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破壊神様失敗する

「……」


 海岸に大きな帆船が停泊していた。


 中には鎧を着て武装した人間が、船から荷物を運び出して砂浜に積み上げたり、布を張ったりしていた。


「……」


 我が今何をしているかと言えばー--ジャングルに隠れて様子見である。


「……何やってんの?」


「……いや」


「何で隠れてるの?」


「…………いやー」


 創造神の思念が届くが、我は言葉を濁して、ようやく考えた言い訳をひねり出した。


「だから……偵察だよ。いきなり話しかけたらびっくりさせちゃうだろう」


「えぇー? 遭難してる自覚ある?」


「遭難? してないわ。いうなればこの島は新生我の生まれ故郷であろう?」


「そうとも言えるような? 曲解してる暇ないだろうって気もするけど」


「とにかくちょっと様子を見てだな……」


 我は慎重に事を運ぶべくよりジャングルの奥へと引っ込んだというわけである。


「……まさかこの期に及んで人見知りを発動させてない?」


「そ、そんなわけあるか。そんなわけないだろう?」


「……」


 いやこれはあくまで戦略的撤退であって、人見知りなんかじゃない。


 創造神の言い回しが意地悪なだけである。


 我はこっそりと様子をうかがうと、人間達は何やら鋼の武器を抜いて、やたら殺気立っている様子。


 こいつは明日にした方がいいかな? ちょっと時間を置いた方があいつらも落ち着くだろう。


「ちょっといったん時間を置こうと思うのだが―――」


 そう言いかけた我は振り向くと、そこに熱い鼻息が我の顔面に吹きかけられた。


「……フゴ!」


「む、ポポロス……行けと言うのか。……うむ、お前が言うのなら仕方がない」


「えー、私より猪の言うこと聞くんかい」


「そりゃそうだろう」


 遠くの創造神より身近な猪だ。それにポポロスの迫力はすさまじい。これは使えると踏んだ我はうむと深く頷いた。




 大勢の武装した人間達。


 もはや武装している時点で、警戒心が高く、戦闘能力に一定の自信があることがうかがい知れる。


 そこに子供の姿で仕立てに出れば舐められるのは必然。


 流石にそいつは破壊神としての面目が立たないというものだった。


 そうと決まれば全力ダッシュである。


 ポポロスは大量の人間に興奮したのか森から出て来て、木々を粉砕した。


 我はポポロスにまたがり人間達の前に姿を現す。


 優位に立っているのはどっちか、実に一目瞭然。


 我は人間達に語り掛けた。


「人間達よ……よくぞこの島に来た!」


 出来る限り威圧感を出していったのだが……人間達の反応は悪かった。


 全員がギョッとして、戸惑っているのは間違いないが、我は妙な違和感を感じていた。


「我は戦いは望まぬ。話し合いを希望する」


 そして、戦いが始まる前に歩み寄りの姿勢を見せる。


 だと言うのにやはり、人間達の反応は悪かった。


 ちょっムッとしてしまう我だが、やはり違和感がある。


 それはこちらを侮っているというよりもむしろ……コミュニケーションが取れていないという感じだったからだ。


 一体なぜだと焦ったが、そこで我は気が付いてしまった。


 どうも人間達が会話している手段が、我と違うっぽいなと。


「魔物だ!」


 そしてようやく大声で叫ばれた声が頭ではなく我の鼓膜を叩いた時、ようやく確信した。


「……!」


 そうだ声!……声か!


 創造神と話してばかりですっかり忘れていたが、人間は声に出して会話するのだった!


 対して、我はこの身体になってもテレパシーを使っていたらしい。


 神の基本コミュニケーションツールはあなたの心に語り掛けています的なやつなのだ。


 そしてこういう奴は大抵受け取る側にも相応の資質が求められる。


 そうとわかれば答えは簡単だ。


 我は口を開き叫んだ。


「………け!!!!」


 だが我が口から出たのはかすれた変な音だけである。


「……!!!!」


 我は戦慄した。


 声が出ない……だと!?


 そんなことってあるんだろうか? 現実は非情である。


 どうにかして声を出そうと試行錯誤するには、残り時間はあまりにも少なかった。


「~~~」


 我は焦りと不安を乗せた咆哮を発する。


「「「……!!!!!」」」


 迸る破壊神の叫びが人間達を凍てつかせた。


 人間達は武器を握り締めた。


 大失敗だこんちくしょう!


 刹那の瞬間、悩みに悩みぬいた破壊神の脳細胞はぷつんと何かが切れた。


 あっ、なんかめんどくさい。


 瞬間、力が溢れだす。


「あぁ!」


 まずいと思った時にはもう手遅れだった。


 だがそれでも溢れた力を抑えられたのは、特訓の賜物だったに違いなかった。


 スパンと破壊の波動が広がる。


 武装した人間の鎧も武器も、皆灰燼と帰した。


 だが我とてこの島で遊んでいたわけではない。手加減の特訓のおかげで人間どもの体の方はみんな無事だったが……。


「……」


 結果、見事なヌーディストビーチが出来上がっていた。


「「「「「ぎゃあああああ!」」」」」


 悲鳴がこだました後は阿鼻叫喚の地獄絵図である。


「ぶひぃぃぃ!」


 そして興奮したポポロスの突撃は裸の人間達を蹂躙した。


 うーむ、これは失敗だな。間違いない。


「……あららー」


 ポポロスが落ち着く頃には、人間達は全員逃げ出して船は水平線の上だった。


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