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『あすか荘、21時』

作者: みれと えみ

なんで若い女って部屋が汚いんだ。


去年成人式だったという女は死を決意した経緯をのたまい、

布団周りに作った造花の山に寝そべってポーズをとった。

メイクも死装束も既にまとっていた。

女は世間的には弱かわいい程度。

君津とか所沢レベル。

俺のタイプではない。


「グリムさん、眠ってる悪徳令嬢テーマで殺して飾って。

コースはアールグレイで」

眼を閉じたまま女はそう言い、

「おとぎおくり グリム」

と書かれた俺の名刺と銀行の振込み明細を布団の脇に置いた。

送金済みのアールグレイコースの額面に、俺は顔をしかめた。


女の部屋は、

布団周りは辛うじて花やオブジェで飾ってあったが、あとはゴミ。

ゴミ、服、ゴミ、くつ、ゴミ、バッグ。

俺からしたら全部ゴミ。匂い? 知りたいか?


もうモノでフローリングが見えんのよ。

そりゃあ、お前自身の明日も見えなくなるわな。


「嫌な予感はしてた。予約フォームの住所があすか荘103号室ってあたりから」


俺の言葉に、女は首を傾げた。

可愛くねーわ。

こんなゴミ部屋で、俺の仕事を完遂するには、

「費用も時間も、レミーマルタンコースじゃないと無理」

俺は言い捨てた。


何ソレ三倍? 払えない無理!

と騒ぐ女をよそに、俺は説明を始めた。


まずモノを全部処分。

玄関外から部屋中ぜんぶ磨き上げて、

遺体と生活臭を消し童話的演出のお香を焚いて、

カーテンも照明もリノベる。

女の造花とメイクは採用する上で、完成図スケッチをみせた。

女が素敵!と声を上げた。

発見時に最高美しいおとぎ話的空間とご遺体を、俺はうみだす。


「払えないなら、部屋の掃除もセッティングも手伝え。

お前を永眠させた後にピンで作業したら2日かかる。

それは俺も無理」


急いで女をドンキとニトリへパシらせた。

大量の掃除用品、照明、カーテンとタクシー代を握らせて。


女が帰ってきたとき、俺の胸を再度嫌な予感が走った。


「ただいま!」


メイクも衣装も乱した女の顔は、やけにイキイキしてやがった。


(おしまい)


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