ラストダンジョンに人生の終着点を求めるのは間違っているだろうか
ジョサイアが断罪劇という茶番に付き合っていた頃、サックウィル学園とは真反対に位置する学園にてミディアは業務員に問いただしていた。
「どういうことなの」
「すいません。事件の概要は全く把握できておりません。情報が錯綜しておりますので、事態の収束を待ってから――」
「もういい」
素っ気ない態度でミディアは踵を返す。
無表情だが、彼女の周囲に激情を示すかのように火の魔素が燃え滾っている為。
周囲の人々は自然と彼女から距離を置く他なかった。
ミディアの元に届いた情報では『ジョサイアがE王国の王命違反を犯したとして連行される』というもの。
心当たりはなくもない。
W国滞在期間中、E王国側がジョサイアの実力を知っていた。
故に、権威を使って彼を引き込もうと目論んでいるのではないかと、ミディアは予測する。
であれば、大人しく従う理由はない。
A帝国時代で散々酷使されていたジョサイアが、また別の国で二の舞を踏むなんてことは。
再び、ミディアがサックウィル学園まで飛び立つ寸前。
ミディアの周囲に立ち込めていた火の魔素が、急激に活性速度を低下させていく。
自身の動きにデバフがかけられているのを察したミディアは、魔素の活性を早め、デバフ補正を付与する闇の魔素を取り払った。
『相変わらず脳筋なやり方をする』
影の中から呆れた声が響く。
ミディアが身構えて、周囲を警戒した。
「ガルダ! 邪魔するなら本気で殺す」
『殺しはI連合じゃ犯罪だぞ。言っておくが、今回の件、E王国は関与していない。全て俺の仕事だ』
「……つまり、あのアホ怪盗の仕業??」
『この日の為に幾つか策を講じていたのが、あっけなく楽に済んだだけの話だ。……今回は特別に元A帝国の同期として情報を提供してやる』
「何それ」
ミディアは決して警戒を解くつもりはなかったが、剣の構えと火の魔素を充満させることだけは怠らない。
対して、姿のない声の主――ガルダは愚痴を吐くように話した。
『ジョサイアをE王国に送り込む。こいつは存外簡単な依頼じゃない。お前も知っているだろうが、E王国は他種族との交流は傀儡のW国を通じて行う。国際交流に力を注いでいるようで、間接的だ。決して他種族をE王国本土に入国させない』
「……先輩をE王国本土に入国させる?」
『そう、唯一。人間など他種族をE王国本土に入国させる……させなくてはならない手段は一つ。国そのものに関わる事態、今回のような王命違反などの真偽確認の為、証人をE王国本土に召喚し裁判を行う事だけだ。他国だと情勢次第じゃ対応は違うだろうが、少なくともプライドだけは一人前なE王国の場合は自国で取り仕切らなければ気が済まない。自国の王命に関与するなら、な』
少し冷静になってきたミディアは「まさか」と薄々気づく。
怪盗R……ランディーが災害指定武器の封印を解いたり、天変地異を引き起こしたりと妙な試行錯誤を繰り返しているのは何故だろうかと気にも留めなかったが。
今回の、どうしてもジョサイアをE王国へ一種の刺客のように送り込む魂胆なのは
「先輩にE王国の結界を作って貰う為――だったら、ホントふざけてる」
『半分正解だな』
「何が間違ってるの。アイツは『ディザイア』と同じ事をするつもりの筈」
『それも半分正解だが』
ガルダが自棄に言葉を濁していたが、いよいよ本命の内容をぶちまけた。
『……なあ、ミディア。W国とE王国はほぼ隣国だ。つまり、もう俺と奴は事前に視察をした』
「………」
『視察をした上で俺も評価するが――ザルだった』
「流石に嘘」
『嘘だったら良かったんだがな』
「………嘘でしょ」
ガルダの声だけでも冗談ではないと感じたが、ミディアも俄かに信じ難くてそう復唱する。
ただ、ガルダは何とも言えない声色で言う。
『決してエルフの魔法陣が劣化した訳じゃない。それだけは言える。だがな。それよりジョサイアの知識の方が上だ。そして、奴から教わった俺やお前、俺の依頼主からすれば「ザル」になる。皮肉なもんだ』
つまり、ランディーに対抗できるのは最早、ジョサイアのみという事になってしまった訳だ。
『俺の依頼主はしばらく修行として、あちこちの魔法陣を崩したりするらしい。時間の猶予はある。それまで何とかしろ、とジョサイアに伝えておけ』
最後まで聞いてミディアは「これ伝言の仕事?」と突っ込んだが、もうガルダの気配は消えていた。
次回で最終話です




