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輝鑑 後世編纂版  作者: 担尾清司
第二部第一話:垣屋続成、管領細川政元の仕掛けた罠に対して高らかに嗤い上げるのこと

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第貳捌(40)章:半将軍の罠 02

「なにはともあれ、もう少しの我慢でございます。かの策成れば、垣屋続成は我等幕臣に下りまする。それに……」

「それに?」

「垣屋続成の軍事力の根幹は技術によるものでございます、ゆえに、それを()()()()()()()後は非力な小童が残るだけでございますがゆえ」

 ……細川政元は、非常の人であった。垣屋続成の軍事力というものは極論を言えば垣屋続成が生み出す技術力に依っていることをこの時点で既に見抜いていた。ゆえに彼は、一度幕臣として垣屋続成を迎え入れることによって技術流出を狙ったのだ。

「……よかろう、富良東ずれの差配については、引き続き右京に任せる」

「はっ」

 かくて、垣屋"富良東宿禰"続成は引き続き細川政元が監視することになったのだが、滑稽なことに後にそれが判明した際に「討伐戦を仕掛けてくれたら絶好の反撃の機であったのだが」と嘯いたのだからどこまでも彼は公儀というものに対して何の思い入れも無かったらしい。

 そして、細川政元が退出してから、義政は政所執事である伊勢貞宗を呼び出した。彼だけが呼ばれるということは、内談の証であった。

「……まったく、富良東ずれもほとほと運の良い奴よ。……いっそ上意討ちを仕掛けるか……?」

 上意討ちというのは、文字通り上の立場の者が下の立場の者を仕物に掛ける、すなわち暗殺する行為である。切腹を与えるのと違い、上意討ちは文字通りその場で殺されるので不名誉なことであった。とはいえ、それに対して貞宗はかぶりを振り、否定した。

「それは、流石に拙いですな」

「……一応聞いておく、なぜじゃ」

「それは、かの富良東を仕物に掛けた場合、恐らく幕府は灰燼に帰しましょう。何せ、かの富良東宿禰が軍勢、最早どの大名家でも抑えきれるものではございませぬがゆえ」

 かの富良東、すなわち垣屋続成の軍勢は、最早その辺の大名家が単独で抑えきれるほどの強さではあり得なかった。何せ、一向一揆撲滅作戦のための一環とはいえ、垣屋続成はこの西暦15世紀、皇紀に直して22世紀の最中に関わらず、空軍を所持していたのである。それがどれだけ恐ろしいことかは、読者の方が想像も付くだろう。そして、さらに続成を「上意討ち」できないわけは存在する。

「……わかっておるわ、然様な事。……あの富良東め、なにゆえかは知らんがよほど配下の国衆から好かれておるらしい。ついこの前も、奉公衆に取り立ててやるから寝返るように仕掛けてみたが、逆に使者が取り込まれそうになったわ」

 ……続成は、領民やそれを束ねる国衆から好かれていた。と、いうのも、続成はまだ幼将であり、良き弟分として可愛がられていた。無論、それだけでは無く、実利もきちんと続成は用意していた。その、実利とは。

「……やはり、富良東宿禰の領地は年貢率が少ないことは要因の一つとしてあるでしょうな、三公七民などという税率、聞いたことがございませぬゆえ」

「……それよ。なにゆえ富良東ずれは三公七民という税率で領地を保てておる?いくら民を慰撫する策だとしても、斯様な税率で領国運営ができるわけがあるまいに」

 三公七民、それがその秘訣である。垣屋続成は、どうやってそれをなし得たのかは昭和平成の現在でも判明してはいないが、諸侯が六割の年貢を採っている最中に、その半分の三割の年貢しか採らずに国家運営をなし得ていたのだ。そしてそれは、四公六民を是とする後北条家(尤も、叙述世界では成立するかはまだ不明)よりも、さらに善政と言え、むしろ領民が領主、すなわち続成の懐具合を心配するほどであった。

「……それに関しては、間者に探らせておりまする。今少しの辛抱でございます」

「ぐぬぬ……」

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