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輝鑑 後世編纂版  作者: 担尾清司
第二部第一話:垣屋続成、管領細川政元の仕掛けた罠に対して高らかに嗤い上げるのこと
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第參空(48)章:秘策 01

 文明十七年四月二十日深夜、六角家の陣屋を訪れた者がいた。言う必要もあるまい、続成の使者であった。

「誰じゃい、こんな夜更けに」

 応対するは六角家重臣である伊庭。現当主行高の行政を補佐した経験もある彼が本来、取り次ぎなどに来ることはないのだが、盟を結んだこともある山名家と関係の深い垣屋家の使者であるということを認識したがゆえに門前の応対を受け持つことにしたようだ。

「垣屋続成が家臣、大饗(おおあえ)と申します」

 一方で、三畳石紋の旗を背負った使者は「大饗」と名乗った。大饗と聞いてもわからない人の方が多いだろうから彼の本来の苗字を記述するとしよう。彼は楠木党の生き残りである楠木正盛が後裔であり、正盛が河内国の大饗村に居を置いたことから苗字を変えたのだが、彼の孫がかの有名な能筆家、大饗甚四郎、後の楠木正虎であった。垣屋続成は生涯右筆を置くことはなかったが、嫡男続貫の書道指南役として後に頭角を現すのだが、今は一介の使者にすぎなかった。

「大饗じゃと? ……まあよいわ、垣屋殿の頼みとあらば、山名様も知っておろう、入れ」

「ははっ」


「して、大饗とやら、殿に何の用だ」

「はっ、二度と六角氏が幕府より討伐を受けぬように「まほう」を掛けにきてございます」

「……なんじゃと?」

 歩きながら大饗に用件を聞き出す伊庭、それに対して大饗が答えた文句は、おおよそ想定外の返答であった。幕府が六角氏を討伐しようとしたのは奉公衆や寺社領、公家衆荘園などを横領していたからであり、それを止めない以上はどう考えても二度目の討伐軍が編成されるのは明らかであるはずだったからだ。

「殿、伊庭でございます。垣屋氏の使者とやらが訪問に参りました」

「入れ」

 そして、既に観音寺城に戻っていた六角行高は年齢を感じさせない程度には威厳のある声を出して入室を許可した。それを聞いて大饗は、若干奇妙な感覚を覚えた。まだ二回りしか十二支を経験していないだろうに、中々の殿様振りだな、と。


「して、大饗であったな。何用じゃ」

 一応、肘置きから起き上がって応対する行高。とはいえ、立場も身分も行高の方が上なのは明らかである。肘置きから起き上がったのは垣屋続成への礼儀であり、同時に使者とはいえ殿上人同士の外交である以上粗相があって笑われるのは拙いという判断からであろう。

「はっ、此度の軍役、真に疲労のことと存じ上げます」

 大饗の所作は、忍術を使えることを隠そうともしないものであった。あるいは、隠すほどの技量がまだ無いのかもしれないが、大饗の出自を考えた場合それはあり得ない想定であった。

「おう、垣屋殿こそ摂津守護職ご苦労様じゃな」

 それを見るや眉を動かす行高。彼は忍者を間近に見ており、大饗のその所作の意味を十二分に理解していた。大饗が忍術を使えることを示す所作は、「我々は味方である」という意味を示すものであった。

「はっ、挨拶の進物代わりに、一つ情報をお伝え致したく存じ上げます」

 既に密書の中身は脳内に入れているのか、ぴくりともせずに受け答えをする大饗。まあ尤も、彼の出自が楠木氏であることを考慮した場合、それも朝飯前かもしれなかったのだが。

「……公方が死んだことか? それとも代わりの公方を美濃から調達することか? あるいはその美濃がよからぬ動きをしておることか?」

 試すように軽く大饗を言葉で甚振る行高。とはいえ、この程度で激高するような大饗ではない、そして、甚振ったにもかかわらず天を仰ぐのは行高の方であった。

「いえ、二度と公方様の討伐軍が仕向けられず、その上で六角様が横領を続けられる方法をご教授致します」

「……は?」

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