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恋を知らない女子高生は女教師に恋をした  作者: 星月小夜歌
1-3. 中間テストと惹かれあう葉櫻
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16. 告白の成算

 藤枝先生に図書の装備を教わった後に、甘く蕩けるような時間を過ごしたその日の夜、私は眠れずにいた。

 お風呂に入ったので香りは消えてしまった。

 しかし私は、藤枝先生に練り香水をつけてもらった感触と、練り香水の香りを今でもはっきりと思い出せる。

 甘い香りが、絹のように綺麗で滑らかな肌の手と指で、優しく撫でるように擦り込まれていく。

 大好きで、愛しい藤枝先生。そんな藤枝先生が、自分の練り香水を私に塗ってくれた。

 私は、今日の藤枝先生との甘くて幸せなやり取りを思い出していく。

 私の"もしかして"は"確信"に変わっていく。

 少し前に、藤枝先生は、図書室に人が来ないほうがいいと言いかけていた(本人からは聞かなかったことにしてくれと言われたが)。

 あれほど、図書室の利用者が増えることを願っていたのに。

 さらに、あちこち根回ししたうえで、長年のルールを変えてまで、図書室での自習を許可した。

 ……私が、テスト期間中に、図書室に来ることを期待して。

 さらに、藤枝先生は、苦労して図書室の自習を許可したのに、利用者は増えないでほしい、とも言っていた。

 ……図書室で、私と2人きりで、過ごすため。

 今日、藤枝先生はそのローズピンクの唇ではっきりそう言った。

 それから、ブッカー貼りのときの教え方。……たぶん、あれはわざわざ私の手を持たなくてもいいような手順だと思う。

 最後に。……あの練り香水。香りは消えてしまったけれど、私の左手首に残る、藤枝先生に練り香水をつけてもらった、柔らかくて優しい感触。

 どう考えても、教師が一生徒に取るような態度ではない。

 その答えは、もう一つしかない。

 私の恋は、きっと、もう、片思いではなくなっている。

 だからと言って、今この勢いで告白する(思いを伝える)ことは勇み足であろう。

 まず、私と藤枝先生の関係は、生徒と教師だ。藤枝先生は、私に対して『教師として振舞う義務がある』と明言した。それならば、突然告白しても藤枝先生を困らせてしまうだろう。

 そして今はテスト期間だ。告白しても、嬉しいけど勉強しなさいとか、そういう妙な空気になりそうだ。藤枝先生なら言いそうである。

 そして、そもそも大事なことを一つ忘れている。

 藤枝先生に恋人は現在いるのかどうか、だ。

 女同士で恋人になれる、なれない以前に、恋人がいたら私の恋は叶わぬものとなる。

 いくら藤枝先生からもそれらしいそぶりが見えたからと言って、恋人がいない証拠にはならないと思うから。

 だから、まず実行すべきは、藤枝先生に恋人がいるかどうかの確認だろう。これはいつものように図書室で、2人の時にさらっと……さらっと……そう簡単に聞ける気がしないけれど、とにかく聞き出す。

 もし、「いる」と言われたら。私はどうなってしまうのか。……考えたくもないし、あの態度でそれは考えにくいと思いたい。希望的観測と言われればそれまでだけど、今は希望を持っておこう。

 次は、とにかくテストでいい点を取ること。印象はいいほうがいいから。

 そのためにも、図書室へ通って、勉強しながら情報収集、というのが現状取れる最善策だろう。

 文化祭の吹奏楽部パフォーマンス、その前日、図書室で私は決意したのだ。

 いつか必ず告白すると。

 私は生徒で、藤枝先生は先生。

 私を縛る、“生徒”という鎖。

 私が退学でもすれば、状況は確かに変わり鎖から解き放たれるが、そんな解決法は、藤枝先生は望んでいないだろう、絶対に。

 私が卒業してから。それも一つ。しかし、それでは遅すぎる。

 もう、私は、藤枝先生にこの気持ちを隠していることに、耐えられなくなってしまっている。私の恋心の戒めは既に壊れている。

 もしも、私が卒業するまでに、藤枝先生が誰かに取られてしまったら。

 そんなの、耐えられない。

 藤枝先生、私は……悪い子です。貴女が困るとわかっていて、告白しようというのですから。

 でも、許してください。そうしないと、貴女との約束が果たせないのです。

 だから。私は。卑怯かもしれないけれど、このような言葉で貴女に告白します。

「私は、先生(貴女)を好きになってしまいました。貴女の傍にいたいのです。でも……生徒の私には、きっと許されないことです。だから……。私が高校を卒業したら……恋人になってくれますか。」と。

 ……考えるだけで耳までも熱くなってくるし心臓がバクバクする。

 こんな台詞を本人の前で言い切れるのか。

 そして、もう一つ大切なこと。"いつ"、"どこで"、告白するか。

 "いつ"については、ほぼ決めている。終業式の日の夜だ。仮に何かあったとしても翌日以降休みなので気まずくなるのだけは避けられる。

 "どこで"、そこが問題である。いつもの図書室は、雰囲気としては最高だけど、他の生徒がいるかもしれないと思うといくら何でもリスキー過ぎる(今日のべったり加減を思うと、あまり気にしなくてもいい気はするのだが)。

 いっそ、藤枝先生に頼み込んで司書室に……いやいやそれもダメだ。しっかり「生徒は立ち入り禁止」と釘を刺されたばっかりだし。

 じゃあどこか。……やっぱり図書室がいいなあ。私の、きっと藤枝先生にとっても、特別な場所なんだから。

 ……ごめんなさい。藤枝先生。私は迷惑をかけてばかりです。

 終業式の日、たぶん3年生が受験の追い込み勉強で残っている可能性もある。

 19時までは普通に勉強で利用可能だから。

 どのみち私は、終業式の日はアンサンブルコンテストその前日(ちなみに終業式は21日の金曜日、アンサンブルコンテストは22日の土曜日)だから追い込み練習で遅くなるのはほぼ確実だ。

 前もってお願いして藤枝先生に残っていてもらい、19時過ぎにあの文化祭前日のように図書室に行って、そこで告白する。

 アンサンブルコンテスト前日に何をしているのだと自分でも思うけれど、私が考え付く限り、告白のベストなタイミングと場所がそこなのだから仕方ない。

 もし、告白した結果が悪いものだったとしても、アンサンブルコンテストで引きずってはいけない。そこは切り替えていかなくては。

 私のユーフォニアムは、藤枝先生に褒めてもらえたのだから。

 よし、眠れぬ夜だけど随分計画は練られたぞ。

 セリフはみっちり練習しないと。

 ……授業中はやめておこう。うっかり口走らない保証はない。

 あとは、覚悟を決めることだ。 

 今まで、私は藤枝先生に「好き」と明言しないと決めていた。

 「好き」と言わなければ、私と藤枝先生は、ただの生徒と先生として一緒にいられる。今までがそうだから。

 しかし、私はその状況を自ら破壊しようとしている。

 もう、貴女に隠し事をしたくないから。

 私が恋心を隠し切れないことで、貴女に心配をかけさせたくないから。

 結果的に貴女を困らせてしまうかもしれないけれど、これが私の答えであり気持ちです。

 貴女を好きだと、言ってしまえば、もう後には戻れません。

 もしかしたら、貴女と今までのように接することも、今日のように甘く幸せな時を2人で過ごすことも出来なくなってしまうかもしれません。

 それでも。私は、貴女を好きだから、愛しているから。

 貴女への誠意です。……なんて、格好つけすぎかな。

 だから……私の告白を、許してください。藤枝先生。


 ……ところで今、何時? ……3時ですってええええええええ!

 4時間しか寝られないんだけど!!!!

 絶対明日寝るわ!!!!!

 エナドリで耐えられるかなあああ!!!???


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