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輝鑑 後世編纂版  作者: 担尾清司
第一部第三話:垣屋孫四郎、所領を得て元服をするのこと

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第壹月(28)章:誕生、富良東宿禰! 03

「ところで……」

「はい」

「俺が治める領地って、どの辺りになる?」

  さーて、仮想戦記ではもはや定番になるが、内政とか……いやまあ面倒だけど、この時代だったら領地持って一人前みたいなところあるし、それに仕える資源は多けりゃ多いほどいいもんね。そして、さすがに東京は遠いにしてもここなら大阪も近い。本願寺も撃滅できるならば、望むべき土地だ。……まあ問題は、空手形になることだから、そのために第二候補もきちんと考えてある。姫じゃない以上、たくさん効率的な手段はとれるし、生き残るためにやっておかなきゃならんことは腐るほどあるしな。

「……そのことで、ございますが……」

 ……だが、大葦が発言した内容は、続成の気に水を差すに充分過ぎるものであった。


「…………」

「……若が悪いのでございますぞ」

「…………」

 ……大葦の発言内容とは……。

「まあ、そういうわけで、お父上、惣領閣下共に釈明を要求しております。さっさと謝った方がよろしいかと」

「…………」

  やっちゃったー……。


 なぜ、手柄を上げて官位も貰ったであろう続成が釈明をせねばならないのか。……皆様、お忘れだと思われるのでもう一度第壹肆話「孫四郎元服」を振り返って頂きたい。とはいえそんな暇は無い、という方のために、一応以下に簡潔な条件整理を行っておく。

 ・三木を山名政豊に献上するに当たって、垣屋宗続は続成の力を借りずに陥とす必要が存在する

 ・だが、続成は舌の根乾かぬうちに砲撃支援によって事実上、三木城を単独で陥落させた

 ・当然、宗続は激怒、豊遠も困惑、政豊に至っては落胆している

 ・よって続成は「釈明」という名の謝罪が必要である

 ……まあ概ねこんなところであり、ゆえに三木城兵は続成がいないのならと善戦し得たのである。恐らく、惣領暗殺を始めとした数々の武勲を立てていた続成が参戦していると知っていたら、ハナっから降参していただろう。

 結果的に陥落できたからいいのではないか、というのは素人考えであり、第一陥落させたとはいえ城は遺構ごとたたき壊されており、一から建築した方がまだまともな状態となっていた。あるいは、政豊は続成が参戦した場合こうなることが判っているから続成を参戦させずに三木君が峰城を陥落させよと宗続に命じたのだろうか? それは定かでは無いが。


 文明十七年二月、太陽暦に直して2145年3月。急遽播磨より帰還した続成を待っていたものは、一応叱責ではなかった。無論、手柄を立てたのに叱責をしていては他の者への平衡を欠くので当たり前と言えば当たり前ではあるのだが、宗続の「きつく灸を据えてくだされ」という要請は、さすがに政豊へも届いており、叱責はしないにしても何かしら「しめし」をつける必要があった。

「続成、参りましてございます」

「おう、そうか。入って良いぞ」

「ははっ」

  ……怒っては無い、のか?とはいえ御殿主様おとのさまが怒らなくても親父からは絶対怒られるだろうしなあ……。

「……さて、続成。これで二度目じゃな。別に三度目は無いなどと脅すつもりはないが、そろそろその粗忽は直してくれた方が、儂も斯様な席を設けずに済む故楽なのだがな」

「ははっ」

「……旧赤松家の摂津国内領を与える。多田の銀山も含まれておるゆえ、有り難がれ」

  あれ、覚悟していたセリフとは違うぞ?……一応、聞いてみよう。

「あの……」

「なんじゃ、まだ何か欲しいのか」

   おかしいの、噂の「無欲律儀」とは違い、やはり人並みの欲はあるのか?

「……叱責は、よろしいのでございますか」

「なんじゃ、叱って欲しいのか?」

   叱られるのをねだるというのは、聞いたことが無いの。……それとも、少しは気にしておるのだろうか?

「いえ、ですが……」

「……本来ならば、手柄から鑑みた場合播磨守護代か備前福岡の代官職なりを与えるつもりであったが、いろいろ功罪を算術した結果摂津を与えることにしたのじゃ。一応、懲罰も含んだ人事ではあるのでな、それは心得ておけ」

   ……なるほど、摂津領を「褒美」と思っておるのか。なるほど、確かに「無欲律儀」ではあるようじゃの。自身の積んだ手柄がどれだけの価値を持つか判らんと言える。

「は……ははっ!!」

 そして、続成が退出した後、居室へ戻ろうとしたら父宗続とであった。彼は速やかに、恐縮しようとした。だが。

「続成」

「ははっ」

「……そう固くなるな。儂からは、もはや叱らぬ。惣領閣下からなんと言われた」

 実は、宗続が叱らぬと言ったのは、続成が既に元服した上に政豊が烏帽子親になったことが関係しており、彼自身は顔から火が出て腸が煮えくりかえる思いであったのだが、その叱責を行うのは烏帽子親である政豊が担当しているためぐっと我慢して堪えていたのだ。そして、そんな事情を全く知らぬ続成は相変わらず宗続が父であるのに叱らぬのは何かあるのかと思いながら、返答した。

「……旧赤松領のうち、摂津国を賜りました」

「……ふむ」

   ……惣領閣下は、こやつを制御する方法を早くも覚えて下さったようだな。こやつはすぐ萎縮したり調子に乗ったりするでな、こういう罰にならぬ程度の報奨縮小を行った方が身の丈を知る良い機会になる、か。

「これは、罰なのでしょうか?」

「……どう思う」

「……惣領閣下は、本来ならば播磨守護代や備前福岡の代官職を与えるつもりであったと仰いました。それが、摂津の領地を与えるということは功罪半ばするからでございましょうが……」

「……不服か」

「いえ、斯様な褒美を賜ってよいものかどうか、と」

「……そうか。摂津領を褒美と思って居るか。……なればまあ、深くは言わぬ。見事勤め上げてみせよ」

「ははっ!!」

 実は、この時期に旧西軍が摂津を領するのは危険極まりない行為である。なぜならばこの時期摂津守護職は細川家が担当しており、即ち旧西軍勢力が摂津を領する行為は堂々と旧東軍や幕府に喧嘩を売る行為であるのだが、それを言い出すとそもそも赤松家征討戦自体が幕府の許可を得ない「私闘行為」であるがゆえに、山名政豊が垣屋続成を摂津に配したのは半ば危険な采配であったのだが、当の続成はこれを「褒美」と受け取っていた。齟齬は、ここから始まっていた……。

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