想像が足りないよ
冷静ではないバジーリからの説明によれば、崩されたのは重要機密文書の魔法陣らしい。
学園における重要機密文書
在学中の貴族(生徒)の個人情報――所謂ステータスの詳細。
学園の資金繰り表。
教職員全員の個人情報などなど……
いや、割とシャレにならない情報を盗み出された可能性が高い。
……高いのだが、これがどうにもランディーの仕業には思えなかった。こんなもの盗んでどうするんだ?
ひょっとして、エルフの魔法陣を解いてみたかった。って短絡的なもんじゃ……ありそうだ。
否定できない。
「いやぁ、エルフの魔法陣を突破するなんぞ。流石は……というのは、よ、よろしくありませんな? 不謹慎……」
ゼッキロが気まずそうに言う。
エカチェリーナとバジーリを除く教員はサロンに集められていた。
緊急招集ではなく、現在、学園内で警備隊が調査を行っている。俺達は避難兼監視状態な訳で、サロンの外には上級魔術師の警備が取り囲んでいる。
生徒ら、他職員も各々、警備隊が隔離し、監視状態である。
ニャンナとリッカルダは不安を隠せない表情を浮かべていたが、エドガルとダルマツィオは自棄に険しい表情を浮かべていた。
ドワーフのエドガルだが、同じ土魔法を使う身故に懐疑的な態度をする。
「エカチェリーナ学園長の魔法陣が解かれるとは思えんがね! 彼女の実力はE王国のお墨付きなのだぞ。数年程度、魔法を齧った程度の若造にどうこう出来る訳がない!!」
ダルマツィオは異なる側面で悩ませていた。
「第一、どうやって侵入したのだろうか。ここ最近、俺も学園内を警戒しているが不審な気配はない。ましてや貴族の『影』による監視すら掻い潜ったとは」
正直、魔法陣崩しに関してはランディーの職業『道化師』の器用さが相性良すぎて問題ない。
問題なのは、侵入経路だ。
貴族の『影』に、エカチェリーナの杖の花。それらの防犯網に抜け穴があるとは思えなかった。
なんらかの手段を用いて侵入したのは間違いないが……
クソ……こういう時に限って思いつかねえ! 発想力が欠如してやがる。
ランディーだから、変に小細工だとか小難しい方法は使わないだろう。
何より侵入経路が謎すぎる。これは……他の連中も考えている筈。犯人、いや共犯者が学園内部にいる可能性を。
消去法で真っ先に疑われるのは、俺だ。
まあ、俺は犯人じゃないが。俺視点怪しいのは第一発見者であるバジーリになるがな。
奴なら魔法陣崩しは恐らくできる。
魔法陣に精通しているのは、ゼッキロも同じだが、魔法陣崩しは器用さを求められる為、相応に高度技術である事も加味すれば分があるのは、やはりバジーリ。
ただ、奴がランディーと協力関係になるのか。単独犯であっても、どうしてこんな騒動を起こすのかが不明だ。
そうして思案していれば、ニャンナが外の様子に気づく。
「にゃにゃ? 生徒の皆さんが解放されたみたいですよ……??」
中庭にチラホラ生徒の姿が見られたかと思えば、警備隊の代表者がサロンに入り、一礼すると「皆様、捜査にご協力頂きありがとうございます」とあっけない程に解放されて、全員が狐に包まれたような気分になった。
訳が分からず、リッカルダが問う。
「あの。事件は解決した訳ではありませんよね? 何がどうなったのかご説明して頂けませんか??」
これに対し警備隊は表情を崩さずに応える。
「詳細はエカチェリーナ学園長が全校生徒を含め、皆様にご説明をするとの事です。我々はこれ以上の滞在は不要ですので、これにて」
……おい、まさか内輪揉めな内容って事か?
おいおい……本当にまさかだろ??
その時、俺の視界でチラリと光が見えた。この独特の淡い感じは……『キュア』?




