新たな依頼ー1
一人の兵士が、赤く灯るカンデラを手に、暗闇に包まれた街の中を歩いている。
ただ……巡回にしては、やけに軽い足取りであった。
「いやー、ここで変な事件なんて思ったこと無いから、気が楽だなー。」
この都市『ミレトリア』では犯罪率0。
巡回は、迷子を保護するためだけのようなものだった。
兵士は鼻歌を歌いながらも、路地裏など見落としがちな場所を確認していく。
港の方を軽く巡回していると、唐突に背後から声が掛けられた。
「あの……ちょっと、いいですか?」
「うん?」
振り返ると、ボロボロのローブを被った青年が立っていた。
腰には鉄剣、駆け出しの冒険者に見える。
兵士は疑いもせず、優しく尋ねた。
「どうしたんだい?」
彼が尋ねると、その青年は若干おどけながらも口を開く。
彼の言った内容は、迷子になってしまった……『六番街道』に行きたいとのことだった。
『そこに帰る人は、裏ギルドの人達だった気がするな』と思いながら、彼は案内をすることにした。
そして、しばらく歩いていくと……。
「ここが、六番街道だよ。」
「あ、ありがとうございます!」
青年は礼を言い、さらに『お礼がしたい』とついて来てほしいと申し出る。
兵士は少しも疑わず、同意した。
だが、青年の様子が徐々に変わっていった。
足音は軽いのに、どこか鈍重な影が後ろに付き、
カンデラの光に、ローブの影がわずかに歪む。
「ど、どうしたんだい?」
彼は、恐る恐る青年に訪ねる。
彼の言葉を聞いて、青年がゆっくりと振り返り――
「ヒィッ!」
ワームのような口が、ローブから出ていた。
瞬時に助けを呼ぼうと走ったが、足には触手が絡みついており、転んでしまった。
金属が激しく叩きつけられる音が響く。
彼は、震えながらその【化け物】を見た。
化け物は、ゆっくりと口を開けて迫って来た。
恐怖のあまりに、汗か涙かは分からないが、冷たい物が頬を流れ落ちる。
「ああ、た……助け――」
その言葉を最後に、彼の意識は途絶える。
六番街道から、何度か骨が砕けて肉が拉げる音が鳴り響いた。
次に、血を啜るような音が流れ始める。
「おん?」
偶然通りかかった兵士が、六番街道の前で足を止めた。
「何の音だ?」
そういった兵士は、恐る恐る六番街道に足を運び……。
「……?」
そこには、何もなかった。
血の滲みどころか、匂いすらもだ。
まるで幻だったかのようにすべてが消えていた。
そして、その奥には同僚がいた。
話を聞いてみると、迷子の青年を案内をしていたらしい。
兵士が聞いた音を、同僚は聞いていなかったようだ。
話を聞いた兵士は、何があったのかを少しだけ考えてみた。
結局何も分からず、幻聴だろうと結論づける。
「気のせいか……。」
そういった兵士は、六番街道を後にして、再び夜の巡回を始めた。
ダンジョン防衛から約三日後……。
私達は、依頼を受けに冒険者ギルドへと足を踏み入れていた。
そして、ゆっくりと掲示板を見ていると、受付の方から声が掛かって来た。
「お……フェリスさん一行、おはようございます!」
「レイさん、おはようございます!」
挨拶をしてきたのは、このギルドで散々お世話になったレイさんであった。
レイさんの銀髪が、窓から差し込んでくる光を反射して輝いて見える。
にしても、レイさん本当にスタイルが良いよなー。
出る所は出ていて、身長は高いし……。
なにより、笑顔が眩しいっ!
「今日は、依頼ですか?」
「はい!」
あの時の疲労もしっかりと取れたのか、元気よく答えることが出来た。
レイさんが付いて来てくださいと言って、個室へと案内された。
この個室も三日ぶりだなと思っていると、レイさんが真剣な表情で訪ねて来る。
「皆さんは、【祝福都市ミレトリア】を知っていますか?」
「「「「み……ミレトリア?」」」」
唐突にそんなことを聞かれ、私達の頭には一斉に疑問詞が浮かび上がる。
私達の反応を見て、レイさんが苦笑いをした。
「その様子だと知らなそうですね……。」
「はい、知らないです。」
はっきりとそう答えると、レイさんは優しい声で『ミレトリアが何なのか今から説明しますね』と言った。
さて……レイさんの話を聞いて、ミレトリアについて以下のことが分かった。
まず一つ、ミレトリアとは別名【祝福都市】または【理想都市】と呼ばれていること。
二つ目、ミレトリアは【独立都市】として存在していること。
三つ目、フェヅス街を東に馬車で二週間進むとミレトリアに着くこと。
四つ目、ミレトリアは不思議な力によって、自らの理想を実現可能な形にできること。
五つ目、ミレトリアには種族差別等が存在せず、犯罪率が0だったこと。
六つ目、夜景がきれいなこと……いやこれ、レイさんの趣味じゃないっ!?
「へー、随分とご都合主義な都市なんだな。」
フレイムが胡散臭そうに言い放った。
「大変信じがたいのは分かります。 実際私も訪れるまでは半信半疑でしたし……。」
レイさんはそう言いながら、フレイムの言葉に同意する。
晄は、どう思っているのかな?
え、『この街も十分素敵だよ。』って……本当に優しい子だな。
因みに小白ちゃんは、意味が分かっていなそうだった。
ずっとキョトンとしていて、可愛い。
「でも、そんな話をするってことは、何か異常が起きたんでしょ?」
頭の中で、五つ目の内容を思い返しながらレイさんに聞く。
「はい、フェリスさんの言う通りです。」
そして案の定、レイさんは異変があると頷く。
なぜ気づいたかって?
いや、さっきレイさんが五つ目の話で『ミレトリアには種族差別等が存在せず、犯罪率が0だったこと。』と言っていたよね?
つまり、今は犯罪が何故か起こっていると捉えること出来る。
よって、異常が起こっていると結論づくわけだ!
「それで、どんな異常が?」
私は、真剣な表情でレイさんに聞く。
レイさんは数秒黙った後、静かに口を開いた。
「ミレトリアで、原因不明の失踪事件が発生しているのです。 住民の方々も含め、何人かが跡形もなく姿を消しました。」
「えっ!? 人攫いなら良くある話じゃ……?」
フレイムの言葉に、私達全員が頷く。
ただ、レイさんの表情は、やけに硬かった。
「それが、その……『夜中に血肉を啜る音が聞こえる』だの、『微かな金属音がした』だのという幻聴とも捉えることが出来る報告が相次いでまして……。」
「うーん、急に事件が起こったことによって生じた恐怖が、風とかの音を幻聴として捉えたんじゃないの?」
レイさんの話した内容に対して、晄が唇を人差し指で抑えながら意見する。
確かに、その線もあるな……。
必要以上の恐怖が別の何かとして捉えるという事は、意外と起こりうるものだからな。
「確かに私達もそう思いました。 ですが、何人かが跡形もなく姿を消したのは事実でして……。」
「夜逃げは……考えられないか。 そんな理想都市捨てるまでもないもんな。」
「そうだよね。」
私とフレイム、晄は揃いに揃って頭を抱える。
そんな中、部屋に侵入してきた蝶々と遊んでいた小白ちゃんが不意に一言漏らした。
「巡回していた兵士さんの身には、何かあったの?」
「あー、怪しい人は見ていないとは言っていましたね。 後は、道案内をしたのだとか……。」
小白ちゃんの疑問に対して、レイさんは答える。
その道案内をしてもらった人が怪しいのではと思い、レイさんに言ったのだが。
道案内はここ数百年間でよくあるとの事だ。
ましてや、夜の巡回は迷子を道案内するためだとか……。
「何にも分からんっ!」
そういったフレイムは、背もたれに思いっきり寄り掛かる。
その言葉に対して、晄も首を縦に振る。
「そこで、ギルドマスターから皆さんに『調査』の依頼を出したいとのことです」
「え、よりによって私達なの?」
「はい。 皆さんは、活動期間自体は短いですが……実力は十分にあります。 それに、他の方々には南のダンジョン制圧に行ってもらう予定なんです。」
レイさんは、私達の目をしっかりと見ながらそういった。
「分かりました。 その依頼、受けさせていただきます。」
「ありがとうございます!」
私が依頼を受けると宣言すると、レイさんが嬉しそうに何度もお礼を口にする。
そんなレイさんに対して、私達は『気にするな』と言った。
そうして、両者が落ち着き始めた頃、依頼の内容について詳しく話すこととなった。
レヴァ「……今回の事件、匂うぞっ!」
鑑定神「え、何が?」
レヴァ「厄介ごとの匂いがな!」
鑑定神「それ、いつもじゃない?」
ベルグシオン「いいえ、いつも以上ですよ。 この危険度は五くらいですかね?」
レヴァ「ああ、そうだな。」
鑑定神「危険度って何!?」
ベルグシオン「【死にやすさ危険度】です。 最大は十ですね。」
鑑定神「えー、十って……実際に居るの?」
ベルグシオン「はい、かつては居ましたよ。 かつてはね……。」
レヴァ「つまり、今は居ないということか……。」
ベルグシオン「はい。 偉大なる氷天使様が討伐いたしました! 約半月前にですが……。」
鑑定神・レヴァ「半月前……本編開始前ですか。 それって誰なん?」
ベルグシオン「【衰退と絶望 デスティグラウス】です。 ステータスとかは、ごにょごにょ……。」
鑑定神・レヴァ「やけくそ強化じゃん。」
ベルグシオン「改めてみると酷いですね。」
鑑定神「天使ちゃん達、良く倒せたよね……どの世界でも滅亡するレベルじゃん!」
ベルグシオン「あいつのせいで、我らが信仰している氷天使様に代償が……っ!(咽び泣く)」
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