屋根裏の道化師
某所の廃墟。
ランディーが拠点にしているそこで、災害指定武器スリンゲルラントことルラが腕を組んで言う。
「して、どのような手で侵入してみせるのじゃ」
すると、ランディーがケロリとした態度で
「いや? 学園内部には侵入しないけど??」
と返答するものだから、ルラはあんぐりと口を開いて数秒、慌てて怒声を上げる。
「な、なんじゃと!? 混乱を楽しむ為に紛らわしい予告状を送ったのか! 貴様!!」
「あ~……順序よく説明しよっか。まず、ガルダのおっさんに依頼してたっしょ? 色々。その中の一つが――コレ」
ランディーが取り出したのは歪な形状になっている紙。
それも手紙サイズの用紙。
ルラは興味深く観察すれば丁寧な筆跡の文体で、どれも長々と綴られてあるこれは……
何故か、読んでいる彼女の方が火の魔石のように赤面した。
「こ、これはっ、ラブレターではないか!?」
「そうそう。エカチェリーナがジョサイアに送ってた奴」
「なななな。どうやって手に入れたのじゃっ」
「灰の中から?」
「灰じゃと……!?」
ランディーがガルダに依頼していた案件には、当然『サックウィル魔術学園』の調査も入っていた。
A帝国出身者の気質ゆえか、ガルダは灰もそうだが、粗大ゴミから生ゴミまで情報に繋がりえる材料は徹底的に掻き集めた訳だ。
灰から元の形状を復元するのは根気のいる作業で、ランディーのように複数の魔法を行使できる者、あるいはそういった人材が豊富な環境でしか難しいだろう。
復元魔法の工程は割愛するとして、ルラが一つの疑問を抱く。
「エカチェリーナからジョサイアに宛てたものばかりじゃ……逆のはないのか?」
「確実に彼女が保管してるっしょ。そう考えると、エカチェリーナはジョサイアにガチ惚れなんだろうなぁ。好きな奴からの手紙って手元に残したいじゃん?」
「ま、まあのう。……すぐ燃やすなど、ジョサイアの方が辛辣ではないか」
「はっはははは! そういう奴だから!!」
だが、ちょっとした証拠を入手したところで、一体どうするのか。
ランディーは復元した手紙を手に説明する。
「俺がやるのは予告状を出す事。そして、これをバジーリに送りつける。それだけ」
「いや、意味が分からぬ。それで何がどうなるのじゃ」
「学園で何かが起きれば、それは自動的に俺の仕業になるだろ? つまりチャンスって奴」
「バジーリが貴様の仕業に見せかけて何かやるのを祈るのか? エルフの彼奴なら魔法陣崩しは出来るかもしれんが、他力本願にも程があろう」
「違う違う。もし、俺が侵入したかもしれないって騒ぎになったら警備隊が学園内を強制調査する訳。エカチェリーナもジョサイアも、第三者の調査を下手に操作できない状況に置かれる。それがチャンス」
「フム……?」
いまいち釈然としないルラ。
彼女は悪い意味で流れというのを理解できていないのだろう。
ランディーが続けた。
「仮にそこで別の悪事が露呈したら、それもまた取り上げられるってこと。例えば――機密文書が盗まれたかもしれないってなったら、どれが盗まれたか。念の為、他の機密文書も盗られてないか確認するんだよ」
「そうじゃな」
「勿論、中身も調べる訳だけど……文面を確認したら職員の横領が発覚しました。これはこれでまた問題ですよね?」
「まさか! バジーリはジョサイアに横領の冤罪を被せ、追放するつもりとな!?」
「さぁて? 今のはバジーリがエカチェリーナをどーしても欲しいから邪魔者を始末する計画その1的な想像。実際はどう出るかはバジーリ次第って事で。復元手紙をガルダのおっさんに頼んでバジーリが雇ってる情報屋に流す。俺の仕事は以上」
「……これは侵入ではなかろう」
「いやいや、他人の三角関係にどうどうと関与するのも、一種の領分の侵入だろ?」
んな訳あるか! とルラは突っ込んだが。
ちょっとしたランディーの『侵入』が突拍子もない騒動へ発展するとは、双方共に想定外だった。




