破壊神様やってみる
「家を建てる場所は決まっているのだ!」
場所は元々ポポロスが昼寝をしていた丘だった。
豊富にある果物と海まで見渡せる景観は、現時点でも素晴らしい。
ここに住処を作れれば最高だろうと我は考えた。
ただ、こんなにも素晴らしい場所だと言うのにミントもキーサンもそれどころではないらしかった。
ポポロスを見上げていつでも逃げられる準備をして距離を取る二人に、ポポロスも興奮気味である。
「……ポポロスよ。この人間は仲間だ。ふっれーんど」
「フゴ!」
見かねた我が声をかけて、ポポロスが少し下がったことで、ようやく人間達にはほんの少しの心の余裕ができたようだった。
「で、でっかい猪だなぁ……」
「よく見ると……あの猪、どこかで見たような見てないような?」
そして都合のいい……残念なことに、ミントはなぜかポポロスの事を覚えていないらしい。
いい感じに記憶が飛んでくれているようなので、我はこのまま話を進めることにした。
「細かいことは気にするな人間達よ! よく見るのだ! こんなにも景色がいいのだぞ! 些事に囚われていてはもったいない!」
納得はいかないようだったが、ミントとキーサンは丘の上からの景色を見て明るい表情を取り戻した。
「確かに。見晴らしがいいな……」
「海がきれいですね! 貴族様の別荘地みたいです!」
「で、あろう? だが……まぁ問題は肝心の家をどうするかだ」
結局ネックはそこなのである。
どちらかといえばミントが期待できそうだという印象なのだが、そうすぐにうまくはいかないようだった。
「……作れなくはないんでしょうが、やっぱりテントくらいにしときません? 道具もないし労力かかりすぎですって」
「やだ! やる!」
「だだっ子ですか!」
「すぐ出来ないとかやりたくないとか言うからだ。ホラさっさと説明しろ! 素材と力があればどうにかなるのだろう? ポポロスの力を借りれば大抵のものは運べるはずだ! 家を直に見たことあるのはお前達だけなんだから!」
破壊神的には創造神に言われっぱなしも腹立たしいので出来ることがあれば頑張る所存である。
ミントはうーんと唸りながら材料を口に出した。
「いえ、私も詳しいわけじゃ無いんですよ? えーっととりあえず木でしょうか? 後は土台になる石とか、粘土とか?」
「ふむ。なるほど。では道具とやらは?」
「いやさすがに道具なんかは……ああ! 金槌なら知ってます!」
こういうやつとミントがガリガリ地面に描いたそれは長方形と長方形がくっついていた。
「……金槌か。これがあれば出来るのか?」
「いえ、無理なんじゃないかと」
「何でだ!」
「いえだから、私神官なので……」
「うーむ……じゃあ、キーサンは?」
あまり積極的に参加してこないキーサンは心なしか落ち着きがない気がした。
「い、いや―……俺もわからないかなぁ……」
「そうか。ならば仕方ないな」
キーサンは音のなってない口笛を吹きつつ、頭の後ろに手を組んでいる。
やはりわからないというのなら仕方がない。そう納得した我にこそりとミントが耳打ちする。
「あの……明らかにキーサンさん、何か知ってそうじゃないですか?」
「なに? 知らないと言っているではないか?」
「そ、そうですけど……嘘をついているだけなんじゃないかなーと思わなくもないですか?」
「嘘? 嘘を吐く理由なんてあるまい。ミントの考えすぎではないか?」
「う、疑いのない眼差しが、痛いです。そ、そうなのかなぁ……」
「知らないのなら仕方がないのだ。そこを責めたところで仕方がない。次は見た目から想像して、とりあえずやってみなくてはな」
「ま、まぁそうですね」
ミントはよろよろと引き下がる。信じる心は大事である。
決して知らないことを責め立ててマウントを取るようなどこかの神のような真似をするべきではないのである。
妙にショックを受けていたミントは気を取り直して知っている事を話し始めた。
「コホン、では……私のいたところでは、木組みに木やらレンガで壁を作った物が一般的でしたが」
ミントは適当な木の枝で地面に四角い家を書いて見せる。
お互いを支えあうように描かれた木枠に妙に感動した我は目を輝かせた。
「おお! なるほど! まず木で枠作りでもやってみるか!」
我も遠目でなら見たことくらいならある。
我が、いやマイフレンドフゴ丸も余裕で入れるでっかい木組みを作ればいい!
自分ならできると言い聞かせ、さっそく我は作業に取り掛かった。
「では行くぞ! ポポロス! いい感じの木を引っこ抜いてくるぞ!」
「ふご!」
我はポポロスと共にいい感じの木材を探しに森へと入った。
やはりポポロスのパワーはすさまじい。
大きな幹の大木を体当たり一つで根っこから引っこ抜いてしまう。
それを我と共に何本か引きずって森と丘とを往復すること数十回、何とか組み上げられそうなくらいに本数を集めることが出来た。
「よし! こいつを組めばいいのだな! 中々ちょろいではないか!」
「ええ……」
「どんな馬鹿力だよ……」
驚く人間に気をよくした我とポポロスは、もう一ついいところを見せようと張り切った。
「こんなものではないぞ!」
「ブヒ!」
我は力を内にとどめる。
パンパンになった我はまた膨らんでしまっているけれど、パワーは神レベルである。
大雑把な作業はポポロスの領分だが、ここからの精密作業は人間ボディーをもつ我のパワーがモノを言う。
我は集めた丸太を軽々と持ち上げて、ズドンと地面に立ててみた。
柱はバタンと倒れた。
「い、意外と……立たないモノだな。バランスの問題か」
もっかい持ち上げて立てる。
柱は斜めに刺さり、バタンと倒れた。
心なしかポポロスの瞳が切なげな光を帯びている気がする。
「……手が二本は少ないな」
「て、手伝いますから!」
我は滲んだ涙を拭った。




