宗教勧誘は間に合ってます…(後方クソ神的な意味で)
「この度は突然の訪問、誠に申し訳ございません。しかし、これは紛れもない事実なのです」
エカチェリーナでさえ「はぁ」と漏らし困惑しそうなのを隠せない。
何を言おう、眼前のコイツらは如何にも正気な主張をするが、俺達からすれば正気とは到底思えない。
スタンピードの収拾を終えた俺がエカチェリーナに学園長室へ召喚されると、そこには奇抜なビビットピンクのマントを羽織った男女数名の集団が。
コイツらは……P国の使者。
まさかP国と関りを持つとは――いや未来永劫関与すると思いもしなかった。
P国は面倒くさい宗教国家の一つ。
数百年前までは神性P帝国であり、当時、相当の財力と権威があったのだが最早過去の栄光。熱狂的な思想を広めようと他国へ侵略を繰り返す内に内部分裂やら四方の国家から袋叩きされ、離散。
地図上において雀の涙ほどの規模まで萎縮してしまった。
まだ、過去の栄光に縋った老害が蔓延っていて他国らは国際交流を控えめに無視を決め込んだ無法地帯国家……と。歴史云々はどうでもいいか。
問題は何故コイツらがここへ訪ねて来たのかという事で――
「先程の戦いを拝見し確信しました。ええ、私の祖父から聞かされた通りの魔法の行使! 光の使者の一角……『ヨラナ』様。こちらの御方、ジョサイア様は『ヨラナ』様の化身で間違いございません」
「はぁ」
ついにエカチェリーナがエルフらしい強面のまま、溜息を漏らしてしまった。
コイツらのいう『ヨラナ』は俺も知っている。
『ホーリー』を会得した数少ない光魔法の使い手の一人。
ただ、ヨラナは治癒行為で疲弊しきってて絶体絶命の状況下で取得した『ホーリー』でモンスターの大群を消滅、彼女は力尽きた。
伝説の聖女として祀られているが、現実的かつ客観的に見ればブラック職場で過労死。
彼女の死は決して名誉の死なんて持ち上げるべきじゃない。
コイツらは俺が『ホーリー』を会得しているから、俺を神の御使いとなった『ヨラナ』様の化身だって設定にしたいらしい。
光魔法の使い手が死後、神性を与えられて転生?いや神の僕的なものが化身か?神の分身だっけか?……宗教の知識はサッパリだ。
とにかく、だ。
「彼には使命がございます! 神の化身は暗雲立ち込める現世の道標となる存在!!」
俺が余計な情報を省いて、簡潔に言う。
「要は俺にP国へ来てくれって事ですよね」
「ええ! そうです。流石、ご理解が早い!!」
向こうは話に食いついてくれたと目を輝かせてくるが、俺は告げる。
「あの。『ヨラナ』という光魔法の使い手は存じていますが……彼女は『治療師』でしたよね? 巷では『聖女』の異名がありましたが職業上は『治療師』だったとか。……私は『魔術師』なのですが」
「………へ?」
向こうは一気に熱が冷めた様な雰囲気が漂う。
その内の一人が慌てて反論した。
「で、でも光魔法の治癒魔法は『魔術師』でも可能ですよね!?」
「申し訳ございませんが、私を『ヨラナ』の化身として持ち上げるには無理があるかと。並の『治療師』の回復力より断然劣りますからね、現代の平民は誰も騙されませんよ」
嫌味と皮肉を込めて連中の目論見を指摘すると、あちらはキレて学園長室にあった物を俺に投げつけるわ、暴言を吐くわで暴れまくった。
「ふざけるな」だの「こちらを騙したのか」だの。
ちゃんと俺が『治療師』ではないと調べられなかった自分達の落ち度だろうに。
物はエカチェリーナの魔法を受け止め、P国の連中は瞬時に転送された。
エカチェリーナの魔法は『土』。
鉱物の硬化は鉱石系、金属類――とくに剣や盾などの手入れに使用されるのがもっぱら。
主に防御魔法を中心に会得するが、最終的に空間魔法まで発展する。
奴がやったのは、土の上級魔法『テレポーテーション』。
『配達員』の転移の上位互換。生物だけではなく周辺の微細な粒子すら思い通り……にはいかず。
土の受け流す特性を利用している為、ここから離島や上空、海上などには飛ばせない。
恐らく、連中は学園外へ……もしかしたらI連合国の国境付近まで飛ばされたのかもしれない。
それはさておき。
「あの、何故彼らをここへ? また面倒事になりかねませんよ」
俺の疑問にエカチェリーナは冷静に返答する。
「彼らは光魔法の使い手を勝手に『化身』や『使徒』扱いする傾向にありますから、ジョサイア先生があのように否定して頂ければと今後、彼らはジョサイア先生を利用することは無いでしょう。全てジョサイア先生がそう対処できると考慮したうえでの判断です」
ヘイト的な意味で悪用されそうなんだが……
俺の不安を他所に、ノックも挨拶もなしに扉を乱暴に開いたのはバジーリだった。
奴に気づいていただろうが、流石の態度でエカチェリーナも「何事ですか」と険しい表情するのを無視して怒り心頭のバジーリがエカチェリーナを殴ったのだ。
「は? 何やってんだ!?」
あまりのことに俺は礼儀も忘れて言葉を出してしまった。
いくら、傲慢なコイツも堂々と暴力はかまさなかったのに。殴れた反動で倒れたエカチェリーナもこれには、目を見開いていた。
俺の存在を度外視しているのか、それ以上に感情へ身を任せているのか。
バジーリは震えるような怒声で何かを叩きつける。
「あの義賊モドキに貴様の魔法陣が崩されたぞ……! どう責任を取るつもりだ!!」
「――何ですって?」
あのエカチェリーナが驚愕を隠せずにいた。
やはり、エルフの端くれ。自身の魔法陣が突破された事に動揺している。
が、それは俺も同じ。
(ランディーが侵入した……? 一体いつのことだ??)
俺ですら気づかなかったからだ。




