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破壊神様ぼんやりする

 遠くの海がきらめいていた。


 波の音まで聞こえてきそうな景色を見ているとなぜゆえこんなにも落ち着いた気分になるのか、それは我にも分からない。


 素敵なウッドデッキに置かれた、ウッドフレームのビーチチェアに寝そべる我は、サイドテーブルから山盛りの果物を一つ摘まむ。


 そして我の傍らには大きな葉っぱをうちわ替わりにそよそよといい感じの風を送るミントがいた。


 我は肌に流れる風を感じ、口の中には甘い果汁を一杯にして、身体が溶け出しそうな充足感に完全に浸りきる。


「あぁ~いい……これはいいな」


「つ、次は私のばんですよね! いいんですよね!」


「わかっているとも。でももうちょっと……もうちょっとだ」


 我らはバカンスごっこに興じていた。


 我ながらちょっとアホになっている。


 言い出した手前口に出せないが思ったより家作ったりが大変だったのだ。なめてた。


 ウッドデッキから遠くを見つめるキーサンは長いため息を吐いた。


「こうしてると、ここが魔物がいる最果ての島なんてなんか嘘みたいだなぁ」


「そうですねー。でも、こんな所にいるのにたった3人じゃ何もできることがないって言うのは悲しいです……」


 そしてミントも、作業がなくなったことで考える時間が出来たのか、今一覇気がないのが我にも感じ取れていた。


「何もできることはないのかな?」


「……ないと思います。過去……予言された魔物の王は、騎士団を総動員しても勝てるかどうかというほど強大だったようです。今回の相手は邪竜だそうで、竜型の魔物は例外なく強力と言います。私のような下っ端では鼻息一つで消し炭ですよ」


「そんなにか……ははっ確かに俺は考えが足りなかったんだな」


「危険なので極秘に準備が進められていると聞いてました。でも噂になっていたのなら意味ないですよね」


 はははと渇いた笑いが響く。


 うむ、この雰囲気はよろしくない。


 だが今の我はどうにも忙しかった。


「「……」」


 目を瞑る我に、二つの視線が向けられる。


 だが我は、うつ伏せになっているからそんなものは決して見えない。


「あ~地面でなければこんなに体が痛くないものなのだなー。いいわー。コツは掴んだし、次はもっといい椅子を作れそうだわー」


「そ、そうですね! 今は家の完成を喜びましょう! 幸い魔物も思ったほどいませんし、うまくすれば生き残れそうです!」


「そうだな! よし! ならもっとこの家、便利にしてやろう! 全員分の専用の家具なんかいいかもな!」


「あー……いいなそれ。島をもっと探したら、おいしい物ももっと見つかるかもしれないな」


 それは実に素晴らしい。


 なにせ我が探索した範囲など砂浜周辺と島の外周くらいのものだ。


 この島はかなり広く、ジャングルの奥に行けばまだまだ発見はあるだろう。


 そして更なる資源を発見すれば、もっと住みよい環境を整えることも夢ではないだろう。


 人間二人は我を見ると力が抜けたのか、苦笑していた。


「めっちゃだらけてますね、破壊神様」


「ちょっとだらけすぎじゃないか?」


「そりゃあー、あれだけ働いたのだ。だらけもするだろう。それにそもそも創造とかは我の領分じゃないのだよー。冒険したいと思っていたが、もうどうでもいいかもなと我は思い始めている。この家を今更捨てるなんて嫌だ」


「あーそれはわかりますね。短期間で建てたとは思えないほど立派な家ですし」


「ああ。かなりのものが出来たと思うもんな」


 それぞれ専用の椅子なんてものまで作ってしまった。


 我もミントもキーサンも、はぁと一息ついて自分の椅子に座る。


 するといい感じの風がソヨリと体をなでて、疲れが解けていくようだった。


「ああ……すべてがどうでもよくなってくるな。お腹いっぱいで、満たされて」


 ああ、人類の知恵、なんて素晴らしい。


 結局異世界召喚がどうのとか、神託がどうのとかそういうことをするのも我々がこういう物にどうしても惹かれてしまうからなのだろう。


 未知を未知のままにせず、少しでも快適に良くしようとするその姿勢は、全知全能に近づくほどに失われていく尊いものだ。


 我とてこの身体がなければ、様々なことに気も留めなかったはずだった。


「……ハァ」


 ため息がこぼれる。


 我は寝そべったまま空をしばらく眺めていた。


 そして結論が出ると我は、ウッドチェアから立ち上がって呟いた。


「……邪竜、倒しに行くか」


「「えぇ!?」」


 やはり、単にくつろいではいられなかったのか。ミントとキーサンは我の呟きに敏感に反応していて、我は思わずニヤリと笑った。


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