取りをしながら進んでいくと、やがて目の前にそびえ立つ巨大な鉄塔が姿を現した。


「お、大きい……!」


 アフリカゾウの僕でさえ圧倒されるその高さ。

 しかもただの塔じゃない。随所に蝶を模した装飾が施され、美しさまで兼ね備えている。


「おおお~っ! おっきいのじゃ~! タイゾウ! わらわを降ろしてたもう!」

「はい、どうぞ」


 僕がしゃがんで背中を下げると、お嬢様はふわりと降りて、弾むように鉄塔へ駆け寄っていった。


「なんて素晴らしいのじゃ! ビオレにもこれがあればよいのにのう!」

「お嬢様、それは財政的に難しいかと……」

「分かっておるわい!」


 ぷくっと頬を膨らませるお嬢様。

 その様子に思わずクスッと笑ってしまう。


 そのとき、僕は近くで肩を落としている青年に目が留まった。

 手にしているのは、どう見てもカメラ――それにそっくりな箱型の道具だった。


 異世界にもカメラがあるの!?


 気づけば僕は、その青年のもとへ駆け寄っていた。


「わっ、な、なんだぁ!?」

「あの、それってカメラですよね!?」


 僕の言葉に、青年の目が輝いた。


「おおっ、お目が高い! これはキャメラっていうんだ、東方から伝わった最新の魔道具でね~!」


「――タイゾウ! 置いて行くなや~!」


 追いかけてきたパピヨンお嬢様を見て、青年はさらに食いついた。


「そこのお嬢ちゃん、一枚でいいから撮らせてくれないかい?」

「キャメラ、とな?」

「一瞬で絵ができるすごい道具、って説明でいいかな」

「なんとっ、それは面白そうなのじゃ!」


 お嬢様はドレスの裾を持ち上げ、見事なポーズを決める。


「こうじゃ!」


 カシャッとシャッター音が響き、すぐにキャメラから現像された写真が出てくる。


「おおおっ! わらわの絵が……! もっと撮るのじゃ!」


 お嬢様は大喜びで次々とポーズを決めていき、僕も途中から加わってツーショット撮影。


 いつの間にか周囲には人だかりができ、キャメラの青年には長蛇の列ができていた。


 僕たちはいつの間にか蚊帳の外に――。


「……すごい人気だね」

「ふふーん、可愛いわらわのおかげなのじゃ!」


 誇らしげに笑うお嬢様。

 その手には、すでに何枚もの写真が。


 そこへようやくノエムさんが追いついてきた。


「お二人とも、どこへ行っていたのですか!? 探しましたよ!」

「ノエム、聞いてくれ! キャメラというすごい道具で……」


 と、そのとき。


 ――キュルル~。


 パピヨンお嬢様のお腹が、可愛らしく鳴った。


「う、うぅ~……!」


 顔を真っ赤にして恥ずかしがるお嬢様の手を、ノエムさんがそっと引く。


「お腹がお空きになったのですね。では市場へ参りましょう」

「う、うむ……」


 僕も後に続き、王都の大市場へと足を運んだ。


 その規模はビオレの比ではなく、人も物も、活気も桁違いだった。


「これが王都の市場……!」


 圧倒されて立ち尽くす僕をよそに、お嬢様は人混みの中を元気に駆けていく。


「ノエム、タイゾウ! あちらにうまそうなのがあるのじゃ!」

「お嬢様、あまりはしゃがれますと迷子になりますよ!」


 そう言いながら追いかけるノエムさん。そして僕も遅れてついていく。


 彼女が立ち止まったのは、果物の甘い香り漂う屋台だった。


「いらっしゃい! お嬢ちゃん、食べたいものはあるかい?」

「うむ、これが気になるのじゃ! モモリンゴをよこすのじゃ!」


 お嬢様が指差したのは、桃のような形に、リンゴのような赤色をした果物。


「はいよっ! ……そちらのデカいのは連れかい?」

「そうじゃ! こやつはタイゾウ、頼りになる相棒なのじゃ!」

「どうも、タイゾウです」


 挨拶する僕を見て、果物屋のおじさんは目を丸くして笑った。


「そいつは驚いた! そんじゃあおまけもつけとくよ」

「ありがたいのじゃ~!」


 たくさんの果物を受け取った僕たちは、近くの飲食スペースへ移動した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ