破壊神様計画を立案する
「作戦名はスイートホーム計画とするぞ!」
野宿は人間の生活する最も原始的な水準だと我は心得ている。そこで生活水準を上げることを目標にしたのがこのスイートホーム計画だ。
我が提案すると、人間二人の反応は思ったより悪くはなかった。
「確かに住む場所は大事だな」
「そうですね。この先どれくらいここにいることになるのかわかりませんし」
「そ、そうであろう! うむ! 我もそう思っていた!」
うんうんつい大げさに我が頷くと、ミントとキーサンは意見を出し始めた。
「だがどうするかな? 洞窟か何かを探して整えるか?」
「いえ、それよりも簡易的なテントのようなものの方がいいんじゃないですか? 不測の事態を考えるとすぐに移動できた方がいいと思います」
だが話し合われる内容は、我の希望とは違っていたのだ。
我はそんな野宿にちょっと毛が生えたくらいの案に待ったをかけた。
「んん? いやちょっと待て、少しばかり理想が低すぎやしないか?」
「いや、雨風しのげればいかなって、今は非常時だし」
キーサンの目指す住居はまさしく原始時代のそれであるらしい。
非常時。確かにそれは間違ってはいないが。
「……なぜに簡単に済ませようとする? 我が知っている家は……かなり大きくて庭とかもあったと思うのだが」
もう少し何かあるだろうと文句を言うと、ミントが困り顔を浮かべていた。
「いえ、人手も物資もありませんから、ある物でどうにかしないと……」
困った子供を嗜めるような口調だが、とんでもない話である。
なんとも志の低い意見に、我は断固抗議した。
「なんと嘆かわしい! 家はもっとしっかりしたものを作るのだ! 我を誰だと思っている? 破壊神ポポロだぞ! 人間に出来て我に出来ないはずがなかろう!」
「えー」
「いやさすがにそれは無茶だろう……」
これだけ力強く宣言したというのに、否定的な人間達に我は訝しむ。
こいつら破壊神言葉とか、今一信じてないな?
もしや本当に出来ないのかと不安になっていると、人間たち以外のツッコミも頭の中に飛んできた。
「無茶を言うものではありません。ポポロよ」
そしてその声はどうやらミントとキーサンの頭の中にも降ってきたようだった。
「え? 今頭の中に声が!」
「お、俺にも聞えたぞ? こいつは一体……」
「聴きなさい……私は今あなた達の心の中に語り掛けています。私は創造神……世界を創造した一柱です――――――人間達よその子供に協力するのです」
「……」
荘厳なバックミュージックとぼんやり感じる神々しい波動に気合を……というより無駄なこだわりを感じた我だった。
この女神、ここぞとばかりに神ぶりおって。
そして我に対しては今一信用していないくせに、人間二人が狼狽えているのも腹立たしい。
「なんだ人間にも聞こえるではないか」
「託宣にはちょっとコツがいるのよね。ちなみにこれは神専用、向こうには聞こえてないからいつも通りでいいわよ。使い分けは創造神の嗜みね。貴方も破壊神とはいえ神様なんだから託宣の一つでも授けなさいよ」
「断る! 最後のお告げとかかわいそうだろうが!」
「そう言うのもこだわりがあるわけね」
もちろんある。滅びの美学は破壊神の嗜みである。
人間を逃がした時点で、もうしばらく進展はないなーなんて考えていたに違いないのは透けて見えていた創造神だが、面白くなってきたので茶々を入れに来たようだった。
「はい! では破壊神が何をしてもしょんぼりなので、この創造神がいい感じに助言をしたいと思います」
「うるさい……微妙に役に立たないくせに」
「おう、今なんて言った?」
我と思念で殴りあう。
余計なことをと思った我だったが、創造神のやらかしは思ったより大きな効果があった。
まずミントは、なぜか青ざめてその場にひれ伏し手震えていた。
「そ、創造神様……! したっぱ神官見習のわたくしなどに神託ががっがっが!」
「神……様? 本当か?」
そしてキーサンの方は頭の中の声には驚いているもののどこかついていけていないがやはり動揺している。
そうかここまで効果があるものか。
本当は本当だが、偉そうにするのは演出だって言ってたからあんまり気にしなくてもいいのだが?
というか我も神なのだが?
目の前にいるのにこの違いは何だと不満はあったが、ある意味これは好都合であるとも思ってしまった。
「……まぁここまで狼狽えるなら、素敵なマイホームの建設には良かったかもしれんな」
「そうでしょう? 創造神は偉大なのです」
「……だが普通に話した方がよかったんじゃないか? 狡いぞ?」
「馬鹿を言うものではありません。そう言う些細な手抜きが、後々イメージを損ねるのです」
そう言うものなのだろうか? まぁそう言うものかもしれない。
創造神がこの手の活動を好むことは我はよく知っていた。
そんな創造神は、しかし我の計画にしょっぱなから苦言を呈す。
「でも家の話だけど……やめた方がいいんじゃない?」
「なんで?」
「いやだって……破壊神が家建てるとか繊細なことできるわけないでしょうに。破壊神だけに」
何を当然のことをとでも言いたげな創造神に我は固まる。
なるほど確かに! なんて一瞬でも考えてしまったのは神様通信でも秘匿したが、我のプライドに火が付くには十分な煽りだった。




