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23. 告白前夜の追想

 12月に入ってから、終業式、それは告白の日、その前日まで毎日、私は眠る前に布団の中で秘かに、告白の練習を続けていた。

 声が漏れないように布団と毛布の中に潜り込み、生徒手帳に忍ばせた、告白の台詞を書いた紙をペンライトで照らしながら、何度も台詞を(小さい声でだが)声に出す。

 1週間ほど続けたところで、紙を見なくても台詞が言えるようになった。

 

「私は、貴女が好きです。貴女を愛しています。貴女の傍にいたいのです。でも……生徒の私には、きっと許されないことです。だから、私が高校を卒業したら、恋人になってくれますか。」


 中間テストの頃に考えた台詞からは少し変えた。よりシンプルに、よりストレートに。

 何度も布団の中で唱え続けたので、恥ずかしさは落ち着いた。

 しかし、それは私が一人で、この狭い布団の中で練習しているときだけの話だ。

 実際に、藤枝先生を前にしたら、どうなるか全くわからない。

 文化祭での『水辺に願いを』のソロと今回のアンサンブルコンテストで、演奏するときの度胸はかなり鍛えられたと自負している。

 その度胸と、告白に必要な度胸は、重なるところこそ多少はあるかもしれないが、別物であろう。

 文化祭もアンサンブルコンテストも、言ってみれば多対多。

 私はあくまで光北高校吹奏楽部、もしくは金管8重奏チームの一員。そして聴衆は基本的に多数。

 文化祭のときに私が聴かせたいのは藤枝先生ただ一人、と息まいてはいた。

 それでも、実際に聴いていたのは数百人で藤枝先生はその一人、私は江北高校吹奏楽部の一人。

 何人ものうちの一人同士。

 それに対し、告白は本当の意味で1対1。私は、藤枝先生ただ一人に向けて好意を表す。

 藤枝先生が人払いをしてくれていれば、図書室で2人きりになれるはず。

 2人だけで話をしたいと言ったし、藤枝先生も承諾してくれてたから、きっとそこは上手くいっているはず。

 こんな時まで藤枝先生に頼ってしまう自分が情けないという思いはあるけれど、どうしてもあの図書室で告白したくて、そうするには藤枝先生にお願いするしかないのだから、せめてそうしてもらうに見合うだけのことを、私は為さねばならない。

 夜景が綺麗なところとか、12月の今だったらそれこそイルミネーションあるとことか、雰囲気のあるところはいっぱいあるけれど、藤枝先生に告白すると思うと、いつもの図書室が一番しっくり来る。

 私と藤枝先生が、ずっと一緒に過ごした場所だから。

 藤枝先生と一緒に過ごしたくて、私は図書室に通い始めた。

 授業では仏頂面で、淡々としてて、言ってることは厳しくて、正直ちょっと怖い。

 でも、図書室で見せてくれたあの可愛い笑顔と優しい振る舞いに、私はどきどきしていて、時々顔をぐっと覗き込んでこられた時には、どれほどドキドキが速くなっていただろう。

 文化祭で吹いた『水辺に願いを』は、秘めた恋心の歌だった。この歌で私の心が映し出されたことで、私の藤枝先生への想いは“恋心”というものだということに気が付いた。

 私はいつから藤枝先生を好きになっていたんだろう。

 恋心を自覚したのは文化祭の練習だけれど、もっと前から……。

 いや、いつから、じゃない。最初から、だ。

 藤枝先生の最初の授業があって、その時点で見惚れてたし、その翌日には先生に会いたくて図書室に行ってた。

 そのときは、こんなに先生を好きになるなんて、恋をするなんて、ましてや、愛の告白をすることになるなんて、想像すらできなかったけれど。 

 藤枝先生、最初は私が卒業してから告白するつもりでした。

 でも、もうそれでは我慢できなくなっていたのです。

 あと1年以上も、貴女にこの恋心を隠しておくのが苦しくて。

 許されるならば、貴女の恋人になりたいのです。

 藤枝先生、貴女が大好きです。

 どうか私の想いが、藤枝先生に届きますように。


 中間テストの頃も、こうして夜中に考え事をしてたっけ。

 あれは、藤枝先生に図書室の本の装備を教えてもらった日の夜だったな。

 本当に、あの日はうっとりして幸せだった!

 あの日、もしも私が先生に図書の装備を教えてとねだらなかったら。

 あんな風に私は先生とべったり過ごせなかったでしょう。

 藤枝先生はわざわざ私の手を取ったり、練り香水をつけてくれたりしてくれました。

 そこまでしてくれるのは、もしかして貴女は私を……。

 だから、私は貴女《藤枝先生》に告白する決心が出来ました。

 もしも、貴女も私が告白することを、私が貴女を好きでいることを望んでくださるのなら。

 こんなに素敵なことはもう他にありません!

 

 そうだ。大切な"アレ"はちゃんと忘れないように鞄に入っているだろうか。

 私はいったん布団から出て鞄の中を確認する。

 ついでに、もう練習は良いかなと思って、生徒手帳とペンライトも鞄にしまった。

 うん、ちゃんと鞄に入ってるから、忘れないね。


 告白するのに何か贈り物があるといいな、でもあまり高額なものは用意できないし、藤枝先生も困ってしまうかなと思って、中間テストの頃からあれこれ考えた結果。

 上手いかどうかは置いておいて、手作りの文庫本用ブックカバーにした。

 濃い紫の布に薄桃色の細いリボンでスピン(栞になるリボン)をつける。

 薄桃色のちりめん布を切って布用ボンドで貼り付けて、桜の模様を描く。

 貼った布が剝がれてこないようにふちを刺繡糸で縫い付けて補強と装飾を兼ねる。

 一応、洗濯にも耐えるはず。

 部活とテストで忙しい合間をぬって、ちまちま作っていた。

 完成したブックカバーにアイロンをかけて綺麗にたたんで、100円ショップで買ってきたラッピング封筒に入れた。


 出来は、悪くはないかな。

 プレゼントのブックカバーが入ったラッピング封筒は、ちゃんと鞄に入っていた。

 

 いよいよ明日。私は貴女《藤枝先生》に告白します。

 もう、怖いものはありません。

 

 藤枝先生……大好きです。

 告白が、成功しますように。

 私は布団に戻り、眠りについた。


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