破壊神様ガラスを作る
ポポロスが狩って来たかなり大きな牛は、食料としては申し分ないが何でこんなにデカいのか。
三人ではいくら食べてもなくなりそうにないが、そんなもの一個たりともネガティブな情報ではありはしない。
食べるためには適当な場所で血抜きをすると良いという話なので我は素直に従い、下処理は任せろと胸を張るミントに任せて、キーサンの作業を見に行った。
腕を組み、感慨に浸る我の目は感動の光できらめいていた事だろう。
キーサンのパワーは戦士を名乗るだけあって大したもので、柱を軽々と持ち上げ、どんどん組み上げていった。
指示された細工の場所が、ガチリと組み合わさって行く様子は、とても自分が試しにやったことと同じことをしているなんて思えなかった。
いつまでも野宿は嫌だと言う全員の切実な思いと、我の神懸った手加減テクニック。
そして予想外のキーサンの技術に、ミントの献身的なサポートが合わさって驚異的な速さで目的の家は作り上げられてゆく。
「これは……家だな!」
「そりゃあ家だろうなぁ」
うんうんと完成した家を見て満足げに頷いているキーサンだったが、我はいまいち物足りないものを感じていた。
「いや……なんか、足りなくないか?」
「……無人島で一から作ったと考えると、これ以上ないと思うが?」
「いや、窓が少なくないか? あの……透き通った板の入った奴がいいのだが?」
「ガラス窓作れってか!?」
「王都以上のモノにするのだろう? 出来ないか?」
「出来ないな。そもそもガラスなんてどこにあるんだ……」
そんなことを言いかけたキーサンに我は、先ほどミントが持ってきて残ったものを見せる。
そこには大量の瓶が箱いっぱいに詰まっていた。
「……やってみれば?」
「やってみるとも! では枠は任せたぞ!」
「わかった」
「あと何か知ってることがあるならば吐くがいい!」
「……わかった。だけどこっちはホントに聞きかじっただけだからな?」
そう断るキーサンはうろ覚えの知識を披露した。
「俺の知ってるのは鋳造法っていって、まぁ型を作っておいてそこに溶かしたガラスを流し込むってやり方だ」
「ふむ。ならば、鉄同様破壊神ファイアーでいけるのでは?」
「……その魔法、大概反則だよな」
「だから魔法ではない」
ならばと、我はキーサン指導のもと、さっそく型とやらを用意する。
とは言っても硬そうな岩にスコンと一撃、きっちり板型のくぼみを作れば完成である。
そこに熱で溶かしたガラスをゆっくりと流し込んでゆく。
「むっ……なんか泡が沢山出来ているな、小癪な。破壊しつくしてくれるわ……」
泡があるということは中に何か入っているのだろう。いや、入っているのは泡だけではないか。
我が破壊神アイで目を凝らせば、ガラスが透明になりきれない原因、光を遮る不純物が沢山あるのだ。
おそらくは一緒に溶かしてしまった鉱物の類か。小癪な。
だが我とて破壊神、あるとわかっているものを壊すことなどたやすい。
ゆっくりと手をかざすと、一切の泡と曇りがなくなったガラスが型にはまって四角い板となる。
完全に透き通った分厚いガラスの板は、なんというかピカピカで妙にテンションが上がった。
「うむ! これは完ぺきなのでは? 完全にガラスの板だろう?」
「……やっぱり大概反則だよな。こんな透き通ったガラス見たことないわ」
出来上がったガラスを見たキーサンはやるせない顔をしていたが、それはOKサインも同じだった。
物ができれば話が早い。
瓶の類はそれなりの数荷物の中にあって、窓ガラスは滞りなく用意される。
出来上がった家の壁にスコンと穴を開けたら、きっちり枠を作りガラス窓をはめて―――。
「おお!」
「今度こそだな!」
なんということだろう。
数日前には地面しかなかったこの場所に、今確かに建物と呼べるものがあった。
感動である。
まぁ細々した物はこれからだが、雨風は間違いなくしのげるところまで来た。
これは無人島生活から見ても大きすぎる進展だった。




