破壊神様助けられる
「何だこれ? 黒いよな?」
「水みたいに波打ってませんか? いったいこれは……」
「お前ら。絶対にアレに触れるんじゃないぞ……」
我は直感的にそれがまずいものだと理解していた。
あの泥はゆがみそのものだ。
良くないものが溜まり、可視化可能なまでに密度を増している。
だが本来ならこんなになる前に魔物になっていなければおかしいはずだが、なぜ魔物に変化しないのか?
我の疑問に答えるように、声は頭の中に響いた。
「そう。不活性化して溜まったこれは、混沌の泥ってところかしら? 魔物にもならず積もり続けた世界を滅ぼす毒の沼よ」
ピピンめここぞとばかりに語りだしやがって。
我は若干イラつきながらも少しでも情報を引き出そうと、気持ちを落ち着けた。
「何でこんなことになる?」
「さぁ? 発生が無人島っていうのもよくなかったのかも。刺激が少なすぎたのかもね。まぁ偶然の産物よ」
「……お前。どうするんだこれ?」
「どうとでも、刺激を与えれば本来の働きを取り戻すわ。いえ、もう徐々に魔物は出てきているでしょう?」
「ああ、そうだった……」
ウシやらシカやらもう魔物は出て来始めている。
そして完全に活性化すれば、この泥がすべて一気に魔物変わるわけだ。
それがいつかはわからないが、いつかがそう遠くないのは間違いなかった。
「うわー。めんどくさー」
「これが何だかわかるんですか?」
そう尋ねるミントに我は慌てた。
「いやぁ……まぁヤバい泥だよ。ほっとくと魔物になる感じの」
「大変じゃないですか!」
「そうだとも。このまま放置していても、悪くなることはあってもよくなることはたぶんない」
さてどうするか。我はいったん頭を冷やす。
我の力で少しづつ泥を消し去ることは可能か?
いや迂闊に触れば、一気に泥が活性化しかねない。
「悩む必要なんてないじゃない?」
だが創造神の声は特に考えた様子もなく頭に響く。
「! おま! やめ!」
何をしようとしているか察し、大いに焦った我は止めようとするが、すでに事は動き出していた。
「え? うそ! なにこれ!」
ミントの杖が光り輝いている。
その加護の光は、創造神の聖なる光に他ならない。
そしてそれは普段なら癒しをもたらす光だが、今は真っすぐ泥に光が照射されていて、何をしようとしているのかは予想できた。
「ちょおま!」
「まぁ必要な事だから、じゃ! 頑張ってね!」
「ふざけるなよ!?」
創造神の放った光によって、今混沌は目を覚ます。
光の当たった部分の泥がボコボコとざわめき、姿を現すのはこの世すべての生命を殺しつくさんとする反存在。
これはこれできっちりと生きている、危険極まりない魔物達は産声を上げる。
「くそ! こうなったら仕方がない!」
「わ、私ですか!? 私がやっちゃったんですかね!」
「いやいやいやくるぞ! どうする!」
あまりにも唐突な絶体絶命のピンチに我は相当ビビったが、襲い掛かって来た魔物の群れは、ドカンと派手な音を立てて蹴散らされる。
巨大な質量のタックルに魔物はなすすべもない。
救世主はお尻で語る―――毛深い体毛が素敵な猪だった。
「「「ポ、ポポロスさん!」」」
「フゴ!」
混乱した我らの心は一つになった。




