第壹玖(25)章:三木の陣 05
続成の懸念事項とは、大別して以下の通りである。順に見ていこう。
・分家を興すとはいえ、土地の宛てはあるのか
・守護として独立するのならば、どこの分国を以て独立するのか
・家臣団の宛て、北山次郎右衛門や斎藤又三郎だけでは足りないのではないか
・そもそも、播備作を征討するのは山名家の悲願であり、それを横からかっさらうのはいくらなんでも難しいのではないか
・それら全てを解決したとしても、旧赤松系の家臣団を統率するのは並大抵の努力では難しいはずである
「……なるほどのう」
豊遠は、内心驚いていた。眼前の孫の正体を知ってはいたが、未来の教育を受けた人間はここまでの教養を持ちうることを、更に言えば数百年後という年代はかなりの違いがあることを、前々から予想はしていたが、それが予想以上であることを今思い知ったのだ。……だが。
「さて、続成よ、それで以上かな」
一通りの異見を聞き終えた孝知が続成に対して更に何かあるかと促す。とはいえ、さしもの続成と言えどもこれ以上の問答は思いつかないのか、それで全てだと返した。
「……細かいことはありますが、大意はそうなりまする」
「……宜しい。それではよろしくお願いいたしまする」
そして、孝知は眼前の豊遠に対して目線をやり、続成を説き伏せる準備があったことを告げた。
「ああ。……続成よ、おぬしが希な教養を積んでおることは理解していた。そして、未来というものが割と平穏であることも、今理解した。その上で返事をしよう。……おぬし、詰めが甘いな」
実際のところ、続成という男はそこまで詰めが甘いわけではなかったのだが、続成は恐らく、先の先まで読めるが故に一足飛びに問題を解決しようとする癖があった。場合によってはそれが二足飛び、三足飛びになることもあり、それで問題を解決できているうちは良いが、着実に足場を固める必要のある問題において、彼はたまに焦れることがあった。
「……と、仰いますと……」
さすがに、続成にも現地勢の智謀は予期し得なかったのか、あるいは何か別の思案があったのか、その問題が既に解決済みであることなど知る由も、無かった。
「まあ、そういうことだ。その程度の対策、きちんとしておるわ。侮るな、阿呆めが」
「……出過ぎたことを申しました、お許し下され」
「……殴らぬ時点で、許してはおるわ。……ただ、宗続に聞かれたら一発か二発は殴られておったかものう。……やはりおぬしは運が良い。運が良いということは、それだけで武器になる。……さて、対策が出来ているということを聞いてまだ、異見は存在するか?」
と、いうわけで。垣屋続成は垣屋家庶家として別の家名を名乗り垣屋家を守り立てる役割を担うこととなった。その、家名はまだ定かではないものの……。
「……そういうことならば、有り難く頂戴致しましょうか」
「おう、それで良いのじゃ。……自身の新しき家名、きちんと考えておけよ」
「……ははっ」




