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破壊神様火を起こす

「待たせたわね! 情報を仕入れて来たわよ! 喜んであがめなさいな!」


 突然現れた創造神の声に、我はビクリと身をすくませた。


「お、おう! 待っていたぞ!」


「……何か今ビクッとした?」


「し、してないぞ? それよりも火だ! どうやるのだ?」


「ふふん……気になる? 気になる?」


 創造神は聞いてきたくせに、その上勿体ぶりやがった。


 我は手に入れた表情筋をいかんなく発揮してこの感情を訴えた。


「お前はホントめんどくさいな」


「めんどくさいとか言わないで! 傷ついたらどうするの!? 」


「……それはー……ないな」


「誰が決めたの! 女神の心は繊細なのだわ!」


「とにかくもったいぶるとかやめて教えてくださいお願いします。我はすごくお腹がすきました」


 直接的に伝えつつ、腹を鳴らすという高等テクを駆使して見せる我が体もなかなかやる。


 創造神もそろそろ緊急性に気が付いたようだった。


「おおっと、思ったより余裕ないわね。いいでしょう! 竈の神から仕入れた知識を披露してくれるわ!」


「楽しそうだな」


「では火を起こすには! レンズで光を集めて火種を作る!」


「……我レンズなんて持ってないのだが?」


 事実を述べると。創造神は信じられないと驚愕してやれやれと頭を振った。


「はい! しゅうりょー!」


「終わりなのか!?いや、もっとあるだろう!」


 お前原始時代からレンズがあると思うなよと訴えると、創造神はやはり演出の都合だったらしくもう一つアイディアを出してきた。


「知りたい? 知りたいの? しょうがないわねー、では教えてあげましょう!」


「なんかいっそ面白くなってきたな。破壊神の波動が迸りそうだ」


「物騒なもの迸らせないでよ。もう一つは摩擦! こすって火をつけるの」


「こする?」


 訳が分からないが、創造神はその辺の木に視線を向けた。


「そう! 乾燥した木の棒と板を組み合わせてこうくるくる回転させてこすり合わせると熱が出るらしいわ! この熱を利用して火をつける……これよ!」


「おお! そんなことで火が! よし! 破壊神の力、見せつけてくれるわ!」


 我は適当な板と棒を見つけて来てセッティング。


 創造神の言う通りに手を動かしてみた。


「ふおおおおお!」


 手を高速で動かし、シャコシャコと木片をこすりつけてゆく。


 なんか変な匂いはしてきた、してきたが……その前に板より我の手が赤くなった。


「な、なんだか我の手のひらが熱いんだが!」


「いいわよ! 出る! 火が出るよ!」


「そういうことか! これがそうなのだな!」


 出るとなると力も籠る。


 さらにシャコシャコしたら煙が出ているような―――気がしないでもない。いや、これ埃か?


 でも手のひらの方が熱いと言うより痛くなってきた気がするのだが。


「いや勘違いじゃないぞ! 痛い! いったいんだが!」


「まだまだ全然よ! 破壊神の力をみせてやるのよ!」


「お、おうとも! ぬ、ぬおおおお!」


 我は頑張った。


 そしてやっとこさ煙が出ているのを確認。


「よし! よし! いいぞ!」


「すぐに火が付きやすいものを! 空気をガンガン送り込んで!」


「火が付きやすいもの!? く、空気?」


「フーフーよ! フーフーするの!」


「ふー――――ふー――――!!!」


 棒の根元を凝視し、煙の元に言われるがままに息を吹き込もうとして……鼻息で煙が掻き消えた。


「あ……」


「残念だったわ……」


「やってられるか!」


 我は力いっぱい棒を地面に投げつけて、膝を抱えた。


 毎日食わねばならんというのにそのためにこんな労力を!? マゾい!


 我のおこちゃまハンドは、傷だらけである。


 我はなんだか不思議と泣けて来た。


「ちょっと泣かないでよ。諦めるの早くない?」


「だって! 焦げ臭いだけではないか! やり方がなんか違うんじゃないか!?」


「当たらない、当たらない」


「当たってないわ! こんな棒と板で火なんか点くわけないだろう!」


 我は板を持ち上げ、小憎らしい板切れを睨みつける。


 その睨みっぷりは、いつか我を馬鹿にした神の戦神を睨んで消滅させちゃった時以来だった。


 だが破壊神らしい衝動は、我に新たな力を覚醒させた。


 バシッと目が光る。


「ぬお!」


 そして目から飛び出た光は板切れに命中すると、一気に燃え上がった。


 赤々と揺れるオレンジ色のそれは、まさしく炎に違いなかった。


「……」


「え? 火が付いた?」


「今までの我の苦労は一体? っていうか創造神のアドバイスひょっとしてクソだったのでは?」


「そう言うこといっちゃう!?」


 腹が減って、ケガして、努力にあんまり意味がなかったのだから、ささくれだったおこちゃまボディの今の我に気遣う余裕などないのである。


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