ネタは、自分とは無関係だからこそ炎上する
ゼッキロが自室にて溜息をついていた。
「はぁ~憂鬱ですなぁ。まーだ、新聞社の連中が校門前で待機しているとか。大体、予告状がイタズラも一理ありますぞ? それとも連中は暇人なのですかな」
同じくして、ゼッキロの自室に招かれていた俺は魔法陣を描き続けながら返事をする。
「暇人ではないでしょう。近頃は、ダンジョンの活性化に政治情勢や冒険者のスキャンダルばかり……つまり、話題不足ですよ。怪盗RがI連合国で活動するのを取り上げる事で、マンネリ化を解消させたいのです」
「マンネリ?」
「あー……新鮮味に欠けるという意味です」
この異世界にはマンネリって言語はなかったか……ってのは、どうでもいい。
ランディーが本気でここに侵入しようとしているのか?
俺は本気だと確信がある。
ガルダを雇っているなら、奴の腕を知る俺だからこそ、俺がここに配属された事がランディーに把握されているのは承知だ。
興味本位で来るのか? わざわざ俺に会いに??
来る。
恐らく、そういう奴だからだ。
エカチェリーナはエカチェリーナで防御魔法陣を調整して、生徒を警護・監視する『影』も警戒する中。
学園内も生徒達が怪盗Rがいつ、どうやって侵入するのかと謎の期待を抱いていたり。
芸術科担当のエドガルは、学園内にある貴重な芸術品が盗まれると不安を募っていた。
俺がどうしているかと言うと、ゼッキロと共に魔法陣の製作に勤しんでいた。
怪盗R……ランディー対策の魔法陣でもあるが。
他にも色々と手は打ってある。
魔術科担当のダルマツィオだが、ああいう肉体系でも魔術師としては優秀だ。
つまり、ランディーとタイマン戦に持ち込めば確実に有利を取れる筈。
そう。ランディー……奴の職業である道化師は、手先の器用さは一丁前で魔法陣崩しが容易なのは当然として、真っ向勝負は不得意に入る。
小細工を駆使してモンスターを討伐していたように、侵入して『影』の連中相手にも小細工を使う。
ランディーがどれほど小細工を使いこなせるかは定かではないが、小細工で持久戦には持ち込めない。
何より、ランディーは魔力を小細工で補わなければ、何時ぞやのダンジョンの時のように『魔過痛』でダウンする可能性だってあるのだ。
流石に、それを考慮しないほど奴は馬鹿じゃない。
俺は一つゼッキロに尋ねる。
「ところで……ゼッキロ先生。俺の寿命の方は、どうですか?」
「凄いですぞ、ジョサイア殿。一歳ほど延びてる!」
「まずは一歳ですか」
「いやいや! この短期間で一歳延びるだけでも十分っていうか、相当異例ですぞ!?」
「いえ、これから様子見をしていかないと安心はできません」
成果があったとは言え、油断はできない。
そこへ突如、激しく扉を叩く音が。リッカルダが血相変えて、何故かここへ来たのだ。
何事か。ランディーの侵入か?
いや、俺もエカチェリーナに許可を取って、学園内に杖の花を飛ばして警戒中で、それに奴の反応は引っ掛かっていない。
が……リッカルダの登場と共に『キュア』の魔法を展開している、俺の手元にあるヘルコヴァーラの杖に咲いている花に反応があった。
嫌な予感しかしない奴だ。
ゼッキロも、おっかなびっくりな様子で物陰に隠れ、俺も杖を取ってリッカルダに尋ねる。
「どうされましたか。自由時間とはいえ、このような時に……」
「す、すみません。少々大変な事になってしまい……まして……学園長は明日、対応されると仰りましたが……ジョサイア先生。その、怪盗Rが貴方の教え子であるというのは……事実なんですか?」
おい、『キュア』が反応したのはそっちの悪寒かよ……
それを把握しているのはW国にいた奴ら、E王国関係者……もしくはランディー本人からのネタか?
ゼッキロは慌てて「拙僧は何も!?」と否定している。
リッカルダの焦りようと話の内容から、大体を察して俺が口を開いた。
「……ええ。事実です。それを承知の上でエカチェリーナ学園長は、私を採用して下さったのです。……一部の者は存じていた話ですが、どうやら公に広がってしまったようですね」
リッカルダは浮かない表情で「はい」と言う。
「ジョサイア先生は何も悪くありません。偉大な魔術師の方々の教え子も、必ずしも才能を開花させたり、善良であった訳ではないのですから……ですが」
「私と彼に繋がりがあるといった根拠なき陰謀論が始まっているのでしょう? 大体、想像がつきます」
「……はい」
成程。
一連の騒動がランディーの仕込んだ話か、あるいはW国の連中などがバラしたのか。
『キュア』で判明するかどうかは、後にして現状が最悪だ。
第一、マスコミに把握されてるようじゃ、俺の今後の人生も最悪の展開が続く。
汚名返上するってなら、俺自身がランディーを捕らえる事だけか。
……どうでもいい。
心底、本心からどうでもいい。
俺の活動範囲は結局、学園内の箱庭程度じゃ一か月程度しか保てなかった。
冒険者をやり続ける意味もないとすら、最近は感じている。
世間から迫害される程度なら、全然マシだ。牢屋にぶち込まれる大罪とまでにはならない。
本音を隠して、俺はリッカルダに言う。
「私が彼を捕まえる……そうすれば全て解決できますよ」
あの馬鹿は一体何を考えているのか。それは分からないまま。
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