表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/50

破壊神様、真の勇者を垣間見る

 我がその場に座り込み黙々と作業をこなしていると、今度はミントがやって来た。


「あのーちょっとお願いがあるんですが?」


「なんだ? いま、ちょっと床と壁を作るので忙しいのだが?」


「ええ、っと、そうですね。頑張っておられるので、夕飯はどうしようかなと思いまして」


「うむ。話を聞こうか」


 我はさっと顔を上げてすぐに作業を中断した。


「そ、そうですか。それでこんなものを見つけたんですけど……」


 そう言ってミントがガチャガチャ音を立てて抱えてきたのは、大きな箱に入った瓶入りの液体だった。


「なんか……白いのだが?」


「はい、ミルクですから。飲み物なんですけど……」


「飲み物……なのだよな? 何か問題が?」


「はい。その……飲み物ですけどギリギリです」


「ギリギリか」


「はい」


 我は手に取って瓶の一本をゆすってみると、水とも違った独特のもったり感がある。


 手から伝わる感覚は我に不思議と不安な気持ちを抱かせた。主にお腹の辺りの反応が顕著な気がした。


「おかしなことを聞くが……これは大丈夫か?」


「だからギリギリダメかと」


「ギリギリダメか……」


 そう言うことらしい。


 ダメもとで我はキュッポンとコルクの栓を抜くと若干の酸っぱさが鼻を抜けた。


「なるほど……確かにギリギリか」


 ならば決断せねばなるまい。


 我は無念だと首を振り、それを口に入れることを断念する。


 だと言うのにミントの判断は違ったようだった。


「いえ、しかし私考えたんですけれど、破壊神様ならこの中にいる腹痛の素だけを破壊できるのでは

ないでしょうか?」


「うむ? いや何でどうにかして食おうとする?」


「だって、もったいないじゃないですか」


「……」


 我は何でもない風にミントを見たつもりだったが、正直ギョッとした。


 これに挑戦しようというのか人間よ? だって元は液体だった物が固形になりかけてなんか酸っぱいのだぞ?


 ヤバいよな?


 だがミントは恐れるどころかニコニコと笑顔さえ浮かべていた。


 ギリギリだと自分で言っておいてこの対応―――我は何か負けた気分である。


「ぐ……勇者はこんなところにいたのだな。我の完敗だ」


「いや、なんだかこういうのってまだいけるかなって思いません? 私ヨーグルト好きなんですよね」


「ほう……こういう食べ物があるのか」


「あると言えばあるって感じです。たぶん違う気もするけど……見た目は近いです」


「違うんじゃないか? やはり……勇者ではないか?」


 どうにも製法に精通しているというわけではないらしい。


 お腹を押さえてプルプル震える我に、ミントは牛乳だったモノを押し付けた。


「と、とにかく! 貴重な食糧ですから活用できるのなら活用していきましょう! 破壊神様のお力あっての試みですので、普通はマネしちゃいけません!」


「うーむ。そこまで言うのならやってみるか」


 試してみるのは簡単である。


 生きているというのなら、その探知はたやすい。


 我は目に力を込めて、正確に中にいるものを捕らえた。


「!」


 そして何が何やらわからないがとにかくいい感じにオーラを流し込んで破壊完了である。


「よし、こんなものでどうだ?」


「……」


 ちょっと力を籠めすぎたか、まだわずかに液体味のあったミルクが固形になってしまった。


 ミントは出来上がったそれを凝視して、瓶の中に指をツッコむと固形になったそれを口に放り込んだ。


「……! ど、どうだ?」


 我は正直うまいわけ無いだろうなって思っていた。


 だがミントは眉間に皺を寄せてもごもごとその白い固形物を味わい、目を見開いた。


「ああこれチーズっぽい!」


「く、食えるのか?」


「自分で作っておいてなに言うんですか。食べられますよたぶん。というかチーズです。牧場なんかで売ってます」


「……人間って勇者しかいないのか?」


 これを権能も使わずに作って食ったのか? 人間半端ない。


 人間文化の奥深さに感心したと同時に、いやないわーなんて思ってしまった我だったが、作ってしまったものはミントに好評だった。


「うん! これならいけます!」


 何の確証があってそう思うのだろう?


 まぁそこまでミントが自信満々ならば試してみるのもいいかもしれない。


 彼のアニサキスバハムートすら退けた、腹痛治療には一定の自信もある。


 気合を入れたミントは今夜の献立を考え始めた。


「うーん。でもチーズだけでは何とも味気ないですよねー。出来ればお肉が欲しいですけど、干し肉しか無いんですよ。でもやっぱり脂身がないとですね」


「……」


 我としてはそれをぶっかけるのは勘弁してほしい。


 出来れば別々で度胸試し的に挑戦したいのだがという言葉を飲みこんだ。


 その時、ズシンズシンと地響きがこちらに向かってやってくるのが聞こえた。


 その足を音を聞いてミントはおどおどしていたが、我は友人の帰還を確信した。


 すぐに森からその巨体が姿を現したが、本日は体重二倍だった。


「おお! ポポロスよ! 何か狩って来たのだな! えらいぞ!」


「ぶひ!」


 嬉しそうに鼻を鳴らすポポロスの背中には、恐ろしく巨大な牛が乗っかっていたのだ。


「いやー、こんなでかい奴がいたのだな! よかったじゃないか! 新鮮な肉が手に入ったぞ!」


「そ、そうみたいですけど……あれって食べられるんですか?」


 表情をこわばらせているミントにとろみのある牛乳は食べようとしたくせにあれはダメなのかと我はかなり疑問だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ