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続・自殺物語

 葬式の日がやって来た。

 僕は喪服に身を包み、昨日山岸さんのお兄ちゃんのおかげで手に入れた1000万という大金のうちの10%である100万円を封筒に詰め、それを鞄に入れて向かった。

 両親には学校の後輩の葬式だからと事前に説明はしてある。葬式は学校側に事情を説明したら場所を教えて貰えた。まあ。普通は教えて貰えないと思ったが、運の良いことにその時電話を受け取った先生が俺とアイツが一緒の掃除場所の時の担当先生だったから教えて貰えたのだが。

 ただ、何時から葬式が始まるのか聞き忘れてしまったので。結構早くに家を出た。最悪アイツの両親に遺言を伝えてこのお金もといお香典を渡せればいいと思ったからというのはあるが。


 てくてくてくてくてくてくてくてく


 一人葬式場まで歩いていく。歩く足は重かった。今になってアイツの両親に遺言を伝えるのが怖くなったのだ。いや違うな。少し悩んだんのだ。どう伝えればいいのかと。

 ありのままを伝えて大丈夫なのかと。

 いや。大丈夫なわけがないな。何故ならアイツは人間を辞めて人を襲う死霊・悪霊・怨霊というどんな言い方をしてもおよそ化け物のような存在へとなり果て、更に人の生命エネルギー含む霊力を吸収し何百問人間を一時的に昏睡状態にした化け物になり果てたのだ。それを僕がぶん殴って吸収しました。

 そんなことを伝えられるはずがない。そもそも信じて貰えるはずがない。

 じゃあ、どうする。というかそもそも僕がどうやってアイツの遺言を伝えられたという設定にする。自殺する前か、いやそれは流石におかしい。別にラインを持ってたわけでもない。なんならここ数年高校生になってから、アイツとは一切関わりがなかったし。

 そうなると。どうすればいい。

 そうだな。どうしよか。えっと。考えろ考えろ考えろ。

 ・・・・・・・・・・・・・


 あ、良いことを思いついた。

 僕は霊力者、いや正確にいうならば霊が見えるという能力者として死んだアイツから遺言を授かったという設定にしよう。

 そうだ。そうしよう。

 これなら大丈夫そうだ。


 ハア


 何を考えているのだろうか僕は。

 何だよ霊能者って阿保らしい。

 でも。そうするしかないかな。ありのままを伝えるのは無理だし。それでもアイツの遺言は伝えなきゃ出しな。


 ハア


 足が重い。息が苦しい。もう逃げ出したい気分だ。でも僕にはアイツの遺言を伝える義務がある。そしてここで逃げたら僕は一生後悔する。だから歩こう。歩いて向かって。霊能力だと、まあ、あながち間違ってない言葉を使ってアイツの遺言を伝えよう。

 そうしよう。


 てくてくてくてくてくてくてくてくてく


 そうして僕は歩いた。

 ただ普通の速度で歩いて歩いて歩きながらアイツの事を考えて。自分の弱さを呪って。アイツの両親の思いを考え、胸を痛め、自分に出来る遺言を伝えるという。出来ることをやろう。そう思いながら、歩いていって気が付いたら葬式場に辿り着いた。

 そこにはカメラを持ったおかしな男が複数人いた。


「どうも。こんにちは。オカルト系動画投稿者のメイワです。今日は巷で有名な呪われた自殺者の葬式場の目の前まで来ています」

 ふざけたことを抜かす馬鹿がカメラにピースをして笑っていた。


 その瞬間僕の中にあるナニカが音を立ててちぎれた。


「おい。お前ら何をしている」

 僕は自分でも驚くほどに恐ろしく低い声でそう告げた。


「お。喪服に身を包んでいる人発見。では早速取材をしていきたいと思います。ええ、呪われた自殺者が死んで君の身の回りで何かおかしなことはありましたか。というかあったでしょ。ねえ?ねえ?」

 ヘラヘラヘラヘラ不愉快に笑いながら俺にそう詰め寄って来る。クソッタレタクズ共。

 ああ。何だろう。こいつ等は。本当に心の底から不愉快だな。

 喋れなくなるまでボコボコにしてやろうか。そう思っていた時だった。


「何をしているだ。お前ら。そういう迷惑行為をするのなら警察を呼ぶぞ。サッサと失せろ」

 アイツによく似たオッサンが顔を真っ赤にしてそう、怒鳴った。

 いや。違う。よく似たオッサンじゃない。多分アイツのお父さんだ。あれだな少し痩せてるな。まあ、無理もない。息子が自殺して挙句、謎の怪奇現象が起き、そして今みたいな迷惑な輩に多分ずっと絡まれてるだろうからな。


「申し訳ございません」

 僕は気が付いたら土下座をしてた。

 土下座をするつもりなんて無かった。謝るつもりもなかった。だけど。だけど。僕はアイツの理解者になれた、僕はアイツの自殺を防げた。その可能性を持った人間だった。

 アイツが死んだのは僕のせいではない。あのクズ共のせいだ、でも。それでも僕はアイツを救える可能性があったにもかかわらず救えなかった人間だ。

 だから、土下座をした。

 謝った。

 別に僕が謝っても何にもならないのは分かっている。

 どうしようもないのは分かっている。でも、少しやせ細り、怒りに拳を震わせ、涙をこらえてる。アイツのお父さんを父親を見た瞬間、謝ろうという気持ちが湧いてしまったのだ。


「急にどうしたのですか。大丈夫ですか」

 僕がいきなり土下座をするものだから、訳も分からずにそう優しく言ってくれる。

 ああ。凄く優しい人だな。

 ・・・伝えなければいけないな。遺言のことを。それは僕のやらなければならない義務なのだから。

 でも。その前に二つやらないといけないことがあるな。一つはアイツのお母さんも一緒に聞いてほしいという事、二つ目は今僕の土下座を撮って笑ってるクズ共に制裁を与えることだな。


 僕は土下座をしている状態でクズ共の霊力と生命エネルギーを一気に吸い取った。

 命に別状はないが。数か月は倦怠感が残り続けるレベルで吸い取った。吸収した。


「急に具合が悪くなった」

「お前もか。俺も急に」

「これって、まさか呪いじゃ」

「馬鹿言うんじゃねえ。そんなもの存在するわけ」


 パン


 そして僕は霊力を使い土下座をした状態で一切触れることなくカメラを爆発させた。

 霊力をカメラの中に吹き込んで爆発させただけ。超簡単だ。


「うわあああああ」

「カメラが壊れた」

「まさか。本当に呪い」

「このままいたら死ぬんじゃ」

「逃げるぞ」

「ああ、逃げる。怖い怖い怖い。助けてくれ」


 そうして倦怠感に襲われているはずなのに。クズ共は大慌てで走って逃げていった。


「今のは一体」

 まあ、そうだろうな。でも好都合だ。


「信じて貰えるかは分かりませんが私は霊能力者です。そしてアイツから。貴方の息子さんから遺言を授かりました者です」

 僕は土下座をした状態でそう言った。


「遺言ですか。分かりました。貴方の言葉を信じましょう。取り敢えず何があったかは分かりませんが顔を上げてください」

 そう言ってくれたので顔を上げる。


「それでは。こんな外では何ですし。中に入ってください。それに遺言でしたら妻とも一緒に聞きたいので」

「分かりました」


 そうして。アイツのお父さんに案内されて中に入り、待合室に案内される。

 そこにはアイツによく似たオバサン否、お母さんがいた。


「どうぞ。おかけください」

「あ、はい。では」


 そうして僕はアイツの両親と向かい合わせで座った。


「あのう。こちらの方は」

 アイツのお母さんから当たり前の質問が飛んでくる。それはそうだ。


「私は小学校の時の先輩です。今は高校二年生で関りで言えば掃除場所で一緒だったというくらいですが。いつも真面目に掃除をしてくれたのをよく覚えています」

「そうですか。それで今日はわざわざお見舞いに来てくれたのですか」

「はい。それもありますが。今日はお二人に彼の遺言をお伝えに来ました。まず初めに信じて貰えるかは分かりませんが。私は霊能力者です。そして死者の霊を見ることが出来ます。もちろん全部の霊を見れるわけではありません。ですが彼が自殺したその日。彼の霊と出会いました。そして彼に遺言を託されました。それを今日はお伝えに来ました」

「分かりました。貴方の話を信じましょう。夫も信じているようですし」

 そう言った二人は手を固く握っていた。


「ありがとうございます。では。遺言をお伝えします。霊となった彼はお二人に、【ごめんなさいと今まで育ててくれてありがとう】と言ってくれと僕に告げて成仏しました」


「そうですか。そうですか。う。ううう。そうですか。そうですか。ごめんなさいと今まで育ててくれてありがとうですか」

「ああ。そうだな。そうだな。でも凄くらしいな。そうか。そう言って成仏したのか」

 二人は泣きながら息子の死を悲しむように抱き着いた。


「あのう。ありがとうございます。遺言を伝えてくれて」

 二人がそう言って俺にお礼を言ってくる。

 お礼。お礼なんて言われるのは少し間違ってる気がした。それでも。僕はその言葉を真摯に受け止めて頭を下げた。


「あのう。これ少ないですが」

 そう言って僕は用意していた100万円の封筒を二人に渡す。

 100万円。自分でもおかしな金額だとは思う。香典にしては明らかに大きすぎる。ただ、これは罪滅ぼしでもある。僕は死霊となり怨霊となったアイツを吸収して自分の力としたのだから、その罪滅ぼしだ。


「こんな大金いただけませんよ」

「いや。いいんです。貰って下さい。それに私はこれでも超能力者です。お金は持ってる方ですので」


 ・・・・・・・


「そうですか」

「では。私はこれで」

「あ。あのう。本当にありがとうございました」

 そう言って二人が頭を下げてくれる。


「こちらこそありがとうございました」

 僕はそう言って頭を下げて葬式場をあとにした。

今回の話は私のリアルの方で元ネタがあります。

あまり詳しいことは言えませんが。まあでもリアルで知り合いが自殺したとかそういう重たい感じではないので安心してください。いやまあ重たくないとも言いきれない話なのですが。流石に個人情報的にもアウトですし。やめときます。

はい。すみません。

完璧に自己満足でこの自殺物語は書きました。

次回からは普通の感じでやっていきます。たまに私の方のリアル経験混ざった。重めの話来るかもしれませんが。まあ許してください。

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