第壹悟(21)章:三木の陣 01
文明十七年一月。籠城より一月半は経過していた三木君が峰城はまだ士気を旺盛に保っていた。赤松惣領家や別所則治らが討ち取られたにも拘わらずなにゆえに彼らは敵地のど真ん中で士気を保ち続けていたのか? 播州平野のど真ん中であり、穀倉地でもあったことは実はそれほど関係ない。では、なぜ彼らは垣屋家の総力とも言える軍勢に囲まれて一ヶ月も落城を免れていたのか。いかに籠城とは守備側にとって地形効果の高い戦場であったとしても、垣屋軍の猛攻を一ヶ月も凌いでいることはさすがに常識を逸した耐久力であった。確かに、君が峰城は卓越した播磨では屈指の防衛能力を備えていたが、それとて所詮天守閣無き時代の備えに過ぎない。せいぜい御殿に棟門、それに櫓がおまけである程度に過ぎないし、三木の地は到底山城があるような地ではない。播州平野のど真ん中であることは先程述べた通りである。では、なおさらになぜ君が峰城はこの一月半の籠城に耐えることが出来たのか。それは……。
「ちっ、なんという矢の正確さだ!」
「こちらも負けるな、矢を放てっ!!」
「とはいえ、こうも素早く射ち込まれると迂闊に身動きもできん……」
「ふむ、敵の様子はどうだ」
「敵垣屋勢、どうやらあまり動いておりません。こうも射すくめられると動けんでしょうしな」
「そうか。……やはり細川様からこの兵器を借りてきて良かった……」
「そんなことより、矢がそろそろ心許なくなって参りました。装填の許可を下され」
「おう、それでは第二陣配置につけっ!!」
……この時代、まだ鉄砲は本朝には存在していなかった。正確に言えば火器を使う兵器は存在したのだが、それはいわゆる「火縄銃」のような高性能な兵器ではなかった。と、なると自然と遠距離攻撃は弓矢に頼ることとなる。そして、なんと赤松家は細川家が主催する日明貿易のおこぼれに預かった結果、大陸産の連射兵器を堅城である三木や英賀などに持ち込んでいた! ……その中でもここ三木の城に存在する矢を連射する兵器は非常に多くの矢――矢一本につき大凡1秒掛からないほどの弾幕を張ることが可能であった――を垣屋軍に浴びせることに成功した!
どんなに堅固な要塞でも、攻撃され続ければいつかは崩れる。裏を返せば、攻め寄せることが出来なければどんなに脆い、それこそ野盗の砦くらいの城だったとしても陥落させるのは難しい。ましてや垣屋軍に立ち塞がったのは播磨中にその名が轟く君が峰城である、厄介極まりなかった。
何せ、矢が尽きない限りはこの君が峰城、その無尽蔵に矢を放てる兵器によって寄せ手を近づけずに一月半を過ごしたのである。矢さえ尽きなければ彼らがこの城を守りきれるのは確実といえた。そして、矢は予め大量に、一説によると兵糧の米粒と同じ数くらいには、蓄えていたこともあって君が峰城を陥落させるには大量の兵士を必要とするはずだった。……そう、そのはずだったのだ。故に、彼らは垣屋家の降伏勧告を蹴ったのである。
だが……。




