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破壊神様やり遂げる

「これを我に突き刺せ。それで終わりだ」


 我はキーサンに最後の使命を告げた。


 人間の世界へのバカンスもこれで終わりということである。


 せっかくやっと快適になってきたところだが、まぁこうなってしまったからには仕方がない。


 終わりを一手に引き受けている神様的には引き際は大切である。


 しかし我の剣を前にしたキーサンとミントはただただ疑問符を浮かべていた。


「な、なんでそんなことを」


「決まっているだろう? お前達人間がアレに勝つのは厳しい。だから我が倒した。そして……」


 あの邪竜はまともに生き物が戦うには、強すぎたのだ。どう考えても生物の手に余る。


 それはあの泥を見た時から何となく予想が出来たことだった。


「本題はここからだ」


 儀式は我が倒したとしても成立しない。


 魔物のボスは魔物同士の戦いで消滅した場合、ゆがみが払われるのではなく代替わりが起こる。


 つまり、魔物と同じ性質の体を持つ我が邪竜を倒せば、代替わりが発生する。


「簡単な話だ。魔物のボスは最も強い魔物が成る。よって今の我こそが魔物のボスになったということだ」


 ゆがみを正す儀式はこの世界の生物が歪みの中心点であるボスを倒すことで初めて成立する。


 邪竜を倒すのは無理でも、無抵抗の我ならたやすく討伐できるだろう。


 それでも破壊神の器は破壊するのは難しいが、そのための手段も用意していた。


 我は我が破壊神の力の結晶たる剣を差し出した。


「というわけでこの剣で我を貫け。なに、他ならぬ破壊神の力を秘めた剣なら一瞬で滅ぼすこともできるだろうさ」


「―――いや、だって、そんなことできるはずないだろう?」


 だがキーサンが我の剣を前に戸惑いを見せる。


 我はちょっとだけ困った顔をして、今度はミントを見た。


「ならミントがやるか? 教会の使命なのだろう?」


「わ! 私ですか? それは……流石に」


 尻すぼみに視線を伏せるミントだが、ここで終わらせるわけにはいかなかった。


「ではやはりキーサンだ。わかっているだろう? そうしなれば先はない」


「……でも、俺なんかがそんな資格は」


 だが今更弱気なことを言うキーサンは、まるで分っていなかった。


「お前達の他に誰ができる? 何、ちょろいものだ。おいしいところをくれてやろうと言うのだからありがたく貰っておくがよい」


 少なくとも我は、他の誰かにとどめを譲られるなど冗談ではない。


 今ここにいて、我と日々を過ごしたことそのものが他に変えの効かない資格だろうと我は思う。


 しばし考えこんだキーサンは我の剣に手をかける。


 やれやれというか漸くだが、こちらの心の内は伝わった様である。


「破壊神様は……死んじゃうのか?」


「なに、神の世界に帰るだけだ。気にするな。我にしてみればたいしたことではない。一発で決めろよ?」


 我が手招きすると、キーサンの手に力がこもる。


 ちょっとおっかなかったが、我は破壊神の矜持として、堂々と受けて立った。


「さぁ! 我は破壊すべきものを破壊したぞ人間よ! 今度はお前達が覚悟を見せる番だ!」


「……何で破壊神様はそこまでしてくれるのですか?」


 問いを投げたミントを我はハンと笑い飛ばす。


「なんで? 決まっているだろう? 誇るがいい人間よ。お前たちが我にこうさせたのだ」


 まぎれもない、それこそが真実だ。


 我の望みを聞き届け、我もまた望みに応える。


 人の行く道に未来があると人間が示すのなら当然である。


「でも、俺達が一体何をしたっていうんだ? 家を作ったのも竜を倒したのも破壊神様だろう? 俺達はあんたなしじゃ何にもできなかったじゃないか」


 キーサンは震えて言うがそうではない。


 我は首を横に振る。


「いいや。家を作ったのはお前だよキーサン。我一人なら、精々木組みで満足したことだろう。ミントもそうだ。お前の料理が我の世界を変えた。最初に食わせた炭の塊で我は満足していたのだから」


「そ、そんな。私の料理なんて大したものではないんです。どこにでもあるような普通のとるに足らないものだったんですよ?」


「そうとも。すべては大したことではないものの積み重ねでしかない。だが我が邪竜を倒したのも、元をただせばそのとるに足らないことこそが根源なのだ。そしてその積み重ねが、大いなる価値を生む」


「……なんかゴメン」


「謝るな人間よ! それに何もできなかったと嘆いているようだが……我が求めるキメ時はここだぞ!」


「……!」


 キーサンは弾かれたように飛び出して、我の言葉に応えた。


 剣の切っ先が我の体を貫いたのは間違いない。


「フハハハ! 見事! この破壊神がしばしの猶予をくれてやろうというのだ! 世界が再び悲鳴を上げるその時まで励むがいい!」」


 思ったほど痛みはなかった。


 そして剣に込められた我の破壊神としての力が丈夫な我が体を消し去って行く。


 そしてこの世界にやって来た時と同じように我の周囲は光輝き天界への門が開くと、意識が薄れていった。


 キーサンとミントが我を見て涙を流している。


 やれやれ、消滅の瞬間まで偉そうにしているのは中々骨だった。


「ありがとうございます。ポポロ様……俺、これからも頑張るよ」


「ありがとうございました……ポポロ様」


「フゴ!」


 だがようやく感謝の言葉を口に出来たことは花丸をやるとしよう。


 こうして我の意識は完全に途切れた。


*****


「……ふぅ」


 意識が途切れ、我はまた目覚める。


「よし……やったったな!」


 身体が消えれば天界に戻る、嘘偽りない真実である。


 いやー頑張ったわ我。


 一時は空腹で野垂れ死ぬと思ってたのに、綺麗に終われて我、満足だった。


「フゴ!……」


 だがそこでなぜか視線を感じ我は振り向く。


「ポポロス!? なんでお前ここにいるのだ!?」


「フゴ!」


 ちょっと予定外の誤算はあったけれど わしゃわしゃとポポロスの鼻をなでる我は正直かなりご機嫌だった。

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