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破壊神様宴を催す

「こ……これは!!!!!」


「ふっ……すごかろう。褒めたたえてもよいのだぞ創造神よ」


「う、嘘よ! こんな……無人島でこんな……貴方破壊神でしょ!」


「まぁ? 我ののっぴきならない優秀さは? 人の体であっても? 健在であったということでは?」


「ぬぐぅぅ」


「そう悔しがるなよ。創造神よ。まぁ? お前が人間になったとしたらもっとすごい奴ができるのではないか? 創造神だけにな! まぁやってみなければわからないことだが?」


「絶対ギブアップすると思って色々仕入れて来てたのに!」


 そんな捨て台詞を残して創造神は去った。


 あっはっはと愉快に笑ってうっぷんを晴らす我と、様子を見に来て悔しげにしていた創造神の姿こそ、勝者と敗者の正しい姿だと言えるだろう。


 完成祝いをする頃、泣きっ面を拝みに来た創造神には似合いの末路であると我、思う。


 まぁ、出来るわけがないと高をくくっていた創造神が悪い。


「よし! 創造神もぎゃふんと言わせた所で! 今日は祝うぞ! 我は宴会というものに憧れていたのだ!」


「……そうなんだ」


 そこな人間、可愛そうな目で見るんじゃぁない。


 破壊神様は宴会をしたことがないだけでいつだって元気である。


 今晩の夕食のために整えた準備は大きな器と大きなテーブル。


 未だその上に乗る主役たちは登場していない。


 ポポロスはポポロス専用に用意した大きな器を前にまったりと寝そべっていて、今は完全に休息中のようだった。


「キーサンよ、お前はよくやった。キーサン無くしてはこの偉業話せなかった」

「いや、破壊神様の不思議パワーでほとんどやった気がするんだが。俺はただ組み立てただけで……」


「馬鹿をいえ。ただの木組みではこうならない事はやってみればよくわかった。礎を築き、柱を立てて、屋根を乗せる。本来これだけのことをすべて人だけでやっているというのだから、驚くべきことだ。それを可能とする数々の工夫はまさに人の技。賞賛に値するぞ?」


 これは我の偽らざる本音である。


 何をどうしていいかわからないというのは物事の最初に立ちふさがる大きな障害だろう。


 何かをなせる能力があったとしても、とっかかりもなければ空回りするだけだとよくわかった。


 不可能を可能にするために、人間達がどれだけ丁寧に閃きと努力を繰り返してきたかこの数日で実感できたというものだった。


「いや大げさすぎる……これはそんな大層なもんじゃ……ねぇよ」


「謙遜するでない。とにかくお疲れ様だ。今日は大いに楽しむぞ!」


 実はそろそろじゃないかと我は睨んでいたのだ。


 ミントに頼まれて作った大きな竈から煙が上がってかなり時間が経過していた。


 ふわりといい香りもさっきからしてきていて、もう我は辛抱たまらない。


「……この匂いは暴力的なまでに胃袋を刺激するな」


「それは確かにそうだ」


 キーサンも今日も一日頑張ってくれていたから腹も減っていることだろう。


 そして待ちに待った言葉は、すぐにやって来た。


「ご飯できましたよー」


 だが料理が近づいてくると、どこか知ってる酸味が匂いに混じって、我は固まった。


 そう我は大事なことを忘れていたのだ。


「……そうか出来てしまったのだな」


「どうした? 腹減ってるだろ?」


 キーサンは訝しむ。


 だが我は余計な先入観は与えるべきではないと、咄嗟に判断した。


「……うむ。まぁそうなのだがな」


 知らないというのが幸せというやつか、キーサン、哀れな奴。


 腹が痛いと訴えてきたら、何も言わずに治療してやるとしよう。


「えへへ……いやぁこんなに本格的な窯まで使えるとは思いませんでしたよ。 一回やってみたかったものも試してみちゃいました!」


 ミントが差し出した皿の上には平たい食べ物の上に、白いドロッとしたものと肉の乗った食べ物が乗っていた。


「おお!こいつはうまそうだ!」


「!」


 我は予想に反して笑顔のキーサンに気づかれない程度にギョッとした視線を向ける。


 そしてなんのためらいもなく、キーサンは平たい食べ物を掴み、三角形にきられた一切れをパクリと口の中に放り込んだ。


 いった!


 反応はいかに!?


 もぐもぐと吐き出さずに食べるキーサンは、そのままゴクリと飲み込んで言った。


「うまい!」


 うまいのかあれ!?


 衝撃的な感想だった。


「破壊神様もどうぞ?」


「う、うむ」


 にこやかに進められては、断るわけにもいかない。


 我は恐る恐る手を伸ばす。


 持ち上げた料理は白い物が糸を引き、強烈なにおいを発していた。


 だが不思議と、匂いは空腹を刺激してくる。


 頭の中の妙な対立に混乱しながら、我は勢いでそれを口の中に押し込んだ。


「!!!」


 暴力。そうそれは暴力とでもいうべき油のタックルであった。


 我はその場に崩れ落ち、臓腑の奥からこみあげる満足感に身をゆだねた。


「あ、あの、おいしくなかったですかね?」


「ぐぅ……逆である! うまい!」


 口に出したことでそれがうまいという情報であると身体が理解した。


 粘りのある油のねっとりとしたうま味が口を長い事重みのある充実感にいざない続ける。


 ポポロスがボディに追突したかのようなどっしりとした食べ応えは魚とは比べ物にならなかった。


「これが……肉を喰らうということなのか!」


「大げさですね」


「大げさだなぁ」


 人間二人は妙に冷めたことを言うけど、我そんなことないと思う。


「ちなみにこの平たい奴はなんというんだ?」


「ピザですよ。あり合わせで作ったのでなんちゃってピザってところですか」


 なるほど、未完成品でもこの威力。驚嘆に値した。


 我はふらりと立ち上がって、もう一つミントが持ってきた謎の物質に興味を移した。


 傍らには白い焦げた塊が一つ。


これには何かあると我が直感が告げていた。


「それで……その白い奴はなんだ?」


「これはですね塩釜焼って言うんです。 ああ、金槌ありましたよね金槌!」


「金槌好きだな。……たしか今日のために特別でっかい魚を捕まえてお祝いじゃなかったのか?」


 というのもお祝いのために魚を用意したのは何を隠そう我である。


 立派な大きな赤い魚をゲットすることができたのだが、どう料理するかはまだ聞いていなかった。


 ミントは思い通りに出来たのか。やけに得意気だった。


「そうですよ? 魚料理です」


「だがこれは塩だろう? 塩の塊ではないか、これをかけるのか?」


「まぁ見ていてくださいよ」


 そう言うとミントは金づちを持ってきて構える。


 そして塩の塊に振り下ろした。


 かっつーんと思ったより硬い音がして塩が砕けると塩の罅から、香りの爆弾が爆発した。


「ん、なんだこれは!」



「そうですとも、これが塩釜焼です!」


 なるほどなるほど、我が力で海水から大量の塩が手に入る今だからこその技というわけだ。まず出てきたのはバナナの皮である。


 そしてその下から大物の魚が絶妙な焼き加減で姿を現した。


 なるほど、物珍しさを売りにした料理……ということか。


 かなりのインパクトがあると認めざるを得ないだろう。


 だがあれは塩を使い過ぎである。


 そもそも塩の中に魚を入れて焼いて何の意味があるというのか?


 これならば味は焼き魚の方に軍配が上がりそうであった。


「おいおい、これでホントに大丈夫か? とても我を満足させられるとは思えんが?」


「ひとまず一口食べてみてくださいよ?」


「そうか? いやーしかしだな。ここ数日で我の舌も肥えてしまったからなぁ。今更焼いた魚だけでは、花丸はやれんと……」


 木で作ったフォークで魚の身を突っつく。


 口元まで持って来た白身の魚からは不思議とふわりと魚以外の香りが漂っていた。


 ほう、これは一緒に入れていた葉の香りか。


 我は気が付きつつも、それを口に運ぶ。


 プルプルとみずみずしい身が下に触れた瞬間、予想していた触感のずれに、我が脳がバグを起こした。


「うぐ!」 


 南国、海の楽園を幻視したのは、偶然ではあるまい。


 破壊神という性質上、暗黒に染まりやすい我がオーラも、この瞬間はパイナップル色であった。


「破壊神様! なんか! なんか出てます!」


「おっと、これはすまん、ついうっかり迸ってしまった。だがこれは焼き魚とは違う!……明らかにこれは違うぞ! あの大量の塩を使いながら、ちょうどいい塩梅の味。バナナの葉という香りのアクセント。ふっくらとして柔らかな身は焼き魚の香ばしさとはまた異なる趣を確かに感じる。宴という特別な舞台にふさわしい演出と言い、素晴らしいぞミントよ……これは我も花丸を出さざるを得ない」


「あ、ありがとうございます」


 恐縮するミントの顔は赤くなる。


 唾液がとめどなくあふれるのは、口が幸せな証である。


「まだありますからどんどん食べてくださいね!」


「言われずとも! これはいただくとも!」


 今更止めろと言われてもそいつは出来ない相談だった。


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