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輝鑑 後世編纂版  作者: 担尾清司
第一部第三話:垣屋孫四郎、所領を得て元服をするのこと

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第壹陸(22)章:三木の陣 02

「おー、やっとる、やっとる」

  ああまで矢をばらまけるとは、三木城に籠もっている手勢、余程の手練れか、あるいは新兵器でも導入したか……。

「若、お味方苦戦の様子、いかがなさいますか」

  意見具申を行うはもうひとりの「爺」、北山次郎右衛門だ。くくっ、あの冷静沈着な北山が取り乱すのは珍しい。ここは一つ、諧謔してやるか。

「何、敵は新兵器を導入したか、よほどの訓練を以て弓矢の連射を可能としたんだろう。なれば、対策方法は決まっている」

  まずは、状況分析。結論から入らないことに、眼前の爺は気づくかな?

「は、していかなる」

  あ、若干声に焦りが見える。……次の説明の後、諫言の構えを見せたら結論を言ってやるか。

「新兵器に頼った戦術にせよ、練度に頼った戦術にせよ、そういう常勝軍は、新しいものに極めて弱い。常勝軍は保守的だからな」

  そして、これは割と真実だ。武田騎馬軍団がなぜ敗れたか?それは数の多寡で袋だたきにされたからというのもあるが、じゃあなぜ「常勝軍」である武田騎馬軍団が負けた? 数の多寡は重要な要素であろうが、それだけで敗れるならば「常勝軍」とは言い難かろう。……単純な話だ。武田勝頼の焦りや驕りもあるにはあったろうが、それは副次的な傍証に過ぎない。……織田軍が用意した戦術は、常勝軍とは程遠いが故に行い得た、「全く新しい」ものだった。それだけだ。

「……若」

「ああ、もったいぶってすまなかった。……この距離でも威嚇程度にはなるだろう。……射撃始め! 全砲門射撃間隔自由、角度仰角(曲線射撃)、方角目標敵本丸、後は組頭の指示に従え!」

「ははっ!!」

  さて、これでどこまで歴史が変わるかね。

 垣屋続成が行った「新しいもの」、それは……。


 突如としてけたたましく鳴り響く、猛獣が唸るように低い、しかし(おおき)い轟音。君ヶ峰城を囲む垣屋軍はもちろんのこと、城内にまで届いたその「轟音」は、当初それが起こった地点が南西から西南西にかけての比較的山間部分であったこともあり、地震と間違った人間もいたという。だが、それが発した「軍事的効果」は地震どころの騒ぎでは無かった……。


「な、なんだ、さっきの轟音は」

 思わず怯んだ声を出す別所四郎介何某。城の代官にして現状の総司令である彼が怯んだ声を出すのは非常に拙いのだが、それを指摘する者は、周りには居なかった……。

「わかりませぬ、地鳴りだとは思いますが、それにしては妙な……」

 先程の轟音を、地鳴りと判断した隊長格の城兵。それも無理からぬことで、この当時としては画期的を通り越し最早なぜそれを思いつけたのかということ自体が議論の対象となり得るほどの「もの」を垣屋続成は持参した。

「そんなことより矢を絶やすな、この際だ、焙烙も混ぜて放て」

 無論、彼らにはそんなことはわからない。故に別所四郎介は射撃を続けるように命令した。だが……。

「は……」

『ははっ!!』


 一方、城外の垣屋豊遠や孝知らの陣では……。

「ちぃっ、城内の連中、地鳴りが起きても矢を止めません!」

 割と位の高そうな足軽、いや、馬廻や組頭か、が眼前の総大将に命令を求める。既に垣屋家の中でもかなりの死傷者、とはいえ死者は脅威的に少なかったが、が出ており、そろそろ寄せ手としての手段が尽き始めてた。……そして、悪いこととは重なるもので……。

「……参ったな」

 豊遠は、馬を下りた。なぜ、降参するわけでもなければ身分の高い人物と出会うわけでも無いのに、戦場で馬から下りたのか。

「いかがなさいました、殿」

「……馬が先程の音ですくんでしもうた。……かくなる上は、白兵戦をするより他無いか……」

 なんと、先程の轟音(・・)によって豊遠の座乗する軍馬は足をすくませ、怯んでしまった。馬の知性が人間に直していかほどであるかを考えれば、無理からぬことではあった。そして、豊遠は白兵戦を下命した。だが、その命令は聞き届けられることはなかった。なぜならば……。

「……畏まりました、それでは伝達」


 直後のことである。


「「なにが起こった」」


 突如として、君が峰城は何らかの巨大な落下物(・・・・・・)によって本丸が崩落した! そこに転がる何らかの物体(・・・・・・)その破片(・・・・)が複数本丸に降り注いだことによって本丸が潰れ、さらに本丸を外れた巨大な落下物(・・・・・・)もまた、櫓をなぎ倒し、あるいは足軽を肉塊と血煙に変え、更には諸将の中にも押しつぶされた者も存在した。……そろそろ答えを言ってしまおう。


「轟く筒音、飛び来る弾丸……なんてね」

  萌えキャラだったら舌を出して嘯くわけだが、生憎俺は萌えキャラではなく、戦国武将である。前世のように、萌えキャラ化されるのならば、それだけ名が広まったと考え歓迎するが、まあ今はなんぼなんでも無理だろう。

「殿、次の装填、整いまして御座います」

  爺が次の装填が終わったことを告げる。……うん、やはり前装砲にして滑空砲であっても、この当時はまあ充分に役には立つか。……いずれ、元込めやライフルも作っておかねばな。目指すは16世紀までに自動小銃だ!……さて、と。

「よし、第二射撃用意、今度は狙って(・・・)撃て」

「ははっ!!」


 垣屋続成は、この当時としては新兵器中の新兵器、否、最早研究者によっては実在を疑ってしまうほど革新的である、反作用対策もしている駐退復座機能つきの移動式砲台を装備させた榴弾砲を持参して援軍に現れた。と言っても、さすがに後代の榴弾砲とは違い、単に着弾時の衝撃で内部火薬が弾けて周囲に鉄片をまき散らすだけの原始的なものであったが、何せ彼らは今まで、弓矢や騎兵によって戦争をしてきたのである。

 それはあまりに、あまりに逆浦的であり、そして同時に史実に対する破壊行為であった。以後垣屋続成が行う技術「革新」は非常識な段階飛ばしをした挙げ句、この22世紀半ば(叙述世界の標準仕様である太陽暦(皇紀)読者世界(グレゴリオ)の暦に比べ、きっちり660年ずれているため22世紀と記述。読者の暦にあわせるならば、15世紀晩期)の時期にも係わらずまだ発見されぬ「世界諸悪根源の地」に「反応炸裂兵器」を叩き込むまで、否、その後も継続されて、ついには大和民族を世界第一党にまで「押し上げる」のだが、それはまだ先の話……。

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