破壊神様学ぶ
「何してくれてんのあんた!」
「ハッ!」
やらかしたと思ったら浜辺で創造神に怒られた。解せぬ。
気が付けば海岸で正座させられていて、砂浜が焼けるように熱いのだが創造神のドアップが、立ち上がることを許してくれない。
我は首を傾げた。
「何を怒っているのだ? 我ってば今世界を崩壊させた夢を見たせいで、ちょっとアンニュイなのだが?」
「はい、夢じゃありません! 私が三秒時間を巻き戻しましたー! はい! すごい大変!」
「なんと……」
そんなことがあったのか。破壊神ショック。
どうやら我は手加減に失敗してしまったらしい。
創造神にも面倒をかけたようなので我は言うべきことを口にした。
「ドンマイ我」
「ドンマイじゃすまないから! 慌てて禁忌犯しちゃったからね!? 時空神にダッシュで土下座だわよ! 時間は迂闊にいじるとばれたらすごい怒られるんだからね!」
「すまんすまん。誰にも言わないから」
「そういう問題じゃない! とにかくやるならもっとしっかりやりなさいよね! 試しにうっかり世界崩壊とか笑えないから!」
我はごもっともと頷いた。
我、結構神様うちではまじめな破壊神なのだが、人間になってからの方がやらかしが多いとは因果なものだと我は苦笑した。
「いやー我だって、やりたくてやったわけではないのだー。これでも絶妙な手加減を披露しようとだなー。……まぁ大丈夫だ。もっかいやればきっとうまくいくはずだから」
「なるほど……全然信用できない! 出来るわけがない!」
「いやいや、我はやれる子に違いないのだ。もう一回くらいで神業的な一撃を放てるはず。神だからな!」
「……今仮でも人間だからね?」
「おおっとそうか! これは盲点だ! 失敗するのも道理よな!」
「いやいやいやいやうまく言ってるわけでもないからね!」
もう笑うしかないと言う感情を今学んでいる最中の我は、しかし唇を尖らせた。
「だいたい力を使えと言ったのはお前ではないか?」
「一発でやろうとしないの! もうちょっと控えめに!」
「控えめに破壊神とか……めんどくさいこと言うやつだな」
「めんどくさいとか言った!? いや絶対やらかすからね!?」
キンキン声で頭に直接怒鳴って来る創造神だが、絶対とは言ってくれるものである。
まぁ確かにうまくいくビジョンはいまだ見えていないが、侮られるのも面白くない我だった。
「ずいぶんと侮ってくれるではないか。まぁ見ていろよ? 我の最高の手加減を見せてやる!」
「……ホントに大丈夫なの?」
「まかせろ! コツは掴んだ! どうにも人間の体に慣れていないのか集中力にかけていたが、気合を入れればもう大丈夫だ!」
失敗したとしても、これしかできないんだから練習するしかない。
学習することこそ人間種の最大の長所だというのならばその特性、存分に発揮させてもらうとしよう。
「特訓が成功した暁には、あの豚も葬り去ってくれる!」
「まぁそうね。……いい機会だからさっくりやっつけて食べちゃいなさい。食料もないしそろそろ死んじゃうんじゃないの?」
やれやれと創造神のあきれ声が聞こえたが、そのセリフは聞き捨てならなかった。
「……ん? 待て、もう死ぬのか?」
「そりゃ死ぬでしょう? そろそろ限界じゃない?」
「ええ? じゃあ、なんだかさっきからイライラしているのも。お腹が妙な具合に唸っているの
は……」
「それお腹が空いてるのよ」
苛立ちまぎれに勢いで練習に移ろうとした我は創造神のそんな一言を聞いて、勢いを殺される。
死んじゃうとは、穏やかじゃない。
「そ、そうなのか?」
「まぁたぶん?」
「やばいではないか! 我はてっきり10年くらいは大丈夫なものだと!」
「ミイラならまだましなレベルよそれ」
「……えぇ」
こいつは盲点、人間ってやつはそんな短いタイムリミットの中で生きているのか。
この身体を襲うかつてないイライラが空腹だと言うのなら、相当にやばい。
意識してみると確かに頭はくらくらするし、全身きつくてたまらないのだから死ぬ寸前に違いなかった。
我は焦りを感じつつ改めて海に向き直る。
「ならばぐずぐずしている暇はないか……。豚を倒す練習を急がねば!」
「やっぱりやるんだ……」
「やらいでか!?」
めちゃくちゃ心配そうな創造神の憂い顔を次の瞬間見返してくれよう。
だが我は焦りからいまだかつてないほどの集中力を発揮して、両手を組み合わせて突き出し、破壊神パワーをちょっぴりひねり出す。
「はーーーーー」
我の手のひらからちびっと出した力は、世界は壊さなかった。
その代わり割れたのは海だったが―――。
「うん! どうだ!」
「いや……すごいけど、海、戻らないんだけど?」
「……なんでだ?」
創造神の言う通りどっぱんと一直線に海が割れて元に戻らない。
海面はぱっくり割れたまま、滝のように壁になっていた。
こいつは予想外、我は額をぺしりと叩く。
「参ったな……こいつは我もビックリだ!」
「ビックリですます気?」
「えーと……破壊神の奇跡海道とか名付けてみるか?」
「名前つけるとかどうでもいいから。なんで戻らないの? 破壊神パワー?」
「さぁ? 我にもよくわからん」
神の奇跡に理屈などナンセンスである。
不思議な現象が起きてしまったが、我はこれは手加減が一応成功した……ということにしておいた。