第肆拾(74)章:後継者はどっちだ 04
「これが、その抗菌丹とやらか」
「はい。一見丸薬に見えますが、胃酸に耐えうるものでくるんである、カプセル剤に御座います。なので、一息に飲み込んで下され。ひとまずは、毎食後によろしくお願いいたします」
「……そうか、斯様な粒がのう」
「仁丹を参考にし、銀箔でくるんで御座います」
「ああ、そういえば、御主の所領には金銀の取れる鉱脈があったのう。では、飲むとしよう」
「御意」
と、言うや常豊さん……じゃなかった、左衛門佐様は銀箔でくるんだペニシリン製剤を白湯で飲み干し、一息ついた。
「さて、続成よ」
「はっ」
「これでよいのだな?」
「ははっ」
「……本当だな?」
「はい」
「……まあ、良かろう。して、儂に何を望む」
「ひとまずは、緩解を」
……む、神童麒麟児にしては察しが悪いのう。
「……ああ、そう言う意味では無い。儂を生かしておいたら、騒動が起きるやもしれん。俊豊も、本来ならば儂が生きていては邪魔じゃろう。何が望みだ」
「……右衛門督様も、弾正少弼様も、おそらくは左衛門佐様が少しでも延命できれば万々歳なのではないかと」
「話を逸らすでない。……儂を生かして、御主は何を望む。後ろ盾か? 権威か? それとも、まだ他に何かあるのか?」
……あー、だいぶひねくれてはるなあ。なれば、少々劇薬ながら、喝を入れましょうか。
「……お言葉にお言葉を返すようで恐縮ながら、某は医師の側面も御座います。眼前に依頼された、あるいは窮余の患者がいるのに、助けないという選択肢は御座いませぬ故」
「……よく言うわ、丹後での所業、儂が知らぬと思うてか」
「あれは、敵に御座いますれば」
「……御主、敵にもし前に助けた患者がいれば、殺すのか?」
「それが、武士というもので御座いましょう」
「……そうか。……誰が言ったのかは忘れたが、武士とは犬畜生が如きとはよく言ったものよ。……ゆめゆめ、医師としての側面も忘れるでないぞ」
「肝に、命じまする」
「おう」
そして、文明十七年五月下旬のことである。播備作征討戦より帰還した山名政豊らを出迎えたのは、なんと山名常豊であった。政豊は、当然のように驚愕した。
「常豊! 御主そのように出歩いて大丈夫なのか!?」
「……はて、続成めを派遣したのは父上ではございませぬのか」
そらっとぼけた常豊であったが、若干疫病前より太ることに成功していた彼は、精を付けると称して肉食を続成から薦められ、その旨さに進んで食べるようになった。とはいえ、それで太っても、健康体に近づいたに過ぎない状態ではあるのだが、まあそれは措こう。
「……どういうことじゃ、宗続」
宗続に向き直り、事の次第を訊ねる政豊。だが、それは宗続も当然、あずかり知らぬ事であり、若干胃を痛めながらも、今度こそ続成をしばいてでも次第を吐かせようとすることを決意する宗続であった。
「……ははっ、彼奴に聞いて参りまする」
「なんじゃ、御主も知らんかったのか。……まあ良い、しっかと聞いて参れ」
「ははっ」




