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ポンコツ破壊神とにわか創造神

「おおむね成功だが、力加減を完璧に覚えるにはもうちょっと練習せねばなるまい! はーっはっはっはっは!」


 成功体験に気をよくしていたというのに、創造神から向けられる視線はなぜだか心配そうだった。


「なんか……体に引きずられてない? 破壊神バージョンはもうちょっと知的じゃなかった?」


「たぶん大差ない! しゃべらなかったからそう見えていただけではないか?」


「あ、自分で言うのね」


 そりゃあ言っちゃうだろう。人間の体を手に入れたからこそわかることもあるというものだ。我は謙虚な神様なのだから。


 それに差し迫った事情だってある。


「あの猪をやっつけねば、まともな食事は出来んのだろう?」


「いやべつに、猪だけが食料じゃないんだから。……ホラ例えば、今割れた海に落ちてる魚とか、島では貴重な食料」


 そう言った創造神の言う通り、割れた海にぴちぴち動くものがあった。


「え? あんなのでいいのか? 生物を倒すことでそのエナジーを吸う儀式とかではなく?」


「食事ってそう言うことじゃないから。口から食べるだけよ」


 違うのか。


 だが確かに魚を見るだけでも、空腹で動かなくなりそうな体に力がみなぎるから不思議である。


 我はさっそく砂浜から割れた海に入って、ぴちぴち跳ねている魚をおっかなびっくり掴んで、引っ張って来きた。


 三匹ほどで手がいっぱいになり、食料とやらを確保できた我は満足感を得た。


「よし……もうこれでよいかな? 豚倒すの大変だし」


「いやいや、魚とって満足しないでよ。初心! 初心を忘れないで!」


「……そうか」


 ともかく手に入れた食料を食べねばならないわけだが、ここで我は動きを止めた。


「最低限中の最低限の準備は出来たということにしておきましょう」


「おう、まだ準備段階だったのか……で? これをどうすると?」


 肝心のお腹は膨らんでいないわけだが、創造神はそんな我に言った。


「料理します。いいですか破壊神よ。貴方はまずサバイバルを学ぶのです!」


「さばいばる……なんだそれは?」


「平たく言えば大自然で生き抜くすべですよ。本来であれば人間は群れで生活し、文明を築いて生存率を上げるけど、そうできない今のあなたのような状況下でただ一人生き抜く方法をサバイバルというの!」


 ババ―ンと波の音がいい具合に弾けた。


「説明からして……なんかしんどそうなのだが?」


「言いなおすわ。楽しいキャンプ実践編よ。しくじると死ぬわ」


「一個も楽しくなさそうだ。不思議と不安は倍増したのだが?」


「……うるさいわね。さっさと火をおこしなさいよ。まずはそこからよ」


 また一つわけのわからない課題を出してきた創造神に我は首を傾げた。


「なんで火なんぞ起こさねばならん。我はさっさと魚を食べてみたいのだが?」


「? だから魚を食べるために火を起こすんでしょうに……まさかあなた、生で行く気だったの!?」


「それ以外にあるのか?」


「……あなた、死ぬわよ?」


「食べても死ぬのか!?」


 もはや意味が分からないを通り越して理不尽すら感じるのだが、どうやら我がずれているのは創造神のあきれた反応を見ればよくわかった。


 だから我はたどたどしく今感じている感覚を説明してみた。


「妙にこいつらを口の中に放り込みたい衝動に駆られるのだが、それは本能でこいつらを食したがっているのだと思う。合っているか?」


「間違ってはいないけど間違っているわね」


「どっちだよ。だが同時にこのびちびちしたものを、直接丸かじりしていいのか? という葛藤もあるのだ、それが不思議だ」


「まぁ生理的に気持ちが悪いのかな?」


 明らかに言葉にしていて矛盾を感じる。しかし創造神にはその正体が分かったようだった。


「破壊神よ。その衝動はどちらも正しいのですよ」


「なんだと?」


「いい? 体の中に入れてはいけないものっていうのがあるの。小さな生き物は貴方の胃の力がいかに強靭でも消化できなかったりするのよ?」


「だからなんで食わなきゃいけないのに食ったら死ぬ仕組みを作るんだ! 死んじゃうだろうが!」


 そもそもお前が作ったんじゃないのかと思い切りいやな顔をしていると、ドカンと強烈な思念が我の頭を揺さぶった。


「小さな生き物はそうやって生き残ってるの! いなきゃいないで困ることもあるの! バランスよ! 神的にバランス感覚が一番大事なの!」


 それはシンプルに怒りの乗った主張である。


 どうやらプライドの部分に迂闊に触れてしまったようだ。我反省である。


「おおふ……そうなのか。すまん。我どちらかと言えばバランスもなんも感も木っ端みじんにするのがお役目だからな。そう言うのピンとこんのだ」


「まったく……破壊神はこれだから。今は貴方も世界を支える一部なんだから、バランスを考えなさいよ? って、そんなことはもういいの! とにかく基本生は厳禁! 火を通せば大抵のものは食べられるってことよ!」


 端的に火の優秀さを語る創造神に、そんな簡単なことだったのかと我は膝を打った。


「そ、そうだったのか! 火ってやつは優秀だな!」


「そういうこと! ではまず火を起こすのよ!」


「よし! 火を起こすぞ!……どうやって?」


「は? 破壊神なんだから口から吐けばいいんじゃない?」


「どこから来たのかわからない破壊神イメージ! 出ないぞ口から火なんて!」


「そうなの?」


「そうとも! というわけでどうやって人間は火を起こしているのだ? 創造神なら知っているんだろう? 教えてくれ!」


 もう細かいことはいいから言う通りにすると決めた。


 だってお腹すいたしと割り切れるのは追い詰められている証明な気がする我である。


 だが最も大事なところの答えを待つ我に、創造神はどや顔のまましばし沈黙。


「え?……知らないんですけど?」


「なに?」


 我は確信した。


 話を聞いていてなんとなくそうではないかと思っていたが、こいつの知識も割と浅いと。



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