破壊神様初心を思い出す
「……ぬあ! 死ぬかと思った!」
頭を砂の中から引っ張り出した我は、砂を吐きながら森を睨みつけた。
おっかなびっくり確認するが猪のやつは森の外まで追いかけては来ていないらしい。
内心めちゃくちゃホッとしたが、敗北感がすさまじかった。
「ぬぬぬぬぬ……なんなんだあのでかい猪は!」
だが我が敗北感なんてものに浸っていられたのはほんのわずかな間だけだ。
追いかけまわされているうちに日はとっぷりと暮れていて、辺りは昼とは全く景色が違う。
「夜になるとこんなに暗くなるとは思わなかった……というか、寒いのだが?」
ジャングルの中なんて本気の暗闇で、あのでかい猪の影すら飲み込んでいるのだからおっかない。
「ううう……なんでこんなことに。この体、性能今一ではないか?」
膝を抱え、不満を漏らしているとその時突然ミョミョンと目の前に美女の姿が現れる。
心細すぎて幽霊でも見たかと思えば、どうもそうではないらしい。
「そりゃそうでしょう。だってその身体だいたい人間で言うと6歳くらいだもの」
「ぬお! 急に出てくるでないわ! お化けかと思うだろう!」
「いや、破壊神のくせに何言ってんの? お化け怖いの?」
「そ、そんなわけないだろう? ……暗闇で急に話しかけられたらヒヤッとするだろうが。それで昔うっかり世界を一個壊しちゃって、めっちゃ怒られたのだ……」
我としても、とても苦い思い出だった。
創造神は思い当たることがあったらしく、冷や汗をかいていたが。
「あれ、そんな理由だったの? ってそうじゃなくって、なんで猪に追い回されてるの? 趣味なの?」
「どんな特殊な趣味だ! 見えておったのかお前!」
「そりゃ見るでしょう。めちゃくちゃ面白かったわ」
「おい」
慈悲深さの代表みたいなポジションのくせに何を言い出す創造神。
薄情な創造神に我はイラッとするが、我ながら情けないので言い返せなかった。
「破壊神なんだからドカンとやっちゃいなさいよ。食料にもなって一石二鳥でしょう?」
まったく情けないとなぜか上から語る創造神だったが、ちょっと我には言ってることがいくらかわかんなかった。
だからここは恥を恐れずに思い切って聞いてみた。
「そもそもだ……まず、食料とはなんだ?」
「そこから!? ……まぁそうね私達、そういうのいらないもんね。食料を食べないと人間は死ぬの。水もしっかり飲みなさい?」
「なんだそのめんどくさい設定!」
我は思わず叫んでいた。
口の中に物を放り込むのはそう言う趣味の類かと思っていたよ我。
なんでわざわざそう言う事させるのかと文句を言うと、逆に創造神からキレられた。
「めんどくさいとか言わないの! 生き物っていうのはそう言うサイクルが必要なのよ!」
「お、おう……そうなのか? うーむ」
「そこ大事なとこよ。破壊神ほど単純じゃないのよ世界って」
「破壊神だって色々気を使ってるわ」
「まぁそれはともかく、次に襲われたら流石にやっつけなさいよ。あわよくば食べないと死んじゃうからね?」
創造神はそう言うが、無茶言ってくれるものだと我はプルプル震えた。
「やっつけるって……どうやってやっつけるのだ?」
純粋に疑問だったのだが、創造神は我の答えを予想していなかったらしく驚いていた。
「は? そりゃあ……破壊神の権能でやっちゃいなさいよ。出来るでしょう? というかそういうのやりたくって地上に行ったんじゃないの?」
そう改めて指摘されて、我はしばし考え……ハッとしてしまった。
「……そうだったわー」
「何その反応。ジョーク?」
「じょ、ジョークに決まっているだろう? 当然そうだとも?」
いきなり死にそうになって忘れていたが、そうだ、その通りだ。
破壊神パワーで大活躍するのが我の目的の一つ。猪相手に取り乱している場合じゃなかった。