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輝鑑 後世編纂版  作者: 担尾清司
第一部第一話:高品位書生、戦国時代にて先祖に復り垣屋孫四郎として身を立てるのこと

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第肆(4)章:有馬の変 03

「評定を始める。存念を申せ」

 老いて尚壮健とでも言うべき、垣屋豊遠。垣屋続成(孫四郎)の祖父であり、垣屋家の最長老とも言えた彼は今回の播磨遠征において先鋒大将を務めており、いわば彼の采配次第で戦の潮目が決まるといってもまず過言ではない立場であった。当然、彼もその「先鋒大将」という役割――すなわち、前電気時代の情報伝達能力が低いことによる前線拡張などの専断権を意味する――がなぜ自分に与えられたのかはきちんと心得ており、故にこの時代としては極めて多い手勢――それは、この文明年間にもかかわらず万にも届こうとしていた――を方々よりかき集めて播磨も東の方に布陣していた。

「父上、一旦上月まで下がってはいかがでございましょうや」

 まず発言するは、孫四郎の叔父にして豊遠の本隊以外に自身だけでも千余の手勢を率いて今回の陣に参加した豊武であった。後に生まれる孫四郎の弟にも「豊武」という諱を持つ人物はいるため、区別する必要がある場合は通称と併せ「新五郎豊武」と記述したいと思う。

「なぜ下がる必要がある。我等は勝っているのだぞ」

 豊武の提案に反論するは豊遠と同じく義遠――なお、その義遠の父は滑良兵庫助と共に明徳記にも記された天下の忠臣、垣屋弾正忠頼忠である――の孫にして義遠から見て次男の息子である垣屋孝知であった。

蔭木ここは到底堅城とは申せませぬ。敵に勢いを与えたとしても、一度上月まで下がり惣領閣下の本陣と合流すべきではないか、と」

 蔭木とは、読者世界において兵庫県小野市に存在する陣屋であった。現地に行けば判るが、確かに到底堅城とは言えぬただの丘陵地であり、八幡宮が存在することから申し訳程度の陣屋が存在するだけの粗末な場所であった。少なくとも、到底数千後半の手勢が籠もるには狭すぎた。

 何せ、読者世界に於いては一柳藩の陣屋として使われた経緯があるくらいなもので、叙述(作品内)世界においてすらも適度に田舎であり、垣屋家が陣を構えていたという由緒があったということから陸軍総合演習場として選ばれたという経緯が存在する程度の、帝国内によくある「寒村以上市街地未満」の地であったことからもわかる通り、防御効果の低い地であった。さすがに上月まで下がるのは少々慎重に過ぎる案であったが、このまま蔭木に籠もるのはあまり褒められた戦術とは言い難かった……。

「叔父上、そうは仰いますがこの地は三木を陥とすための付け城の役割も御座います、めったやたらに本陣を動かすのは少々……」

 豊武の案を、なんと宗続が嫡男政忠が否定し始めた。確かに、豊武は甥孫四郎の意見を聞いた兄宗続からの伝令によって現在の意見を唱えていたのだが、この前電気時代の情報伝達速度を考慮した場合、根回しができていないのも無理からぬことであった。

「孫太郎、然らば斯様な地に兵を押し込めて赤松政則を待てと申すか」

 さすがに、甥に足下を掬われるとは思っておらず、強い口調で否定に対して否定する豊武。だが、それは勇み足であった。間髪入れず、それを聞きとがめる豊遠。

「待て、豊武。……おぬし、政則ずれが何処に在るか知って居るのか」

「あっ」

 ……豊武は、人の良いところがあった。それは、治世時においては美徳であったが、乱世時においてはただの隙であった。

「……豊武。詳しく聞かせて貰おうか」

 豊遠の代わりに、豊武の尋問を開始する孝知。身内相手であり、尋問と言っても重圧のかかるものではなかったが、同時に遠慮は不要と言えた。

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