ぬいぐるみのベアくんは、いつでもいっしょ
「冬の童話祭2023」参加作品。テーマは「ぬいぐるみ」 幼年、児童向けのため、文字数は原稿用紙10枚前後。朗読、読み聞かせ前提のため1500~2000文字まで。漢字の使用は小2までで習う漢字のみ。句読点多めの、分かち書き、です。
あるところに、クマのぬいぐるみの、ベアくんが、いました。
ベアくんは、マサルくんの、生まれたときからの、友だちでした。
どこへ行くのも、2人はいっしょ。
ねるときも
おそとで、あそぶときも
ごはんを、食べるときも
トイレに、行くときも
いつも、なかよしの
2人はいっしょ。
今は、タンスの上に、すわっている、ベアくん。
マサルくんが、生まれたときは、同じ大きさでした。
でも
年がすぎ、マサルくんの方、が大きくなり、
ふくは、ボロボロに
おなかは、あながあいて
手足も、とれそうで
目も、かたほうだけに
いつの間にか
2人はべつべつに。
ボロボロになった、ベアくんは
そろそろ、すてられてしまうのを、知ってました。
大すきな、マサルくんと
おわかれするのを、知っていました。
ある夜のこと
マサルくんが、ベッドで、ねているところ
ベアくんに
テンシが、おむかえに、やってきました。
「ベアくんを、むかえにきたよ」
「そんなんだね。もう、ボクは、ボロボロだからね」
「なにか、やり残したことは、ないかい?」
「あと何日、ここにいられるかな?」
「あと……今日と、明日と、そのまた、明日まで、かな?」
「そんなんだね」
ベアくんは、マサルくんと、いっしょだった
楽しかった、ときのことを
思い出していました。
そして
テンシに、おねがいしました。
「テンシさん。おねがいが、あるんだけど」
「なんだい?」
「ベッドで、ねているマサルくんは、ボクの大切な、友だちなんだ。
でもね、そとであそんで、お気に入りのズボンが、切れちゃったんだ。
ボクの、ふくをつかって、直してあげられる?」
「いいよ、直してあげる」
テンシは、ベアくんの ふくをつかって、ズボンを、直してあげました。
次の日、マサルくんは、きれいになった ズボンをはいて
楽しそうに、あそびに行きました。
ベアくんは、楽しそうに そとにあそびに行く マサルくんを見て
うれしく、思いました。
その日の夜
マサルくんが、あそびつかれて、ねているところに、テンシがやってきました。
「ベアくん? ふくがなくて、さむくないかい?」
「ボクなら、だいじょうぶだよ。とても あたたかい気分だよ」
ベアくんは、また、おねがいしました。
「テンシさん。おねがいが、あるんだけど」
「なんだい?」
「いっぱいあそんで、ねているマサルくんは、ボクの大切な、友だちなんだ。
でもね、そとであそんでて、おようふくのボタンが、とれちゃったんだ。
ボクの、ボタンでできた 目をつかって、直してあげられる?」
「いいよ、直してあげる」
テンシは、ベアくんの 目をつかって、おようふくを、直してあげました。
次の日、マサルくんは、きれいになった ふくをきて、元気よくに、あそびに行きました。
ベアくんは、元気よく そとにあそびに行く マサルくんの、声を聞いて
うれしく、思いました。
その日の夜、
マサルくんが、きもちよく、ねているところに、テンシがやってきました。
「ベアくん? 目が見えないけど、こまらないかい?」
「ボクなら、だいじょうぶだよ。マサルくんのこと、よく見えるよ」
ベアくんは、さいごの、おねがいを しました。
「テンシさん。おねがいが、あるんだけど」
「なんだい?」
「ふとんの中で、きもちよく ねている、マサルくんは、ボクの大切な、友達なんだ。
でもね、まくらが やぶけちゃって、中が でちゃってるんだ。
ボクの、体の わたをつかって、直してあげられる?」
「いいよ、直してあげる」
テンシは、ベアくんの わたをつかって、まくらを、直してあげました。
そうして、とうとう
ベアくんの体は、うすい ぬのだけを残して
なくなって しまいました。
「じゃあ、行こうか、ベアくん」
「うん。
ありがとう テンシさん
ありがとう マサルくん」
たましい だけになった、ベアくんは
テンシにつれられて
かみさまのいる、天国へと
たびだっていきました。
そして
今夜、マサルくんは、フカフカになった まくらで
とっても なつかしくて
やさしくて
あたたかくて
楽しい
ゆめを、見ました。
次の日の朝。
楽しい ゆめを見ている、マサルくんは、まだ おきませんでした。
朝になっても、おきないマサルくんを
ママが、おこしに やって来ました。
「マサル 早くおきなさい!」
ママは、マサルくんを、おこすと
タンスの上に きたない ぬのが
あるのに、気がつきました。
「また こんなところに ゴミをおいて!」
ママは、それをとると
ゴミばこへと、なげすてました。
ぐっすり ねむれた、マサルくんは
目がさめると
ベアくんが、いないことに
気がつきました。
「ママー! ママー!」
「どうしたの?」
「ベアくんが いなくなっちゃった!」
「あら、ホントね。ボロボロに なってたから、まちがえて、すてちゃったの かしら?」
「あのね、ゆめの中で、ベアくんと、いーっぱい あそんだんだ!」
「そう、それは、よかったわね」
「いつでも、いっしょだって。だから遠くに 行っても、ボク、さみしくないよ」
「遠くに? そうね、なかよし、だったわよね」
マサルくんが、だきしめた まくらからは
ベアくんの、やわらかい かおりが
ただよってきました。
この童話を読んでいただき、ありがとうございます。
こちらの元ネタは、言わずと知れたオスカー・ワイルドの『幸福な王子』です。
とても素敵な話なので、読んでみてください。
他にも2つほど今回のテーマに関するネタがあったのですが、(一つは、女の子が母親になり、自分の可愛がっていたぬいぐるみを娘に渡す、ぬいぐるみ視点の親子二代にわたる話。二つ目は、「ヌイリンガル」というぬいぐるみの声が聞こえる道具をもらった少年の話)時間が無くて書くこと叶わず残念。
このお話を読んでいただいた方の、心に何か響くことが出来ましたら、私としては嬉しいかぎりです。
以上、夜狩仁志でした。またどこかの作品でお会い出来たら光栄です。