破壊神様振舞う
「まぁ……それはともかく。正直……限界だ。何か食べさせてくれると嬉しい……です」
キーサンはそこで再び崩れ落ち、ぐんにゃりと地面に倒れた。
ふっと息でも吹きかけたらそのまま消えてしまいそうな儚さに、我は戦慄する。
人間って極限になるとこうなるのかー。
我はまだマシだったなと観察してしまうが、空腹には理解のある我だった。
「まぁ、それはそうだろうな。お腹がすくのは正直しんどい」
人間達が何をしにこんな島までやって来たのかは知らないが、困っているというのなら力になろう。
今日はこれから楽しいイベントも待っているからなおさらだった。
「よし! 飯にするか! なに! 食い物ならあるぞ! なんなら海岸にもたくさん置いてあるから遠慮するな!」
「いやあれは私たちの荷物で……」
なんて控えめなセリフが聞こえたが我は聞こえなかったことにしておいた。
なんだかんだ人間たちは素直に従い、我は果物を分け与えることにする。
でももりもり我が果物を食べながら号泣するキーサンに我、ちょっと引いちゃった。
「ううう……うまい。うますぎる」
「そうだろう。そうだろう。」
我は食事を邪魔するのは無粋だというのはよく知っていた。
ある程度落ち着くまで待っていると、キーサンは色艶がだいぶんよくなった顔を地面に擦りつけた。
「助かった……ほんとーにありがとう! 改めて俺の名はキーサン! 冒険者だ! この恩は必ず返す!」
キーサンは顔を上げてニカリと笑う。
ミントと、キーサンか、我覚えた。
ようやく落ち着いてきた空気を読み取って、我はいよいよ質問した。
「で? なんであんなところで干物になっていたのだ? 船の乗組員ではないようだが?」
そう尋ねるとキーサンは勢い込んでこう答えた。
「決まっている! 一人前の戦士になるためだ! だから船に飛び乗ったのさ!」
元気を取り戻してきたキーサンはいきなりわけのわからない事を言い始めた。
勢いは評価したいし、言いたいことのニュアンスは察するが。
我は熟考したのちに、一言呟く。
「ちょっとバカっぽいな」
「誰が馬鹿だよ!」
おっとついつい本音が口をついてしまった。破壊神うっかり。
コホンと咳払いして、我は悪いと謝った。
「じゃ、じゃあお前は何でこんなところにいるんだよ!」
だが逆に尋ねてきたキーサンに我は一瞬、よりバカらしい理由だなと思ったが、そんな思いは封印しておく。
そしてあくまで余裕たっぷりに神様としての威厳を取り繕った我は、重々しく頷いて見せた。
「それを尋ねるか人間……。良かろう! 教えてやる! 我が地上へと降臨した理由はただ一つ! この破壊神の力を地上に知らしめるためである!」
ばさっと広げた手は、これでもかというほどバッチリ決まっていたはずだ。
我の神々しさに充てられた人間はぽかんと口を開け、一言呟いた。
「……うわーすげぇバカっぽい」
「ええっと……名前はともかくやっぱり神を名乗るのはどうかと」
「容赦ないなお前たち……とりあえず我、命の恩人ぞ?」
我は浅はかな人間達に冷静に訂正を促した。
すると恩人の辺りが効いたらしく、キーサンは勢いを無くした。
「……ごめん。ええっとじゃあ、ポポロ?」
「破壊神様と呼びなさい」
「……まぁ命の恩人だし、そう呼ばれたいなら呼ぶけど。破壊神様って痛くないか?」
「痛くないわ! 名誉称号だわ! そう呼ばれることに感謝の念すら覚えるわ!」
なんてことを言うんだと怒る我に、人間二人は顔を見合わせて色々言いたいセリフを飲み込んでいた。
「な、なんかスマン。……じゃあ破壊神様? 改めて助けてくれてありがとうございます」
「では私も……エーッとその破壊神様と?」
「うむ! それでいいぞ!」
若干ためらいがちの人間達だが、それもよし。
むしろ畏怖を持たれるのは望むところだと我は機嫌が上向いた。
さて大事な訂正が終わったところで、我は上機嫌ついでに本日のメインを彼らに披露することにしたのだ。
「うむ! まぁ、元気になって何よりだ! だがまだまだ果物で終わりではないぞ? 食事は人間に必須だと我は知っているのだ! お前たちに我が渾身の料理というやつをふるまってやろう!!」
ちょっと楽しくなってきた我は、用意していた料理を焚火から降ろすとそれを二人の前に差し出した。
「さぁどうだ! 魚を火で焼いたやつ!」
最初以降中々捕まえるのが難しいとっておきの奴だが、ここで威厳を見せねば破壊神の恥である。
さぞかし大喜びして感動にむせび泣くと思っていたんだが、人間二人の反応は芳しくなかった。
「……ええっと。アリガトウゴザイマス」
「トッテモ美味シソウデスネ」
「んん?」
細かいことは、気にしないでおくべきか?
なぜかカタコトなのは、感謝のあまり言葉がうまく出なかったと我は判断した。




