破壊神様祝福する
使う材料は我が捕って来た魚である。
違うことがあるとすればそれは、我がとりあえず丸のまま火の中に入れたのに対して、人間は何やら刃物で魚を切っていたことだろう。
あれをやると何がどうなるのか全く分からない。
「いや……アレはとどめか? ふっふっふ愚かな。これから火で炙ろうと言うのに無駄な労力を割いておるわ」
全く仕方のない奴である。あとで教えてやるとしよう。
魚からキラキラしたものを念入りにこそぎ取り、腹の中をすべて出す。
更には洗ったり、切り目を入れたりと手順は複雑だ。
若干グロテスクな作業に我ちょっと青ざめてしまった。
そして極めつけは、白い粉のようなものを魚に振りかけていることだろう。
それはまるで砂をかけているようで、あんなことをしたらもっとじゃりじゃりして食べられないのではないかと思う。
砂を噛んだらまずいのだ。我知ってる。
結局火に投げ込んだら真っ黒くじゃりじゃりするので同じようなもんだと我は思った。
「キラキラして綺麗だから食べてみたくなる気持ちはわかるのだがな……愚かなり人間よ」
むふふんこいつは我、勝っちゃったかもしれない。
人類造作もなしである。
「とりあえずこれで……」
ドンドン! と我の目の前に置かれたのは、姿焼きの魚と、水の中に少し小さめに切り刻まれた魚と植物を一緒に浮かべたモノだった。
それがなんであるのかわからないが、気がかりなこともあった。
「おお!」
キーサンの反応が明らかに我の時より良いのである。
そして我自身も、この目の前に出された料理に対して、どうにも胃のあたりが締め付けられるような感覚が止まらないのである。
「では……ご賞味ください!」
ミントの宣言に、我はいつの間にかごくりと喉を鳴らしていた。
どうしたことだ? なぜ我は今、喉を鳴らしたのだ?
戸惑いが我の頭をかき乱す。
しかし我を突き動かす衝動が、手をためらいなく前に押し出した。
「……我が焼いた時は、もっとこう……そう、燃やした薪のような匂いがしたのだが?」
「それ丸焦げだからですね」
「寄生虫は危ないから中までよく焼けと聞いたのだが!?」
「いや、そりゃあ。虫は危ないけど、基本内臓にいるから取っちゃうし、これくらい焼けば安心ですよ?」
「なん……だと!? そうか! だから貴様は火にかける前に魚を切り刻んでいたのだな!? どんな残虐サバトだと内心戦慄していたのだが……」
「そんな風に思われてたんですか!?」
「だいたい丁度よく焼くってなんだ!? そんなのどこにも書いてないだろうが!」
「そりゃ書いてないでしょうけど……ああもういいから食べてみてください!」
「うむ……ならばその挑戦受けて立つ!」
我は難しいことを考えるのはやめて、目の前の魚にかじりついた。
「…………!」
瞬間、意識の底でとても美しいものを見た。
それは原初の底から運ばれてきたもの。
口の中で解放された海のエキスがそれを呼び起こした。
魂が震えるとはこういうことか。
程よい海の味は、絶妙に魚の命の味をさらに上質なものに引き上げ、我が魂を一段上の存在に押し上げているかのようだった。
我はあまりの感動にひれ伏しそうになった。
「……なんというものを……食わせてくれたのだ……」
「え……っとその? おいしくなかったですか?」
不安そうなミントだが、我には口が裂け手もそんな評価は下せそうになかった。
「馬鹿を言うな……こんな……こんな……震えるほどの感動をもたらす奇跡を……どうやって……!……貴様は神か?」
「いや、違いますけど!?」
「そうだった。神、我だったわ。いやしかしこれは素晴らしい!」
大絶賛すると、頬を赤くしてミントは照れていた。
「いやぁ、めっちゃ褒めてきますね……結構簡単なものしか出来なかったんですが。塩加減ちょうどよかったですか?」
「そもそも塩ってなんなのだ! 我が作った時と味が全然違うではないか!」
「いや、そこですか? 塩はこの白い粉ですよ。さっき見てたでしょ?」
「こ、これが、奇跡の秘密……塩万歳。破壊神が祝福しよう」
「破壊神の祝福ってなんですかね?」
ミントがあきれ顔で見ていたが、滅多にないことだが破壊神だって祝福したくなる時はあるのだ。




