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輝鑑 後世編纂版  作者: 担尾清司
序前枠:将星集いて、英雄発射の装薬整うのこと
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序ノ漆:将星集いて 07

「さて、若。本日はなにをなさっておいででござるか」

 孫四郎がなにかを作っているのを見た北山は、武術の稽古を終えていることを確認した後に孫四郎に近寄り、声を掛けた。孫四郎の方も、北山にはよく懐いていたのか、振り返って先程まで武術の稽古をしていたことをうかがわせる表情をしつつ、手元の「試作品」を見せることにした。

「ああ、その声は北山か。……見ての通りだ、新しい武器を考えている」

「ほう! ……して、いかなる」

「元寇の折り、火薬を使った兵器があったろ」

 元寇、つまりは文永の役や弘安の役のことであるが、モンゴル軍が使った兵器の中に火薬玉があったことは、皆様ご存じであろう。彼はそれを見た振りをして、銃火器の提案をすることにした。

「ああ、「てつはう」でござりまするな。爺も見たことはございませぬが、恐らく強力な焙烙火箭といったところでしょうか」

 当時「てつはう」と呼ばれていたらしいその火器は、いわば焙烙玉を投石器で投げつける、一種の迫撃砲であったが、続成は(まあ、逆浦転生者である以上は当たり前なのだが)その「てつはう」をより解像度高く思案していた。後に榴弾砲を発明(再現)するのは、彼なりに自身の言動に説得力を持たせるためというのもあったのだが、ゆえに彼は急ぎの発明品以外はそれなりに段階を踏むことも忘れてはいなかった。

「そこで俺は考えた。……そこまでデカイ威力を持つ物質があるんだったら、それを投げて炸裂させるだけではなく、その威力を使って矢とか槍を遠くまで届かせることができるのではないか、と」

 それは、ただの鉄砲への萌芽ではなかったらしい。と、いうのも、彼は既にこの時期、進化した火薬によって武士というものが特殊な武芸集団から軍事知識を糧とする将校団へと進化するための編成を脳裏で完了していた節がある。一説には既に大陸や大海を横断するロケットやミサイルといった存在すら予言|(というよりは未来知識による疑似的予知)しており、中でも「窒素固定」を目指して火薬の大量生産を行おうとしたことは今でも語り草となっている。通称「続成革新」と称される諸制改革は、この時期に既に始まっていたというのははたして言い過ぎだろうか?

「……ふむ、しかし槍は飛ばすものではございませぬし、矢なれば弓があるではございませぬか」

 実はこの時期、槍を飛ばす程の大砲は震旦に存在しており、あるいは孫四郎はそれを見た可能性もあるのだが、彼はこの時期においては未だ但馬国を出たことはなく、ゆえになぜそれを知っていたのか、後世の我々からしても謎なのだから、当時の人間にとっては最早天魔鬼神といった方が説明が楽ですらあった。そして、孫四郎は恐るべき発明を言い放つ。

「まあな。……だが、仮にそれが印字撃ちに使うような石と同じ重さを持つ鉛だったら?」

「……印字撃ちの石が、とんでもない速さで降り注ぐことになりましょうか」

「さすがは北山だ。……「てつはう」の名を借りて、それを「鉄砲」と呼ぶことにしようと思う」

 ……それは、近代戦へのさきがけであった。とはいえ、鉄砲を作っただけで近代戦が再現できるわけではないのだが、鉄砲こそが近代化への必須仮題であると考えた場合、日本の夜明けは垣屋孫四郎から始まったと言っても、まず間違いないほどであった。とはいえ、鉄砲への課題は山積みである、はずだった。何せ、ネジ釘一本にしたって、まだ本朝では発明されていないのである、それを一から生産するのは、いかな孫四郎だとしても困難に見えた……はずだ。それに……。

「……は、しかし鉄は貴重な物質、はたして斯様な実験に使ってもよいものでございましょうか」

 鉄という存在は、本朝において実に貴重な物である。無論それは、硝石つまりは火薬も同様である。鉄はまだ、再生産できるが、火薬は使ってしまえばお仕舞いである。少なくとも、周囲の者にとってはそれは至極当然な認識である、はずだった。……だが。

「それだよ。……将来的にはその「鉄」を大量生産しようと思っている。無論、原材料がないと難しいが、生産速度を上げることは必須仮題だ」

 ……孫四郎は、本来ならば2000度を超える高温を発する熱量を作り出さなければ達成できないであろう技術を、いとも容易く言ってのけた。と、いうのも、本朝でなぜ鉄が貴重であるかと言えば、すみたきぎによる熱量には限界がある(概ね、木製燃料では1200度が限界とされていた)がゆえに鉄をうまく溶かしきることができないからなのだが、彼はその熱量の向上というものに真っ向から取り組むことをせずに、しかし結果としては向上に相当する方法を提案し始めた。と、言うよりそれは最早予知や予言などというちゃちなものではなかった。

 そう、その行動は、最早……。

「……はあ、然様でござりまするか」

「うむ。まだ理論しか存在していないが、反射炉を作ることが出来れば、我等飛躍的に国力を向上させられるぞ」

「……はんしゃろ、でございますか」

「ああ。熱を作る部屋と鉄を作る部屋を別けて、天井や壁に熱を反射させて鉄を精製する部屋へ送り込む技法だ。まあ無論、俺が何の支援も受けずに作れるか、って言われれば疑問符が付くが」

 この時期に、彼は反射炉を予言し、同時に鉄の生成のために石炭を使うことを脳裏に置いていた。石油こそ本朝には僅かしか存在しないものの、石炭ならばある程度まとまった数は存在するし、後に人造石油も考案する程度には彼は、化石燃料というものに対して独占を試みることを恐れなかった。と、いうよりは、彼は事実上、本朝躍進のためだけにこの天下万民を掌握することを考えており、それすらも手段に過ぎなかったというのだから、その深謀遠慮はいかばかりか……。だが、その深謀遠慮にして神算鬼謀の持ち主は、鉄の生成という面だけにおいても、ある要素を完全に忘念したまま突っ走ろうとしていた、それは……。

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