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輝鑑 後世編纂版  作者: 担尾清司
第二部第三話:垣屋続成、但馬へ帰還し初めての論功行賞を行うのこと

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第肆雪(75)章:後継者はどっちだ 05

「続成! 続成はどこじゃ!」

 廊下を派手に踏みならし、衾を強かに開けた宗続は、続成を荒っぽく探していた。それに対して豊武、つまりは宗続の弟であり、つまりは続成の叔父に当たる人物が呼び止めた。

「兄上、如何なる騒ぎで御座いますか」

「おお、豊武か。……あの阿呆めがまた騒ぎをおこしおった!」

 何か、癇癪でも起きたか。それとも逆鱗に触れるような何かがあったのか。宗続は非常に顔を怒らせており、このままでは危ないと思った豊武は、敢えてとぼけることによって宗続をなだめることにした。

「……はて、続成が騒ぎをおこすのはいつものことでございましょう。何か逆鱗に触れることがございましたか」

「……あの阿呆、大殿の嫡子の病を治しおった!」

「それは、果報でございましょう。何故に怒っておりまするか」

 事の次第だけを考えたら、本来ならば褒められこそすれ、怒られる筋合いは無いはずである、少なくとも、事の次第、直接成したことだけを考えれば。だが、今回は事情が少々異なっていた。

「あのなあ!! ……豊武よ、御主も何故今続成が嫡子様を治したらまずいか理解して居ろう!?」

 その声は、屋敷中に響いており、当の本人にも聞こえていたのだが、敢えて火中の栗を拾うを真似をするのは、豊武以外誰も存在しなかった。

「……お家騒動のことで御座いますれば、ご安心なされ。どうやら、若が兄の病を治せるかと、続成めに依頼した由にございますれば」

「……なんじゃと?」

 ……続成は、単に依頼をこなしただけであり、それは上官の息子がその権限を使った依頼でもあった。当然ながら、それならば話は違ってくる。

「……大殿に、そのように報告してまいる。本当じゃろうな!?」

「何なら、若殿も連れて行った方がいいのではないか?」

「……そうしよう!」


「おお、宗続。何か判ったか」

「……大殿、どうやら若が依頼して、兄の病を治してくれと続成に頼んだようで御座る」

「……なんじゃと? ……本当なのか、俊豊」

 宗続の報告内容に、政豊は信じられない顔をして俊豊を問うた。明らかに、それはおかしな経緯であったからだ。そして、俊豊はそれに対していとも涼しい顔で、返答した。

「はい。兄弟仲が宜しければ、お家騒動も起こりますまい」

「いや、しかしじゃな……」

「ええ、兄上が本当の兄上なのは存じております」

「しかしじゃな、さすれば御主、廃嫡されかねぬぞ?」

 それはつまり、そういうことだ。三国志で例えるなら、曹ヒが後継者と決まった後に、何故か曹昴が生きており、確かにそれが本人だと認められたという異常事態に相当するものであった。

 当然ながら、そんなことが本当に起これば事態は紛糾する。

 だというのに。

「ああ、それならば心配御座いませぬ。兄上に譲ろうと思っております」

 ……俊豊は、本気だった。本気で、兄に家督を譲ろうとしていた。

「……嘘を言うでない。御主、いつそこまで殊勝になった」

「ああ、そのことで御座いますれば。……畏れながら、この場で最も長生きをするのは誰で御座いましょうか」

「……ああ、そういうことか。御主、本気のようじゃな」

 俊豊が言いたいこととは、つまり。

「はい。恐らく、最終的に家督は致豊が継ぐでしょうな」

 ……続成の神算鬼謀は、ある種の縮地行為であった。と、いうのも、つまりは続成は、家督騒動で山名家が一騒動起こるのであれば、予め若干の情報を漏らしておいて、山名常豊、山名政豊、山名俊豊の順に相次いで死ぬことをいいことに、ある種の家督相続へのしがらみを一気に取っ払うことによって山名家の長期安定を図ることにしたようだ。

 それは、続成なりの奉公方法であり、同時に……。

「……まさかと思うが、続成めは……」

「どうやら、かの幼顔には、某や父上、兄上の寿命の蝋燭はひどく短く見えるそうで」

 からからと笑う俊豊であったが、それは非常に非情といえた。案の定、宗続は顔を真っ赤にしたり真っ青にしたりと非常に滑稽な態度を示していた。

「……まあ、あの孫めがそう見るのであれば、恐らくそうなのだろう。……宗続」

「は……ははっ!!」

「くれぐれも、孫めを叱らんようにな。あれとて、善意でやったのであろう。ゆめゆめ、萎縮させんようにな」

「……は、ははっ」

 ……斯くて、垣屋続成は命拾いしたのだが、それを知る者はこの三人だけだったという。

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