第肆漆(71)章:後継者はどっちだ 01
「!? ……左衛門佐様が?」
「まあ、危ないといってもある意味いつものことではあるんだがな……」
「……いつものこと、ですか……」
左衛門佐、つまりは山名常豊が「危ない」、つまりは病床にあるというのは但馬の山名屋敷では日常風景ではあったのだが、いよいよ「危ない」ということは、命に差し障りがある、ということだ。一応、彼の名誉のために記述するが、読者世界において山名常豊が「早世」したのは文明十八年九月であり、今現在はまだ一年以上「寿命」まで存在するのだが、様々な要因が絡みついており、彼の者の寿命はそこまで長くない、と思われてきた。
そして、続成にお鉢が回ってきたのは、前々から「知謀、湧くが如し」と讃えられてきた「神童麒麟児」であるから、というのもあったが、実は続成の屋敷の一室からは、薬品のにおいが常日頃から漂っていると噂されており、それは事実であった。
さらには、続成がわざわざカビのついた食品を求めたり、流木の種類を問うたりしていたことから、それは確定的であった。
そして、続成は観念して白状した。
「……効くかどうかは、保証できませぬが……」
「おお、やはり何かしら策があったか」
「はい。……ある種のカビは、細菌を駆逐する効能がございましてな、カビをそのまま摂取しては毒にやられまするが、カビの中の有効成分を単離抽出すれば、有用な薬が作れまする」
「……済まぬ、続成。医師の間の言葉は、俺にはわからぬ。もう少しわかりやすく説明してもらえんか」
「……これは、失礼をば。つまりは、特定の種の蒼いカビの中には、病気の原因を潰す効能がある物を出すものがおりましてな、その病気の原因を潰す効能がある物だけを選び出す方法があれば、薬として作用します」
「まだ難しいが……、一応、理解はした。故に、蒼いカビであったか」
「はい」
「……で、だ。その様相であれば、その「選び出す方法」とやら、もう完成しているのであろう?」
「……理論だけでは、ございますがな」
「さすが続成よ、それでは早う兄上の下へ向かうぞ」