強化物語
土曜日、いつもの様に朝から家でグウタラとライトノベルを読んでいた時だった。
気が付いたら目の前に山岸さんのお兄ちゃんがいた。
・・・・・・・・
余りのよく分からない出来事に慌てて周囲を見渡すとそこは古びた床に天井に壁。そして大きなベットがあった。
つまり、前山岸さんのお兄ちゃんとお話をした。もとい情報を教えて貰った。あの潰れたラブホテルの中だということだ。
「そうだよ。正解。あ、まあ分かってると思うけど君をここに転移させたのは俺だから」
まあ、そうだよね。こんな転移という凄いこと出来るの僕の知り合いの中では山岸さんのお兄ちゃんくらいしかいないからな。
「あのう、それで、どうして僕は今日いきなり呼ばれたんですか?いや転移させられたのですか?」
「あ~、そうだね。簡単に言うなら、君を鍛えようと、いや違うね。修行を付けるってのも違うかな。そうだな?君を強化してあげようと思って、転移させたんだよ」
「強化ですか?」
「そう強化だよ。何で強化するかというとね。君が弱すぎるからだよ。あ、もちろん普通の人と比べたら圧倒的に強いよ、それ所かそこらへんにいる陰陽師とか聖職者とかと比べても圧倒的に強いよ。でもさあ。弱いんだよね。霊力の使い方に身体の使い方はもちろんの事、精神力というか非日常的存在に対する耐性とかが圧倒的に不足している。そう圧倒的にね」
山岸さんのお兄ちゃんはそう大きく手を広げながら高らかと告げてきた。
「そんなに不足しているんですか」
僕は結構厳しめに言われたせいか少し縮こまりつつそういつもよりも小さい声で言った。
「おいおい。そんな縮こまったりはしなくてもいいよ。別に怒ってるわけではないのだから。ただ、そうただ今から君を強化すればいいというだけの話だからね。というわけでまずは超絶簡単かつお手軽かつ今から数分で出来る強化を始めようか。というわけで死ね」
その瞬間に死が訪れた。
「アアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
自分が自分の声ではなくなるような狂った叫び声を出してしまう。
叫ばないと気が狂いそうな、いやもう既に気が狂っているような不思議な感覚に陥る。
苦しいとか辛いとか、気持ち悪いとか、そういう生易しい物ではない。死だ、死が僕を襲う感覚、死が僕を蝕み、死が僕を喰らい死が僕を包み込み、死によって僕は死となる。
僕は何を言っている今何を考えている、僕は誰だ。僕は何だ。分からない、感覚が存在が溶けるような。不味い不味い不味いこれは不味い。自我を保て、僕を保て。僕の名前は何だ?
彩香氏 陰晴だ。
そうだ、彩香氏 陰晴だ。
落ち着け落ち着け落ち着け、落ち着いて対処をしろ。
取り敢えず深呼吸だ。深呼吸をしよう。
「スーーーーーーーー。ハーーーーーーーーーー」
そうして僕は大きく深呼吸をした。するとあれだけ怖かった死という恐怖がパタンと無くなった。
「お。第一段階はクリアしたか。流石だね。これに耐えられるようだったら、ある程度の怨霊の威圧には勝てるだろうね。じゃあ次は更に強くしてみようか」
更に強くって。ヤバいそれを僕は耐えられるのか。またあの苦痛を味わうのか、いやそれよりも強くって。あれ以上の苦痛をそれは嫌だ。逃げなければ。
「おいおい。逃げるなんてナンセンスだよ。まあ確かにこれは荒治療ならぬ荒強化だからな。苦しくてキツのは分かるでもね、これは君に必要なことだよ。というわけで。陰陽技・地獄結界」
――――――――――――――――――
僕は気が付いたら地獄にいた。
そう地獄にいた。
意味が分からない。
業火が燃え盛っている。周りに鬼がいる。拳が金棒が刀が斧が様々な凶器が僕に襲いかかる。
「逃げろ~~~~~~~」
僕は無意識の内にそう叫んで凶器から逃げ出す。
走って走って走って走って走って走る。
必死に逃げる。逃げて逃げて逃げて逃げて。
そして思う。
このまま逃げて大丈夫かと。
逃げて何になるんだと。
立ち向かわなくていいのかと。ああ。そうだ逃げて何になる。さあ、戦うぞ僕。頑張るぞ僕。行けるぞ僕。さあ拳を振るえ。
「ああああああああ」
僕は自分を鼓舞するために大きく声を上げながら鬼をぶん殴った。
しかし全く効かなかった。
「あ、ヤバい霊力身体強化するの忘れてた」
そして次の瞬間僕の顔面に拳が飛んでくる。
それを慌てて霊力身体強化した腕でガードする。しかしそれでは足りない気がした。やられるきがした。嫌な予感がした。だから僕はほぼ無意識に更に腕に大量の霊力を集中させた。
ダン
大きな音が鳴り、腕に鈍い痛みが走る。しかしそれだけだ。骨も折れていないし罅も入っていない。滅茶苦茶強い痛みとかそういうのもない。つまり耐えられる痛みであり。すぐに動けるという事だ。
さあ。一旦距離を取ろう。
タッタッタッタ
僕は直感的に足に力を込めて、特に足の裏に霊力を込めて飛び上がった。初めての試みだったが意外と上手く行き俺は霊力を仮の足場のような形にして空を歩くことが出来た。
さあ、いけるぞこれは。一旦空に上がって距離を取って。飛んでいこう。そっからさっき足に霊力を込めたように霊力を手のひらに溜めてうち放つ。行けるこれならいける。行けると僕の直感が行っている。
「ハアアアアア。行くぞ。霊力弾」
僕は霊力を右腕、左腕にぐっと溜めて放つ。
ダンダン
僕の放った霊力弾は当たる。がしかし、あまりダメージを入れることは出来なかった。
クソ、どうすれば勝てる。
てまてよ。何を普通に戦おうとしているんだ。僕のことの非日常的存在を全て吸収できる最強の左腕で触れれば僕の勝ちじゃないか。終わりじゃないか。
さあ、後は簡単だ。
そして僕は身体全体に霊力を巡らせて、身体強化を上げつつ、鬼に突っ込み左腕に触れた。
勝ったそう思ったがしかし、一切効果が無かった。
それに僕は動揺した。激しく動揺した。それは致命的な隙となった。否。なってしまった。
グチャ
そして鬼に刀で刺された。
グチャ
そして鬼の金棒が身体を抉った。
グチャ
そして鬼の斧が右腕を切り落した。
グチャ
そして鬼の拳が顔面にめり込んだ。
グチャ
そして鬼の蹴りが腹にめり込んだ。
グチャグチャグチャグチャグチャグチャ
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い」
身体中に痛みが走る。
死ぬ。本気で死ぬ。マジで死ぬ。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ
・・・・・・・・・・・・
あれ?そういえば左腕だけ痛くない。
痛くないぞ?
何でだ?
どうしてだ。というか身体中が引き裂かれてグチャグチャになってるはずなのに両腕両足と切断されてるはずなのに感覚がある。
もちろん今現在痛い。痛みがあるが。あるのに何故か今はそこまで痛くない。ついでに言えば僕のこの左腕で吸収が出来なかった。僕のこの左腕は全ての非日常的存在を吸収する力だ。で、相手は鬼というバリバリの非日常的存在だ。それなのに吸収できなかった。それはつまりこれは偽者という事じゃないというのか?
ということはまさか、いや100%これは幻覚じゃないか?
そう考えた瞬間だった。
全てが元に戻った。
「ほい、おめでとう。君は幻覚耐性を獲得出来たよ。じゃあ次はそうだな概念的存在に対する耐性を付けようか。というわけで転移」
そして、僕の目の前に魔王が現れた。
いや。別にその存在が魔王というわけではない。だけど見た目が魔王だったのだ。
大きな角に紫色の肌、筋骨隆々な身体、六枚の赤黒い翼、そして10メートル以上の体躯。
誰がどう見ても魔王だ。
だけどその魔王は鎖に繋がれていた。何百という鎖がこの魔王をがんじがらめに拘束していた。
つまるところ封印処理されていたのだ。
「我に何か様か?」
「しゃ、しゃ。喋った~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
ヤベ。自分で言うのあれだがキチガイみたいな声を出してしまった、これじゃあまるであのCMみたいじゃないかって。
「それは喋るに決まっておるじゃと。封印されているとはいえ、我は魔王なのだからな」
・・・・・・・・・・・
「え?本物の魔王?え?ヤバくね?マジ?」
「ああ、マジであるぞ。我は正真正面の魔王だ」
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