海賊ゼアンは都市伝説を求めて海を行く!
いでっち51号様主催『なろう恋ファンタジーフェス』参加作品です。
下記指定キャラを一人以上登場させるのがお題となっております。
〇ゼアン・セキタクス
〇セキタクス海賊団船長。海賊。
〇44歳〇男〇O型
〇世界に広がるミステリー(都市伝説の探求)をしている
〇好物はワインとチーズ
〇スレイ・ロメッツ
〇女性聖職者であるが詳細不明
〇見た目は10代後半だが詳細不明
〇辞書の様な本をいつも持っている
〇時々持っている本を振り回している
〇実は持っている本はお守りがわりの安心アイテムで武器と防具の代わりにしている
〇普段は持っている本は辞書だけど、行く場所が予め分かっていると、場所や目的に応じ持つ本を変える
〇フィアセレス
〇人間嫌いの精霊
〇外見年齢は10代後半だが詳細不明
〇人間の創った美しい物は可愛い物は好き
〇攻撃魔法、補助魔法、回復魔法と魔法全般が得意
〇クールにみえて情に厚い
〇優しさや情熱を秘めている
この三人全員出したいとあれこれ考えていたら、期限間近になってしまいました。
期限内に完結させる予定ですのでご容赦ください。
お楽しみいただけましたら幸いです。
ここはアイザッツの町。
のどかな港町で、特徴と言えば小高い丘から海へと町を貫く長い坂道。
丘では牧草を育てて酪農を行い、少し下ったところでは畑を作って様々な野菜を作り、そして港では近海で獲れた海産物を得る。
そんなどこにでもありそうな町に、場違いとも思える海賊船が入港してきた。
高々と掲げられた海賊旗。
緊張する港の人達。
そんな中、一人の男が船から降りて来た。
黒髪で背の高い、口元に髭を生やした男。
このセキタクス海賊団船長の、ゼアン・セキタクスであった。
「諸君! 私はセキタクス海賊団船長のゼアン・セキタクスだ! 我々セキタクス海賊団は、この町に害をなす気はない! 一つ知りたい事があってやってきた!」
朗々とした声に、港の人々は顔を見合わせる。
海賊が港に立ち寄る理由と言えば、略奪か物資の補給と相場が決まっていた。
わざわざ船長が降りて、人々に話をするなど聞いた事がなかったのだ。
自然と港の人々は、ゼアンの次の言葉に耳を傾ける。
静まった港町に、ゼアンの声は更に響いた。
「この町に伝わる、都市伝説についてだ!」
都市伝説。
それは起源不明な怪談、とでも言うべきだろうか。
町で、山で、森で、川で、海で、人々がまことしやかに囁き伝わる奇怪な話。
ゼアンはそれを追い求める男だった。
世界中を巡るために船を手に入れ、物資を奪おうとする海賊を返り討ちにしているうちに、ゼアン・セキタクスの名は海に広がった。
そして志を共にする者達を仲間に加え、怪しげな都市伝説の噂を聞くたびに、そこへと向かうのだった。
「この町で聞かれる、『高速ババア』の話を聞かせてもらいたい!」
ゼアンの言葉に、港の人々は耳を疑った。
その噂自体は確かにある。
夜中に何かがとてつもない速さで町を貫く坂道を駆け上るという噂である。
見かけた者が「老婆のような姿だった」と言った事から、『高速ババア』と名付けられた。
しかし夜に坂道を駆け上るだけで、町に害があるわけではない。
そのため町の誰も対策どころか正体の解明すら考えていなかった。
しかしこの海賊はそれを知るために、わざわざ航海をしてここまで来たと言う。
正気を疑うか、何か裏があると考えるのが当然だった。
そんな空気に、ゼアンは笑顔で応える。
「ま、とりあえず飯と酒だ! この町で一番大きな酒場はどこだ?」
「うえっ!?」
ゼアンのすぐそばにいた若者が、しどろもどろになりながら町の一角を指差した。
「あ、あの辺りにある『くちなし亭』って店が、この辺りで一番……」
「おー、ありがとう! なら一緒に行こう!」
「へっ!?」
「旨い飯と酒ってのは地元の人に聞くのが一番早い! お礼に奢るからよ!」
「え、でも……」
「金の心配はするなよ? 俺達は『哭く髑髏』の探索の時にたまたま古代の秘宝を見つけていてな、金には困ってないんだ!」
肩を組みながらじゃらりと見せる小袋。
中には金貨が詰まっていた。
「わ……!」
「な? 飲めないって言うなら飯だけでもいいからよ! 付き合ってくれたら小遣いも出すぜ?」
「……お供します!」
若者が頷くのを見て、ゼアンはもう一度声を張り上げる。
「他にもこの町の事教えてくれる奴には酒と飯を奢るぜ! さぁ、俺達について来い!」
ゼアンが若者の肩を抱えたまま歩き出すと、港にいた何人かがそれに釣られて動き出す。
すると、船からゼアンの部下達がぞろぞろと降り始めた。
(よしよし、計算通りだ)
最初に全員で降りては、萎縮して情報どころでなくなる事をゼアンは知っていた。
そこで一人で警戒の空気を乱し、流されやすそうな人を見極めて釣り、周囲の空気が緩んだのを見計らって初めて部下達を上陸させたのだ。
自由な航海のために敢えて海賊旗を掲げるゼアンの、練りに練られた処世術であった。
「……?」
船長に続く海賊達を、物珍しそうに見ていた港の人々が首を傾げる。
屈強な海の男達が集う海賊団には似つかわしくない美少女が、二人降りてきたからだ。
「さぁ、張り切って都市伝説を見つけましょう!」
一人は黒髪の少女スレイ・ロメッツ。
短く整えられた髪と、簡素ながら落ち着きのある服装は、神に仕える修道女を思わせた。
一見海賊に捕えられた哀れな少女かと思ってしまうところだが、吊り目がちで意志の強さを感じる紅い瞳が、自らの意思でそこに立っている事を現していた。
また分厚く装丁の凝った見るからに重そうな本を、片手で軽々と持っている点が、ただのか弱い少女でない事を示してもいた。
「……どうせまたガセネタか、変わった自然現象よ」
もう一人は桃色がかった銀髪の少女フィアセレス。
人並外れた美貌と尖った耳。
そして人ではまず見られない紫がかった瞳が、彼女を精霊であると示していた。
そして身に纏った丈の短いワンピース、ブーツ、アームカバーは緑色に薄く輝き、手の月を模した杖の威容からしても高位の魔法を操れる事は明白だった。
「もう! フィアセレスさんは冷めすぎですよ! もっとこう、わくわくとかしないんですか?」
「しない。私がこの一団にいるのはゼアンへの恩があるから。この世界の根本の原理に触れる魔法を修めた私に動揺など……っ!?」
フィアセレスの言葉がそこで止まる。
不思議に思ったスレイがその視線を辿り、にやりと微笑んだ。
そこには女の子向けのお店、そして窓ガラスから外を眺めるように配置されたクマのぬいぐるみ。
「あれあれ〜? 相変わらず可愛いものには弱いんですね〜? 動揺が、何でしたっけ?」
「くっ……」
歯噛みするフィアセレスに、今度は本当に微笑むスレイ。
「なーんて意地悪言いませんよ。売れちゃったら悲しいですし、買いに行きましょう!」
「すまない……」
「すみませーん! お買い物があるので、私とフィアセレスさんは後で合流しまーす!」
「わかったー。船長に伝えておくー」
そうして二人は一団から離れてお店へと向かう。
最後尾の海賊が路地を曲がったのを見て、スレイは息を吐いた。
「ふぅ、流石フィアセレスさん。最高のタイミングでしたね。これで不審に思われる事なく皆から離れられました」
「……あぁ、うん、それは良かったんだが、その……」
フィアセレスの落ち着かない様子に、スレイが眉をひそめる。
「……もしかして素であのぬいぐるみ欲しかったんですか?」
「う、うん……」
顔を赤くするフィアセレスに、スレイは先程とは違う息を吐いた。
「あー、もういいですから早く買ってきてください」
「すまない! 感謝する!」
「すぐ船に置いて戻ってきてくださいよ。何たって私達には時間がないんですから」
「わかっている!」
駆けて行くフィアセレスの後ろで、スレイの顔が笑みに変わる。
凶悪に、不敵に、そして妖艶に。
「船長に気付かれる前に、この町の都市伝説を潰さないといけないんですから……」
読了ありがとうございます。
スレイの思惑とは?
都市伝説の運命は?
明日投稿予定の完結編をお楽しみに!