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王都ファルファーレ

「す、すごい……!」


 目の前に広がる巨大な町並みに、僕は思わず目を奪われた。


 賑やかな人通りもそうだけど、整然と並ぶ石造りの建物たちは、ビオレを遥かに凌ぐ規模を誇っている。

 そして、町の中心――放射状に広がる大通りの先には、まるでエッフェル塔や東京タワーを思わせる巨大な鉄塔がそびえ立っていた。


「ここがパピリオン王国の首都ファルファーレだ」

「これが……王都……!」


 アフリカゾウの僕でさえ小さく感じてしまうほどの、圧倒的スケール。


「それでは行こうか、タイゾウ殿」

「あ、はいっ!」


 バタフライ公爵に促され、僕は荷車を牽いて賑わう王都の表通りを歩き出す。


 それにしても、すごい人の数だなあ。

 人間だけじゃなく、耳や角、尾を持つ種族――どうやら亜人と呼ばれる存在もたくさんいるようだ。

 そういえばノエムさんも鬼人族だったっけ。


「……どうかいたしましたか? ボクの顔に何かついてます?」

「いえ、なんでもないです」


 もじもじしていたノエムさんに見とれていたのを誤魔化すように、僕は慌てて目をそらした。


 おっと、女の子をじろじろ見るのはマナー違反だぞう。


 そんな多様な人々を眺めながら進んでいたそのとき、ふと目に飛び込んできたのは、何やらトラブルの気配だった。


「タイゾウ? どうしたのじゃ?」


「お嬢様、少々お待ちください」


 パピヨンお嬢様に一言断って荷車を離れ、現場に駆け寄ると、そこでは兎の耳を持つ若い女性が、二人の不良青年に絡まれていた。


「おいウサミミちゃん、俺たちと遊ばねえか?」

「兎獣人は発情期が長いんだろ? ちょっと付き合えよ」


 うんざりするような態度に、女性は困惑を浮かべている。


「いえ、あの……遠慮します……」

「ああん? 獣人風情が生意気なんだよ!」


 青年の一人が手を振り上げたその瞬間、僕は割って入った。


「おっと、レディに手を上げるのは感心しないぞう」


「な、なんだこのデカブツは!?」

「喋ったぞ、こいつ!」


 驚愕する二人の前に、僕は兎獣人の女性を庇うように立つ。


「兎のお嬢さん、もう大丈夫ですよ」

「あ、ありがとうございます……」


 だが青年たちは引くどころか、逆に威圧的な態度を強めてきた。


「てめえ、獣人の味方かよ?」

「ちょっと人間様の怖さってもんを教えてやる!」


 殴りかかろうとしたその時、今度はノエムさんが颯爽と割って入った。


「なっ……!?」


 青年たちの拳を軽々と受け止めたノエムさんが、静かに言い放つ。


「お引き取りください。……さもなくば、痛い目を見ますよ」

「この、化け物が~~~!!」


 手を強く握られ、顔を引きつらせた二人は悲鳴を上げて逃げていった。


「化け物、ですか……まあ、鬼人はそう見られるものですから」


 呟くノエムさんの表情はどこか寂しげだった。


「気にしてます? あれはひどい言い草ですよね」

「……いえ。慣れています。……平気ですから」


 そう言う彼女の横顔は、どう見ても平気そうには見えなかった。


 そんな中、控えめな声が背後から届く。


「あの……助けていただいて、ありがとうございました」

「あ、いえ。気にしないでください。それじゃあ、行きましょうかノエムさん」

「はい。お嬢様たちもお待ちですから」


 僕とノエムさんは、再びパピヨンお嬢様たちの元へ戻った。


「むぅ、遅いのじゃ〜〜!」


 頬をぷくっと膨らませたパピヨンお嬢様に、僕はひたすら平謝りする。


「すみません、お嬢様。少々、放っておけないことがありまして」

「まあよい、それでこそタイゾウじゃからの!」


 ん? それってどういう意味……?


 疑問は残りつつも、僕は荷車を再び牽いて、公爵たちが宿泊する宿へ向かった。


 バタフライ公爵に導かれ、たどり着いたのは、まるで高級ホテルのような豪華な建物だった。


「ここに泊まるんですか……?」

「そうだ。……私としてはもっと質素なところでもよいのだが、国王陛下がどうしてもここに泊まれと仰るのでな」


 苦笑しながら肩をすくめる公爵に、僕も思わず笑ってしまった。


 目の前の宿は、金の壁に宝石が散りばめられた豪奢な建物で、アフリカゾウの僕でさえ見上げるほどの大きさだった。


「それでは行くぞ、タイゾウ」

「え、僕も中に入れるんですか?」


 パピヨンお嬢様の一言に驚いていると、公爵が続ける。


「この宿は巨獣種の訪問も想定されて造られている。ロビーまでは問題ないだろう」

「なるほど……」


 異世界に来て初めての建物内潜入、ちょっとワクワクしてしまう。


 巨大な扉が開かれると、中はまさに豪華絢爛だった。


「これが異世界の……高級ホテル……!」


 天井には大きなシャンデリアが幾つも揺れ、中央にはおしゃれな螺旋階段。

 床には真っ赤な絨毯が一直線に敷かれている。


「お、お邪魔します……」


 絨毯の上をそろそろと歩きながら、その香りや煌びやかさにうっとりしていたら、受付の女性が僕を見て目を丸くした。


「お客様……? その方は……」

「ああ、このお方は我らバタフライ家一行の同行者、タイゾウ殿だ。失礼のないようにな」


 当然のように紹介してくれたバタフライ公爵に、僕の胸はあったかくなった。


「あ、かしこまりました……! それでは、タイゾウ様以外の皆様はこちらへどうぞ」


 公爵たちは階段を上がっていき、僕はというと……やっぱり外の馬小屋へ案内された。


 まあ、当然だよね。

 こんな大きなゾウがロビーに居座ってたら邪魔になるに決まってる。


 でも、この馬小屋も案外悪くなかった。

 敷き詰められた藁はふかふかで、暖かくて、快適だ。


 馬たちが僕を見てビクッと驚いていたのはちょっと申し訳なかったけれど……。


 お馬の皆さん、今夜はお世話になります。


 こうして僕は、その晩を馬小屋でゆったりと過ごすことになったんだ。

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