破壊神様、戦いの準備を整える
「ど、どうしたんだよ急に?」
「どう考えても私達じゃ無理ですよ? どうにか生き残る事だけ考えて……」
妙に慌てている人間二人だったが、これは二人にとって決して悪い話ではない。
それが分かっているから、我はにっこり笑い気軽に行った。
「まあ気にするなちょっと行って来るだけだから」
「だから無茶だって」
「そうですよ? 危険なことはやめてください」
だが妙に食い下がる。
そしてそのニュアンスに引っかかるものを感じて、今度は強引に断言した。
「ええい! やかましい! やると言ったらやるのだ!」
我はさっそく準備を整え始めた。
何、武器も防具もこの島にある。家を建てる材料にと海岸から引っ張って来た装備はまだ釘にならずに残っているものも多い。
我はそのいくつかを外に持って来ると作業場に積み上げた。
「よしよし。戦うというのなら装備を整えておかねばな」
幸い武器の手本も材料もあるのだし。
そして我の錬磨したテクニックをもってすれば、もはや鉄を炎の要領で破壊することなど造作もない。
何本かの剣や、釘を作ったガレキを集めて力を籠めると、すべてどろりと分解する。
そして大きな刃の型を作り、そこに流し込んだ。
出来上がったのはひたすら無骨な丈夫さに特化した刃だった。
「うん。中々だ。キーサン、これはお前にやる。我が見たところ、お前はパワーが有り余っているようだから小手先の技よりもデカいものを振り回す方が向いているだろう」
「え? 俺に?」
キーサンはわけもわからず戸惑っていたが、我にぐずぐずする趣味はない。
今度は魔法に向いていそうな植物の幹をザクザク削いで、杖を作り出した。
十字架を模したそれは、女子仕様に若干飾りを彫りこみ、最後の仕上げをしておく。
「創造神! 加護をよこせ!」
「なに罰当たりなことを叫んでいるんですか!」
我のセリフに律義にツッコミを入れるミントだが、空から降り注いだ光を見て、ガチリと石のように動きを止めた。
「……え゛?」
加護の光は杖に吸収されてゆく。
出来上がった杖はわずかに光を発し、加護の強さも問題ないようだった。
わずかに「やれやれ仕方がないなぁ」なんて意思を感じるが、まぁこんなもんだろう。
「うん。まぁ中々だ。ホレ、ミントよ。お前にはこれをやろう」
「…………えぇ!!!!」
「これなら今より魔法がうまく使えるはずだ、まぁ何かあった時の備えくらいにはなる」
「は、はいぃ!」
ミントの膝が震えていたが、そのうち慣れる。
これでひとまず何かが起こったとしても人間二人が簡単に死ぬようなことにはならないだろうと我は満足して武器を装備する二人を眺めた。
我の作った武器に感動したのか、人間二人は小声で話し合っていた。
「なんで急に……」
「いや、これはひょっとして神に選ばれた子供の使命感―――」
「……まだ子供なのにー--」
「この子を守ることが―――」
妙に緊迫した雰囲気でキーサンとミントが話し合っていたが、命の危険があるかもしれないんだから、迷うのはある程度は仕方がないのかもしれない。
家作りにこき使った借りを返せればいいのだがと思っていた我に、秘密の話し合いを終えたキーサンとミントは我の渡した武器をそれぞれ握りしめ我に言う。
「……仕方ない。元々そのつもりで来たんだしな」
「そうですよ……私達が戦います」
「ええ? そ、そうか?」
妙にやる気に満ちたというか、どこか悲壮な覚悟を固めている気がするのだが、まぁいいか。
どちらにせよ彼らには来てもらわないといけなかったのだから。
「説得が一番大変だと思っていたから、好都合なのか? まあいいか」
来てくれるのなら問題ない。
さて最低限の準備もできたし、我も見せ場くらい装備を整えていくとしよう。
人の目もあるので、せっかくだから神らしい武器を用意することにした。
「ふむ。ではやる気を出してくれたお前達に、神の御業を見せてやろう」
「いや、今までも結構見せてもらったけど?」
「そうですよタダのお子様ではないとは思ってます」
「それはお前達が出来ることを、早くこなしたに過ぎない。今から見せるのはお前達がまだできないことだよ」
いつかできるようになるかもしれないがとは思うが、まだ先があるならばずっと先の話だろう。
大切なのは閃きと、確信だ。
我は手のひらからオーラを絞り出す。
真っ黒なオーラは炎のようにしばらく手のひらの上で揺らめいていたが、徐々に長く棒状になって―――剣の形に収束していく。
「な、何やってるんですかそれ?」
「エネルギーの物質化。我の力を固形化したのだ。なんかできそうな気がしたんでな」
「「?」」
流石にこれは何を言っているのかわからなかったようだが、結果はきちんと剣という形でこの手に残っている。
真っ黒な光を反射しない物質は確かに質量を持ってこの世界に存在していた。
我は振り心地を確かめてうんと頷く。
この小さな体でも振りやすく、我が力も存分に乗せられるいい剣である。
「よしよし、重さも長さもちょうどいい。さて、では行くとするか」
この島で何かが起こっていることは間違いないと我はそう仮定する。
そして創造神の他に何が起こっているのかおそらく漠然とでも理解している優秀な猪を我は知っていた。
我は自作の剣を腰に下げ、ポポロスの元に向かうと語り掛ける。
「ポポロスよ……お前なら、この島に何が起こっているのか理解しているのだろう? 怪しい場所を知っているなら案内してくれないだろうか?」
ポポロスは語り開ける我をじっと見ていた。
頭の良い奴だと我は思う。
そしてポポロスはぶひっと鼻を鳴らして立ち上がると、巨体を持ち上げのそのそと我らが付いていけるスピードで歩き始めた。




