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破壊神様力を完全制御する

 道のない藪の中をかき分け進む。


 そして目的地にたどり着いた我は、楽園を見た。


「……おお! これは!」


 豊かな森がそこにはあった。


 果実がたわわに実り、澄んだ水が流れる川がある。


 我は試しに一個適当なところに生っている実をちぎって食べてみる。


 皮ごとムシャリと口に含むと、その瞬間脳がとろけそうな甘いジュースに我は危うく悶絶しそうになった。


「……!!!!!!」


 衝撃。それはまさに衝撃であった。


 頭に直撃する味覚は、我の心を包み込み、同時にある感情を抱かせる。


 我は正気に戻ると、ギリッと悔しさのあまり奥歯を噛みしめ、震える拳を地面に叩きつけた。


「……あの猪やろう」


 このうまさ、万死である。




 そして日当たりの良い丘の上に奴はいた。


 すやすやと眠っている奴はこちらにまだ気が付いていない。


 しかし我は奴を見上げる位置に飛び出して、高らかに声を上げた。


「また会ったな。……借りを返しに来てやったぞ猪」


 我の心に暗い炎が灯った。


「楽園を一人占めとは許すまじ!」


 この猪は正面から叩き潰す。


 我の殺気に充てられたのか、猪はふんごっっと鼻息を吹き出して動き出す。


 丘から飛び降りて我の前に着地する猪はまるで小山のようだった。


 一回やられているからだろうか? 迫力がすさまじく体が勝手に後ずさりそうになる。


 だがすべてが最初の遭遇とは違っていた。


 何が何やらわからずに遭遇した生の生物。


 あの時の我には戦う理由すらなかったが、地上にいる以上戦う理由があるのだと、我はすでに理解していた。


 だからこそ我は拳を突き出した。


「行くぞ猪! 貴様を喰らう! 破壊神の力を見るがいい!」


「フンゴッフ!」


 猪は怒りの咆哮を上げ突っ込んできた。


「こい! 我とて最初の我ではないぞ! 手加減の神髄……見せてくれるわ!」


 じゃりじゃりと前足で地面をこすり、低くつきあがる猪の頭を、我は正面から受けて立った。


 そしてぶっ飛ばされた。


「……ぐふっつ!」


 いや、気分の問題とかじゃないなこれ、普通の強烈な一撃は人間には重たすぎる。


 内臓がしびれた。


 相変わらずいい頭突きをかましやがる。流石我に最初の恐怖を植え付けた者、これはもう馬鹿にするわけにはいかなかった。


 悪態の思念をまき散らすが、意識だけは手放さない。


 我は地面にたたきつけられたが、気力を振り絞って立ち上がった。


「……くっそ。ポンポン跳ね飛ばしおって……いい加減にしろ!」


 奴を倒すには、そう、もっと力が……そして重さが必要か。


 頭を下げ、突撃体制を取った猪から濃密な殺気をびりびり感じる。


 そして数秒もせず、重量感たっぷりの猪の体が押し寄せてくるだろう。


 一瞬怯えてすくみ、破壊の力をぶつける事が頭をよぎった。


 そうすれば奴は煙のように消え失せてしまうだろう。


 しかしそれは本当に勝ちなのか? 我は考える。


 まず肉も食えない。いや……それ以前に奴は敗北感すら感じないに違いなかった。


 勝ち負けなんて今まで本当の意味で意識したことはなかったが、我は今日勝ちたかった。


「うおおお!」


 我が目指すは完全勝利。生死を分ける境目に我の力は更に進化する。


 衝撃は確かにやって来た。


 だが腰を低く落とした我は今度こそ吹き飛ばなかった。


「……受けたぞ、猪!」


 自分の奥歯のきしむ音がする。


 相手の蹄は何度も地面をかいていた。


「これぞ特訓の成果よ!」


 体が力で満たされている。


 完全に我が力を体の内―――そう、我自身の肉体にピタリと抑え込み、ガッチガチに体を強化することに成功したらしい。


「ふははは! 恐れおののけ我が力に!」


 空気を入れた袋のように張り詰めた我は、練習時とは比べものにならない力の塊と化す。


「無駄な破壊を押さえたこの技を、我は破壊神マッスルと名付けよう!」


 神々しくも禍々しいオーラにやられて、さすがの猪も後ずさっている……気がする。


 さもありなん、そいつは当然というモノだろう。


「恐れをなしたか、猪よ! だがここからが本当の闘いだ!」


 ズシリと我が一歩踏み出すと、ものすごい重そうな音がした。


 そして、何んだかすごく動きづらい。


「ぬ?……心なしか体が丸いような」


 そして視点もちょっと高いような?


 そんな疑問が頭をよぎった時、頭の中に甲高い悲鳴が響き渡った。


「いやあああ! 何その見た目! せっかくの美少年が、丸く肥えた子豚ちゃんに!」


「えぇ?」


 パンパンに張り詰めた我は、どうやら体が丸く肥えていた。


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