破壊神様最強最大の敵と戦う
「いえ。まぁ助かった例があまりないもので……腹を食い破られたら普通死ぬでしょう?」
ペペは慌てて説明を続けたが、割と不安を煽られた。
「死ぬでしょう? じゃないわ! その前に何とかしろ!」
「そう言われましても……かつて、その世界に存在した島クジラという大型の海洋生物すら一方的に殺戮して見せた寄生虫の王相手に画面越しで何をすればよいのやら……。まさに手の施しようがないですね」
「え? 何でもっと不安にさせるのだ? わざとか?」
「残念だわ……ここで試合終了ね。しんどいとは思うけど天界で待ってる」
速攻で諦めに入る創造神とペペに我は慌てて待ったをかけた。
「うぉい! あっさりあきらめるんじゃない! なにかあるだろう! そうだ薬とかは!?」
「十中八九、完成前に死ぬかと。一応制作手順のロードマップとかいります?」
「無茶なのはわかった! だが自作しかダメなのか? 送ってくれたっていいだろう!?」
手元に薬さえあればどうにかなると言うのにペペは残念だと首を横に振った。
「過度な地上への干渉は禁止されていますので……」
「過度かなそれ!? 我がここに来ている時点で今更だろう! 我の干渉力薬以下か!?」」
「そりゃそうだけど……決まりは決まりだし」
創造神までなぜそっちの味方をするのか。
腹痛で苦しんでいる同僚にこの仕打ち、神様視点に我うんざりである。
「ちくしょう! それはそれで面白いとか思ってるな!? わかるんだぞそういうの!」
マズイマズイマズイ!
腹が本気で冗談じゃなく痛くなってきた!
創造神のビジュアルがぐんにゃり曲がり、色彩が虹色に見える。
我は膝をつき、浅い変な呼吸を繰り返した。
それでも我は痛みで鈍る頭に鞭打って、必死に頭を回転させる。
何かあるはずだ、何せ我は破壊神なのだから!
思わぬ最強の敵に心をくじかれそうになったが、我は負けなかった。
歯を食いしばって立ち上がり、奮い立つ。
「くそぅ! こんなことで我は死なぬ! 死なぬぞ!」
「がんばえー適当で大丈夫」
「たぶん無理だと思いますが……ご愁傷さまです」
「……ふぬぅぅん!」
役立たず共の声が聞こえ、腰が砕けそうになったが。
しかし、同時に我の心に燃え上がる熱が我が体を支えていた。
「……お、お前ら……本当にいい加減にしろよ?」
カッと火山のように頭に血が上り、全身の毛が総毛立つ。
我を支えたのは単純に怒りである。
破壊神の力がその強烈な怒りに反応して我の体から激しいオーラが迸った。
おお素晴らしきかな我が力。この強烈な怒りを、そのまま表現しているかのようだ。
どす黒いオーラが体から立ち上り、不思議と腹の痛みさえ忘れたほどである。
「……冗談はここまでだ。薬をよこせ。さもなくばダメもとでフルパワーをお前らにくれてやるからな!」
「い、怒りをお鎮めください!」
「そ、そうよ! 短気はいけないわ!」
流石に冗談ではないと悟ったらしい神様二人だが、我が欲しいのは制止の言葉なんかじゃない。
ただ一つ、お腹を今すぐ直す治療法だけだった。
「そんな余裕ないと言っとるだろうが! ……こんなに腹が痛くて痛くてたまらないというのに! 立ち上がれもしないのだぞ!」
地団太を踏みながら、飛び上がって全身で怒りを主張する我だが、きょとんとした視線が二つ我を見ていることに気が付いた。
「え? でもなんか元気そうじゃない?」
「そう言えば顔色も回復しているような?」
「え? ……あれ? というかお腹痛くないな……」
これは一体どういうことだろう? 怒りすぎたせいだとばかり思っていたが、それにも限度があるだろう。
我は恐る恐る、自分の腹に手をやって、思い切り首をかしげる。
すかさず診断したペペはやはり首をかしげてこう告げた。
「あれ? いなくなってますねアニサキスバハムート。完治です。おめでとうございます」
「えぇ?」
一体何が起こったのか、我の腹痛は収まって、アニサキスバハムートの脅威は去ったらしい。




