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輝鑑 後世編纂版  作者: 担尾清司
第二部第二話:垣屋続成、丹後への援兵作戦で八面六臂の活躍をするのこと

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第參水(63)章:丹後錯乱 05

「莫迦な」

 武田軍九千六百は、垣屋続成の行った守勢防御によって壊滅的打撃を蒙った。否、それは壊滅的打撃なんて生やさしい代物ではなかった。難波田の川筋にぷかぷか浮かぶ武田家の足軽だった土左衛門(尤も、この当時その形容句はなかったのだが)は列を成し、早くも虫がたかりはじめ魚に食い荒らされていた。

 後世の軍事学においては、「潰滅」は「三割」、「全滅」は「五割」、字義通りの全滅はすなわち「殲滅」ないしは「玉砕」である、と記されるわけだが、武田家の命運を賭けて動員された総計九千六百の兵達――その中でも組頭以上の人物はまあだいたい六百から千であろうか――は、物の見事に「全滅」した。

 否、全滅ですらなかった。武田家が難波田――現在の舞鶴軍港と小浜商港の間くらい――近くで雑魚の餌にしてしまった兵員の数は、組頭以上の人物を含めて七千余――つまりは、七割以上――にも昇った。いわゆる、「北陸武田崩し」である。

 しかし、この(武田家にとっては)悲惨そのものの戦闘すらも「丹後若狭逆撃戦」の一場面にしか過ぎなかった……。


「……殿、かくなる上は……」

「あ、ああ。……最早、儂の代では丹後は獲れぬだろう。退くぞ!」

 そして、武田家が引き始めた、その場面で彼等は更なる大打撃を蒙ることとなる。

「……おい、あれって武田家の旗じゃないか?」

「丁度良い、勝手働き承知で仕留めさせて貰おう」

 ……大物見として派遣されていた戦略爆撃部隊、つまりは飛行船に乗っていた譜代が判断したのは、追撃であった。続成は地上部隊には追撃を禁じていたが、飛行船部隊に対してはある程度の裁量を任せていたために彼達は敗走する武田家に対して更なる攻撃を加えることにした。

 そして、それを遠眼鏡で見ていた続成は、複雑な表情をしたまま次のように呟いたと言われている。

「俺だって、兵数に余裕があればやってやるわいに」 

 ……まあ、千の手勢だけで本当に武田家九千六百を撃滅できるとは彼も思っていなかった節もあって、遅滞防御に留める策戦を練っていたのだが、事ここに至っては追撃の策戦もそれなりに有効と言えた。

 誰しも、後世の人間では嗤えども、当時において本当に布哇を二度も三度も強襲できる強靱な心臓を持つものは少ない。

 たとえ逆浦転生者と言えども、最早歴史を別っている以上は()()()()であった。


「殿」

  家臣の一人が何か言いたそうな目で見つめている。……悪かったな、俺だって予想外なんだよこの事態は。

「……解っている、追撃の許可は出す。騎兵隊に伝達、鉄砲隊をそれぞれ一人ずつ乗せ、追撃に迎え!」

「……畏れながら」

「どうした」

  なんだ、追撃の許可じゃないのか? だったらなんでそんなジト目で睨むんだよ。

「……先程の銃声で馬が怯み、まともに走れませぬ」

「……えー……」

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