第三十八話 寝たら言う事聞く気になりました
「ふ、ふざけないでよ! こんなこと王国の人間に! あんた一体何者よ!?」
ドエムスはめり込んだ身体をなんとか動かし、苛立ち混じりに叫ぶ。
「え……? あの、グラですけど? 貴方に痩せろと言われた……」
「は? え? あの、グラ? デブのグラ!? なんでぇえええ!?」
「いや、あの、その、ちょっといっぱい運動しながら寝たら、痩せました」
「運動しながら寝るってなんなのよぉおお!?」
まあ、ドエムスの言いたいことは分かる。当事者しか分からない話だな。
っていうか、上に見張りがいる牢屋の中で、激やせするほど『寝る』、なんて思ってもみないだろうしなあ……。
「ふざけて、馬鹿にして……! こっちは真面目にやってんのよ! もういい! ぶっとばす!」
ドエムスは詠唱破棄の下級魔法を無数放ち、こっちの動きを阻害した上で、詠唱を始める。
あれは……上級魔法か。
「……大地を洗え! 『黒雷槍』!!」
空から無数の黒い雷が舞台上に降り注ぐ。
強力な雷魔法、流石にこの数全部を食べるのは難しいだろう、グラは、球体を飛ばし一つだけ雷を喰うと、
「思いの詰まった魔法、美味でした。でも、させない!」
高速詠唱で生み出した無数の魔法陣。
そこから白い雷が黒い雷に向けて撃ち込まれる。お互いの雷はぶつかり合い、相殺される。
轟音を奏でながら、舞台上空が爆発する。
グラは、魔法を奪う能力の持ち主。
相手の魔法を喰って自分のものにする。
魔法使いにとっては、悪夢であり、憧れだろう。
白い雷に集中砲火を喰らったドエムスは舞台に落ちて跪く。
「く……! は、はは……本当に化け者ね」
ドエムスの視線の先には、地面を隆起させ塔のように高くしそこに立ち、巨大な雷球を作り出したグラの姿。
「ごちそうさまでした」
そう言って放たれたグラの雷球は、ドエムスに直撃し吹き飛ばした。
「ぐ、ぐああああ!」
ドエムスは絶叫しながら崩れ落ちる。
「ド、ドエムス様!」
ドエムスの配下や闘士たちが慌てて駆け寄り、庇い始める。
闘技場で戦わせられてたようには思えない様子に、またスロウの『勘』が当たったかと感心する。
「おい、通せ。いきなり攻撃はしねえよ。お前らがしてこない限りは」
俺がそう言うと、闘士たちは睨みながらも道をゆっくりと空ける。
俺は苦笑しながらもドエムスの元へ向かう。
「ドエムス、俺だ。ネズだ」
「……は? ネズ? まさか、いや……確かに、昔の面影が……」
ドエムスは、呆然と俺を見ていたが、気付いたかのように口元に手を当てじっと俺を見る。
闘士たちの中でもざわついてる奴らがいる。
やっぱり混じらせていたのか。
この街は、まともだった。
ドエムスは、昔から本質を見抜くのがうまい奴だった。
俺に対しても、寝ろ寝ろ言うだけだった。
まあ、この時には俺も多少意地になって戦い続けていたかもしれない。
お前の言う通りだったな。寝てよかったよ。
だけど、今回は別だ。
「ドエムス、俺は、お前の反乱を止めに来た」
「な、何故それを!?」
ドエムスは驚き、声を上げる。やっぱりか。
「ドエムス、話を聞かせてもらいに来たぜ」
寝て余裕が出来たからな。
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