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輝鑑 後世編纂版  作者: 担尾清司
第二部第一話:垣屋続成、管領細川政元の仕掛けた罠に対して高らかに嗤い上げるのこと

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第貳水(47)章:鈎の陣 03

 文明十七年四月二十日、第九代公方、足利義尚の葬儀が執り行われた。だが……。

「欠席なさる!?」

「また、なにゆえに……」

 ……垣屋続成は、足利義尚の葬儀に出ない旨を表明した。この当時、葬式に参加しないという行為は、対象の死者を敬わないという行動であり、招かれないならまだしも、一応は招かれているであろうに、垣屋続成はそれを拒否した。場合が場合ならば、その場で討伐令を出されても仕方ないくらい無礼なことであった。

 だが。

「……今出川様達が招かれなかっただろ」

「は、確か管領様から追い返されたとか……」

「だからだよ」

「……は?」

「いいか、俺達は今から今出川様と行動を共にする。つまりは、今のうちに今出川様の印象を良くするために、敢えて上様の葬式には出ないでおくんだ」

 ……なんと、それは垣屋続成なりの博奕であった。すなわち、今出川様こと足利義視と足利義政陣営の仲が決して良くは無いことを前提条件として、さらに足利義視の嫡男、足利義材が第十代公方になることをさらに前提条件として行う、盛大な大博奕であった。当たれば、足利義視の後ろ盾となり得、それは幕政をほとんど一人で牛耳ることもできることを意味するのだが、外れれば間違いなく幕軍が討伐に来る状況であった。

 だが。

「し、しかし……」

「大丈夫だ、どうせ今出川様と富子は仲が悪くなる」

「若っ!!」

「いいだろ別に、向こうだって俺に好印象は持ってはおるまい」

「し、しかし、大御台様を呼び捨てになさるなど……」

 ……この辺り、垣屋続成は本当に天衣無縫であった。身分秩序など欠片も気にしない態度もだが、続成自身が国民国家を、しかも戦後の、を経験していることもあって、「日本人同士」に限ってとは言え平等である、という態度を出すことが多かった。それは当然ながら、この時代においてはこの上ない無法者といえた。

「ま、なんにせよこれは一種の賭けだ。当たれば大儲けだし、外れても今の軍事力を恃みとすれば案外守備に徹すれば勝てるかもしれんぞ?」

「……しかし……」

 ……それはいわば、既存の幕府体制に対しての宣戦布告とも言え、さらには足利義材が公方になることが絶対条件といえど、勝てば恐らく次の半将軍になるのは垣屋続成であった。……まあだからこそ、足利義政には徹底的に嫌われていたのだが、それを彼は歯牙にも掛けなかった。

「それにだな」

「は、はっ」

「……幕府など所詮は軍事政権よ、軍事政権の軍事が弱いと判明すれば、恐らく瓦解する」

 ……そして、垣屋続成はここで驚くべき意見を発表した。すなわちそれは、既存の秩序たる幕政を完全に破壊する行為であり、すなわちあまりにも危険すぎる意思表明であった。……案の定、家臣団はうろたえはじめていた。

「……まさか、若は……」

「……見ものぞ」

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